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【レポート】新倉瞳(チェロ)&佐藤卓史(ピアノ) クラスコンサート at 上田市立豊殿小学校

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会場
サントミューゼ

2021年1月27日(水)

 

3月13日(土)のデュオ・リサイタルを控え、1月の最終週から上田での活動をスタートさせたチェリストの新倉瞳さんとピアニストの佐藤卓史さん。1月24日(日)のアナリーゼ・ワークショップに続き、27日(水)に豊殿小学校でのクラスコンサートを開催しました。対象は5年生の児童たちです。

 

音楽の先生が「豊殿小の音楽室は響きがいいとのことですので、楽しみですね」と話して、おふたりを迎えます。

 

子どもたちの拍手で迎えられたおふたりは、エルガー「愛の挨拶」を演奏します。誰もが一度は耳にしたことがあるこの曲は、エルガーが妻にプロポーズする時に作曲したものです。

 

自己紹介したおふたりは、「エルガーはイギリスの作曲家で、次はフランスの作曲家の曲です。ある情景を描いているので、想像してみてください」と言うと、演奏に入ります。

演奏が終わったところで、子どもたちにどんな情景かを尋ねます。ヒントは「ある動物」。

ひとりが手を挙げて「フラミンゴ?」と答えます。「近い!」。正解はサン=サーンスの「白鳥」でした。新倉さんは、「音楽は、今の『白鳥』のように情景を描くこともできるし、1曲目の『愛の挨拶』のように人の気持ちをメッセージとして乗せることもできます」と説明します。

 

 

また、続く「チェロとピアノはどういう楽器なのか」というレクチャーでは、

「チェロは何をするための楽器か分かるかな?(・・・しばらくの沈黙・・・)正解は伴奏をするため、他の楽器を支えるために生まれました。ヴァイオリンだけでは踊りにくいということで、伴奏のためにチェロが生まれたんです。昔はこの支える棒(エンドピン)もなくて、脚で挟んで抱えていました」と、エンドピンを外しながら新倉さんが解説します。

 

「ここの音楽室は木の床なので、チェロの音の振動がみなさんにも伝わっていきます。これはホールではできないことなんですよ」と言い、その振動を体感してもらうために、バッハの無伴奏チェロ組曲の一部を演奏します。この曲は、旋律と伴奏を1本で縦横に表現してチェロの新境地を切り拓いた楽曲で、低音が鳴ると心地良い振動がひときわ伝わってきます。

また、ピアノは中に張られた約200本の弦をハンマーで叩いて音を出すことから、実は弦楽器であるチェロと共通点があります。

 

 

 

新倉さんが、「今は新型コロナウイルスで旅をすることが難しいので、代わりに音楽で旅をしましょう」と言うと、トルコの曲の演奏が始まります。

タイトルは、トルコの都市名を冠した「アンカラ」。ファジル・サイというトルコ人作曲家の手によるチェロ・ソナタ「Four Cities(4つの都市)」の1曲です。

「ドーン、ドーン」

ピアノの弦を手で押さえながら、ペダルを踏みつつ鍵盤を叩くことで、まるで石切場で木づちを振るうような、もしくは銃声のような音が表現されます。そこにチェロの不協和音が入り込み、徐々に哀愁を帯びた旋律へ移行していきます。モヤッとした響きに包まれたピチカートのようなピアノと、チェロのピチカートが絡み合う不思議な音色。最後は突然大きな音で締めくくり、びっくりしている子どももいました。まるで戦争を表現しているかのようです。

 

さらに、チェロ・ソナタの曲が続きます。「今度は夜の街でとある事件が起こる様子が描かれているので、イメージしてみてください」と佐藤さんが紹介します。

ジャズの旋律を奏でるピアノに、ウッドベースのようなチェロ。思わず体が揺れる曲想は徐々に盛り上がり、佐藤さんが楽譜をめくる音すらも楽曲の一部のように聴こえます。サクソフォーンのようなチェロのいななき。そして、ピアノとチェロのスリリングな掛け合い・・・

演奏が終わって子どもたちに何を表現しているか尋ねると、「どなり合い?」「ケンカ?」という答えが間髪入れず返ってきます。人間模様すらも音楽で表現できることがしっかり伝わったようです。

 

 

 

ここで、三択クイズが出題されます。これから演奏するフォーレの「シシリエンヌ」。この曲名の意味を選ぶクイズです。

演奏後、おふたりが選択肢を用意します。1番目は「料理」の名前、2番目は「踊り」の名前、3番目は「好きな人」の名前。正解は・・・・・2番の「踊り」でした。シシリエンヌはフランス語で、イタリアではシチリアーノ、つまりシチリア島の伝統的な舞曲を指します。地中海に浮かぶシチリア島らしく、海の波が寄せては返すようなイメージがピアノで表現されています。

 

 

そして最後の曲は、南米アルゼンチンに飛んで「リベルタンゴ」です。タンゴ独特の奏法で、チェロのボディを打楽器のように叩いたり、キュイキュイと弦を鳴らしたり、チェロの新しい顔が垣間見られます。情熱的でたっぷりとした抒情をたたえたピアソラの名曲で盛り上がったせいか、演奏後は子どもたちから感想や質問が次々に飛び出しました。

「いろんな曲に合わせた表現が素晴らしかったです」「初めて聴いた生演奏がおふたりの演奏でよかったです」「チェロの値段を教えてください」「僕もチェロを弾いてみたいです」。

子どもたちの言葉に笑顔で頷きながら答えた新倉さんと佐藤さん。おふたりが去ったあとも、音楽室は温かい空気で満たされていました。