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【レポート】アナリーゼ・ワークショップvol.57~金子三勇士(ピアノ)~

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サントミューゼ

アナリーゼ・ワークショップvol.57~金子三勇士(ピアノ)

2022年4月22日(金)19:00~20:00 サントミューゼ小ホール

 

 

毎年、初夏に恒例となっているピアニストの金子三勇士さんのリサイタル・シリーズ。5月14日の公演に先駆けてアナリーゼ・ワークショップが開催されました。

 

今回は『 ピアニスト金子三勇士の「今」 原点 × 挑戦 (サントミューゼ編) 』 と題し、バッハ、シューベルト、シューマン、リスト、そしてガーシュウィンと、バロックから近現代の幅広い楽曲が網羅されています。金子さん自身の編曲による版もあります。

 

ステージに登場した金子さんは、客席に一礼してJ.S.バッハの『インヴェンション』を弾きます。

 

 

「ピアニストなのでまず1曲弾いてから」というサービス精神に、お客様の期待が高まります。「ピアノを習った人は必ず1曲は弾いて苦戦する曲集です」と言う金子さん。なぜ今、インヴェンションなのか? 「今日お集まりのお客様だけが知ることができます」と笑いを誘います。

 

2021年度は金子さんの日本デビュー10周年でした。周年企画として予定していた公演がコロナ禍で延期・キャンセルとなり、ショックを受けつつも「これも運命」と前向きに考えることにしたそうです。コロナ禍が落ち着けば、世界はきっと「原点回帰」と新しい時代への「挑戦」に目を向けるだろうと考えた金子さんは、先駆けて自らの原点と挑戦を発信していきたいと考えるようになりました。

 

『インヴェンション』もコロナ禍で不意に空いた時間の中で、久しぶりに取り出した楽譜でした。子どもの頃は

大嫌いだったこの曲集が、なんて美しいのかとまったく違う印象で迫ってきたそうです。左手と右手がそれぞれ独立したメロディなので「ピアニストにしてみれば、寿命が縮まる思い」なのだそう。音の強弱がつけられないチェンバロ向けに作られたため、こういう構造になったのではないかと金子さんは推測します。

 

 

試しに、右手をメロディと想定した弾き方と、本来の弾き方を弾き比べます。確かにまったく違う響きです。バッハらしいロジカルさと規則性が反映された曲集で、聴くほうもついつい眉間にしわが寄ってしまいそうですが、金子さんからは「聴き方のコツは、何にも考えないことです。リサイタル当日は、今日お話ししたことはすべて忘れて、ただ音を浴びてください」と意外な答えが。

 

続いて、古典派のシューベルトの歌曲を元に、ロマン派のリストが編曲した『アヴェ・マリア』。聖母マリアをたたえる祈りの曲です。バッハの時代、音楽はもっぱら教会の中で、神と人間の交信のためにありました。その祈りを反映した厳かで美しい曲です。

 

3曲目はリストの『スペイン狂詩曲』。ハンガリー出身のリストはハンガリーに縁が深い金子さんの十八番でもあります。今回、あえての『スペイン狂詩曲』なのは、ハンガリー、フィンランドと同じフン族をルーツに持つスペインのバスク民族に関係しているからです。La Foliaというバスク民族の舞曲が、当時、ヨーロッパの作曲家の間で流行り、『スペイン狂詩曲』にもそのエッセンスは存分に取り入れられています。

 

シューマンの『献呈』は愛する妻クララに捧げた連作歌曲『ミルテの花』の1曲で、演奏会で聴いて感銘を受けたリストが、帰りの馬車の中でピアノ向けに編曲をはじめたという逸話が残っているのだとか。ピアノ版は最後、シューマンの原曲にはない『アヴェ・マリア』を忍ばせてあり、シューマン夫妻と親交があったリストならではの編曲が楽しめます。

 

最後は、金子さん最大の挑戦であるガーシュウィンの『ラプソディ・イン・ブルー』です。昨年、ジャズ・クラブの「ブルーノート東京」から出演依頼があり、せっかくならチャレンジしたいと、ジャズとクラシックの両方で活躍したガーシュウィンのこの曲を選びます。ピアノとオーケストラの編成で、金子さんいわく「8割ジャズで2割クラシック」の曲です。これをピアノ向けに自ら編曲しました。「終盤に奏者の即興を指示するカデンツァがあります。弾かない奏者もいますが、挑戦してみました」。カデンツァは当日のお楽しみということで、カデンツァに入る直前とカデンツァの後から終曲までを演奏します。色彩豊かできらびやかな編曲と、力強いタッチが印象的でした。

 

 

大きな拍手が沸く中、金子さんは木札のようなものをポケットから取り出して胸につけます。上田市役所の職員用ネームプレートと同じデザインで作られた特別バージョンで「ピアニスト 金子三勇士」と彫られています。「これで新幹線に乗って帰ろうと思います」と茶目っ気たっぷりにステージをあとにしました。

 

5月のリサイタルで金子さんの「原点」と「挑戦」がピアノでどう表現されるのか、とても楽しみです。