【レポート】第1回 サントミューゼ新進演奏家リサイタル最優秀賞・聴衆賞 宮入柚子 ピアノ・リサイタル
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第1回 サントミューゼ新進演奏家リサイタル 宮入柚子 Yuzuko MIYAIRI ピアノ・リサイタル
2022年8月11日(木・祝)14:00開演 サントミューゼ小ホール
「第1回サントミューゼ新進演奏家リサイタル選考会」は、東信地域にゆかりのある若きアーティストを対象として2021年に開催されました。今回、最優秀賞・聴衆賞を受賞した坂城町出身のピアニスト・宮入柚子さんが、受賞を記念したソロ・リサイタルに臨みました。
白いオールインワンの衣装で颯爽とステージに登場した宮入さんは、まずモーツァルトの「きらきら星変奏曲」を演奏します。誰もが知るメロディが彩り豊かに表情を変えるこの曲を、宮入さんはメリハリある演奏で弾き、お客様を魅了します。
続いては、リストのピアノ独奏曲集「巡礼の年」より、「第3年」の4曲目「エステ荘の噴水」。リストが20代から60代の間に、訪れた土地の印象や体験をスケッチするように書き留めた曲を集めたもので、「エステ荘の噴水」は代表作のひとつと評されています。ラヴェルの「水の戯れ」やドビュッシーの「水の反映」に影響を与えたとも言われる曲で、水の流れを想起させるアルペジオがとても印象的です。夏の暑さを忘れる涼やかなイメージに浸っていると、終盤はリストらしいゴージャスな曲調に。宮入さんの厚みのある響きは、聴きごたえ満点です。
3曲目はメンデルスゾーンの「厳格な変奏曲 ニ短調 Op.54」。メンデルスゾーンの最高傑作とも言われる作品です。メンデルスゾーンといえば、ピアノを習ったことのある人なら一度は弾いた記憶がある親しみやすく華やかな作風が持ち味。この曲は、メンデルスゾーンが尊敬していたベートーヴェンの変奏曲に刺激を受けてつくられたもので、重厚な雰囲気を漂わせます。難しさもひときわと言われるこの曲を、宮入さんは情感豊かに奏でました。
曲が終わり、この日初めてマイクを持った宮入さんは、「3曲とも違うエネルギーを持つ曲でした。お楽しみいただけましたでしょうか」と客席に語りかけます。それに呼応するように客席から拍手が送られ、宮入さんはほっとした表情を見せました。
休憩をはさんだ後半はシューマンの「クライスレリアーナ Op.16」。これまた傑作かつ難曲です。曲名は“クライスラーの肖像”という意味で、クライスラーとはドイツロマン派の作家E.T.A.ホフマンの作品に出てくる人物を指します。シューマンはクライスラーに自身を、そしてクライスラーの思い人にのちに妻となるクララを重ね合わせたと言われています。
宮入さんは全8曲、32分にわたるこの作品を、体にしみこませた音楽を一気に解き放つように、エネルギーをほとばしらせながら演奏します。緩急のある構成に身を委ねていると時間はあっという間に過ぎ、最後、消え入るように終わりました。
「ソロ・コンサートはとても緊張しますが、プログラムを組み立てるところから楽しんで取り組むことができました。これからもいろんな場所で演奏したいので、また応援していただけると嬉しいです」と笑顔で締めくくった宮入さんに、大きな拍手が送られます。
アンコールはショパンの「マズルカ第15番 ハ長調 Op.24-2」です。
お客様に感想を伺いました。
合唱をやっているという男性は、「ただただ、すごいなと思って聴いていました。貴重な時間でした」と満ち足りた表情でした。
女性のおふたり連れです。「プログラムもバラエティに富んでいてよかったです。育児や家事に追われているので、音楽を体感できるリラックスした時間になりました」とおひとりが話すと、「身近なところにこんなに素晴らしい方がいて嬉しいです。タッチが柔らかくて優しいけれど、力強いところもあって、心に響きました」ともうおひとりも感想を述べ、またぜひ地元で演奏してほしいというリクエストも飛び出しました。
【プログラム】
モーツァルト/きらきら星変奏曲
リスト/巡礼の年 第3年 エステ荘の噴水
メンデルスゾーン/厳格な変奏曲 ニ短調 Op.54
R.シューマン/クライスレリアーナ Op.16
【アンコール】
ショパン/マズルカ第15番 ハ長調 Op.24-2