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【レポート】神谷未穂・望月優芽子 アーティスト・イン・レジデンス クラスコンサート

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【レポート】神谷未穂・望月優芽子 アーティスト・イン・レジデンス クラスコンサート

9月6日(火)武石小学校

 

2022年度のレジデントアーティストであるヴァイオリニストの神谷未穂さん。市内の小学校でのクラスコンサートや、各地域での公民館コンサートなどを行っています。この日はピアニストの望月優芽子さんと一緒に武石小学校を訪れ、5年生26人の前でクラスコンサートを行いました。

 

実は神谷さんは、今年度の小学校の音楽の教科書にヴァイオリニストとして掲載されています。本物に会えるとあって、生徒たちはわくわくした表情。楽器の生演奏を聴くのが初めてという子も多く、期待が伝わってきました。

 

拍手のなか登場したお2人。最初に演奏したのは優美な曲「愛のあいさつ」です。じっとヴァイオリンの手元に注目する子どもたち。神谷さんは一人ひとりの顔を見ながら、表情豊かに音を奏でます。

 

演奏後の自己紹介で「みなさんの教科書に、私が写真入りで載っているそうですね。落書きしないでね!」と笑う神谷さん。本物のヴァイオリンを初めて見る生徒も多いなか、楽器の仕組みを教えてくれました。

 

「この弓はなんの動物の毛でしょう?」と神谷さんが問いかけると、「クジラのヒゲ?」という声。「残念!でも昔、ヴァイオリンの弓を束ねるのにクジラのヒゲが使われていたんですよ」と神谷さん。正解は「馬のしっぽの毛」。丈夫ながら演奏するごとに磨耗するので「プロの演奏家は2カ月に一度ぐらい張り替えます」と教えてくれました。

 

ヴァイオリン本体は木でできています。コンコン叩きながら「中は空洞ですが、コンチュウが入っています」と神谷さんが言うと「ええっ!」と驚きの声。入っているのは昆虫ではなく「魂柱(こんちゅう)」。弦の振動を伝え、音を響かせる役割を持つパーツです。

「魂柱がないと、何千人も入る大きなホールいっぱいに音を響かせることができません」

生徒たちに近づいて音を鳴らし、弦が細かく振動する様子を見せてくれました。

 

 

ピアノと違って「ド」と「レ」の間に無数の音があること、一つの音を弾きながらボリュームを大きくしたり小さくしたりできることを、弾きながら教えてくれました。「人間の声と同じなんです」との言葉に、真似て声を出してみる生徒も。

 

続いてジプシーの音楽「ひばり」を演奏。本物の鳥の声のように高くなったり低くなったり、時には弦をこすって甲高い音を出したり。細やかに動く音色に、驚いた表情の生徒もいました。

 

「ゴリウォッグのケークウォーク」はドビュッシーの作曲。神谷さんは黒人の人形の絵を取り出し、「この人形が踊る様子を描いた曲なんです。かわいいでしょ?」と紹介してくれました。リズミカルで楽しい雰囲気。弦を指で弾くピチカート奏法も登場し、豊かな音色で楽しませます。

 

続いて望月さんがピアノの仕組みを解説します。鍵盤の数は88個。その先にたくさんの部品がつながっていて、合計数千個ものパーツが1台のピアノを構成しています。内部を見ることは難しいですが、鍵盤とその先につながるパーツを一つ取り出した模型を使って、音が出る仕組みを紹介してくれました。

 

「鍵盤の音は小さいのに、なぜ大きなホールいっぱいに音を響かせられるんでしょう? 実は、ピアノの中に『響板(きょうばん)』という大きな板が張られているんです。これが、音を響かせる働きをします」

 

ここで取り出したのは、手のひらサイズの手巻きオルゴール。耳を澄ますと、かすかな音色が聞こえます。「これを響板の上に置いてみますね」。

 

すると、同じオルゴールとは思えないほど大きな音が響き始めました。「えっ?」「どういうこと?」と顔を見合わせる生徒たち。響きを増幅させ、豊かに鳴らす響板のパワーに驚いた様子でした。

 

ピアノソロで聴かせてくれたのはショパンの曲「子犬のワルツ」。速い指の動きが特徴とあって、子どもたちは手元がよく見える位置に集合。軽やかに舞う手元をじっと見つめながら、澄んだメロディーに耳を澄ませていました。

 

ラストの曲は、ヴァイオリンとピアノによる「チャルダッシュ」。「前半は差別を受ける民族の悲しみが描かれた、日本でいうと演歌のような曲調。後半は自由に暮らせる喜びを描いています」と神谷さん。抑揚豊かに、歌うように聴かせる前半。打って変わって後半はスピーディーでダンサブルで、ダンスや音楽を楽しむ人たちの姿が目に浮かぶようでした。

 

 

 

演奏後、「迫力にびっくりしちゃった?」と先生が問いかけると、うんうん!と頷く生徒たち。「ヴァイオリンが人間のような声を出せることを知れてよかった」「一つのヴァイオリンでここまで表現することができることが知れた」などの感想を聞かせてくれました。普段目にすることのない楽器との出会いが、子どもたちの世界を広げたのではないでしょうか。