上田市内高校生に向けた舞台技術講座
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- サントミューゼ
見て学び、体験して覚える「サントミューゼ」舞台技術講座
上田市内の演劇班の高校生を対象にした舞台技術講座を開講しました。
参加者は、丸子修学館高校、上田千曲高校の演劇部メンバーなど、計8名。講師はサントミューゼ舞台技術監督の馬場道雄監督で、サントミューゼ舞台技術スタッフたちが講義をサポートします。
今回は、馬場監督がつくった物語のシチュエーションに沿って舞台をつくりあげています。
テーマは「地方の波止場」。高校卒業を迎える18歳の青年が、大学進学を勧める漁師の父親に対して「都会に行かずに、苦しい環境を打破すべく地元で漁師の跡を継ぐ」と伝えるシリアスな夜の場面です。
これをみんなでつくりあげ、参加者は照明と音響などの舞台技術を体験します。
まずは馬場監督から「舞台転換は短時間なので、忙しいことを考慮しながら作品が目立つような舞台装置を考えないといけません。その際に、重いものは無理をせず大勢で持ってください。ケガをすると学校にも迷惑かかり、ご家族が悲しみます。」と伝えられます。
そんなことを念頭に置き、早速、舞台づくりのスタートです。
まず、舞台スタッフがアクティングエリア(役者が演じる空間、範囲=舞台)を設置します。
これはバレエマットなどを使用し、この上で役者さんたちは芝居をします。踏みながら伸ばしていきますが、舞台上では寝転がる演技をすることもあるので土足はNG。
続いて、最低限必要なところにのみ釘を打ちます。釘を打ちすぎるとかえって危ないため、今回は4カ所に釘打ちをします。そして、役者がシートにつまづかないように周囲にテープを貼って固定していきます。この際、シートの周りは粘着力が弱いテープ、シート同士は粘着力が強いテープを貼ります。弱いテープを貼る理由は、テープをはがした際に、舞台の塗装なども一緒にはげないようにするためです。
続いてスチールデッキを使って「平台」の客席をつくります。
「平台」とは舞台上に段差をつける場合に使われる台のことで、時には客席用のひな壇にもなります。参加者は、スタッフの指導のもと、スチールデッキを裏返して足のネジを締めていきます。
締め終わった平台をひっくり返すのは、かなりの力仕事。4人で慎重にひっくり返します。
この作業は、普段高校生は中々体験できない作業で、足の締め具合によって、高さや安定感に影響が出てしまいます。
安全面においても、大変重要な作業の一つです。
次は舞台セットの一部である舞台袖の設置です。
ここでも安全には十分気をつけながら設置します。高さも重さもあり、まっすぐ持たないとバランスが崩れ事故につながります。
スタッフからも「しっかり持って!」と声がかかります。
そして、いよいよ照明の作業に入ります。今回はあらかじめ照明の位置が描き込まれた「照明仕込み図」が配られていました。参加者はこれをもとに、照明の位置を確認することができます。
まずは、夜空の星をつくります。照明器具を吊り下げる「照明バトン」を照明スタッフが降ろし、吊るす照明に段差をつけて星のように見せていきます。
「照明バトンはどの劇場にも用意されているので、星を吊るす演劇をする場合は、照明仕込み図に描き込んでおくと劇場で貸してもらえます」と馬場監督。1つひとつの動きをわかりやすく説明します。
次に、天井に設置されているスポットライトを、ベンチに座っている役者に向けて動かします。照明スタッフのアドバイスを聞きながら、参加者は慎重に動かします。
続いて「作業ギャラリー」に移動して、会場全体を明るく照らす作業を覚えます。「時間がもったいない」という馬場監督の言葉もあって、みんな走って移動です。参加者で半分ずつ上手と下手に分かれ、馬場監督の指示で、ステージ上を明るくして客席側は暗くします。
ステージに戻って眺めると、本格的な夜の情景が完成していました。
続いて、舞台上に青年とお父さんが登場し「大学に行かずに漁師になる」と告げるシーンを演出するために、舞台上の役者ふたりにピンスポットを当てながら「音響」の作業に入ります。
波の音が聞こえ、背中越しに列車が走る波止場の設定です。まずは、音響スタッフが出す音を鑑賞し、次に参加者1人ずつ機械に触れて音の出し方を実感します。
ポイントは、セリフが始まったら波の音を抑え、会話が途絶えると波の音を大きくすること。象徴的に波の音に大小をつけることで「漁師は簡単にはできない」ということを表現します。こうすることで、青年の将来を観客にも考えてもらう効果を生み出します。
音響スタッフの丁寧な指導もあって、みなさん、電車の通過音も流れるようにスムーズに表現していました。
最後に、照明操作卓を使って、地明かりやベンチの照明、月光、星などの明かりをつけたり消したりする操作を体験します。
それと合わせ、暗いシーンのなかで動く役者を追う「ピンフォロー」にも挑戦しました。
今回はバインド線(針金)を使って作った照準器を使いながらフォローをします。照明をつけたり消したりする際は、役者の頭から照明が出入りするときれいに見えるそう。歩いている人には、装置を動かしながら照明を出していきます。
「本来、演劇は芝居を見せるために行うもので、お客様に装置を見せるために上演するわけではありません。音楽も照明も、全て演劇のためにあります。それを意識して舞台美術を操作することが大切です」と話す馬場監督。
最後にこんな言葉を参加者に送ってくれました。
「舞台技術では、いかに安全に迅速に自分たちの舞台をセッティングするかが大事です。その上で、楽しい演劇を創り続けて、社会に出て活躍して欲しい。そうやって地元を盛り上げて欲しい。」
育成を考える真摯な思いが伝わってきます。
さらに、こんな言葉が続きます。
「演劇は非常に複雑な舞台芸術なので、みなさんには学んだ技術を含めて後輩に伝えていく使命があります。みなさんで学校の新しい伝統をつくっていってください。」
コンクールは勝つことだけが目的ではなく、楽しい演劇をすることも大切です。その楽しい経験を通じて、子どもたちには社会に出ても演劇を続けてほしい、と馬場監督は思っていますが、一番の望みは「将来はこの町で『職業』として演劇に携わっていてほしい」ということ。
「そのために、私たちはみなさんを全力で応援します。今日の講義には、そのお願いも含まれています。それでは、よい演劇学校生活を送ってください」
こんな馬場監督の言葉で、舞台技術講座は終了しました。
参加者はこの講座を通じて、舞台技術の知識やテクニックだけでなく、演劇そのものへの考え方にも、いい刺激になってもらえれば、と感じた時間でした。