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【レポート】石上真由子 ヴァイオリン・リサイタル

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石上真由子 ヴァイオリン・リサイタル

開催日
会場
サントミューゼ 小ホール

2023年11・12月に上田市の学校や公民館へのアウトリーチやアナリーゼ・ワークショップを重ねたヴァイオリニストの石上真由子さん。レジデント・アーティストとして集大成のリサイタルをレポートします。

ピアニストの北村明日人さんとともに舞台に登場した石上さんは、1曲目の『3つのロマンス』は「大好きな作品のひとつ」と言います。ロベルト・シューマンの妻でもあったクララはピアノの名手であり、作曲も行っていました。「この曲はピアノ主体ですが、ヴァイオリンを歌わせることも忘れません」(石上さん)。

ピアノの甘やかなメロディからはじまる第1楽章は終始ゆったりした曲調で、第2楽章は短調から明るくうららかな雰囲気へ。広がりを感じさせる展開が印象的な第3楽章へと続きます。

2曲目はシューマン夫妻と親交があったブラームスのヴァイオリン・ソナタです。「雨の歌」とも呼ばれるのは、同名の自身の歌曲からフレーズを第3楽章に、リズムを第1・2楽章に引用しているからです。

そして第2楽章の主題は、クララの末っ子フェリックスの病状を見舞う手紙とともに送られます。

「『どれだけ私があなたたちを思っているか』という心からの愛情に満ちた贈り物でしたが、ブラームスが名付け親だったフェリックスは24歳で亡くなりました。私はこの曲は“フェリックス・ソナタ”だと思っています」(石上さん)

第1楽章、のびのびとした中に繊細さを感じる石上さんのヴァイオリンの音色は、時に雲が太陽をサッと隠すような憂いを見せます。ピアノからはじまる第2楽章は、アダージョらしくたっぷりと聴かせますが途中、葬送行進曲的なパートが。第3楽章は「雨の歌」のメロディを響かせ、彩り豊かに展開して静かに終わります。

30分近い熱演が終わり、早くも両手を高く掲げて拍手するお客様の姿があります。

後半は「クロイツェル」の愛称を持つ、ベートーヴェンの『ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第9番』1本勝負です。

「ヴァイオリンは添え物だったヴァイオリン・ソナタを、両者を同等に扱って流れを変えたのがベートーヴェンです。素材を生かし合いながらどちらもビビッドに協奏する関係性は革新的です」と、この曲の歴史的意義を石上さんが分かりやすく解説してくれます。

ピアニストが大活躍するこの曲、「ピアニスト本人はどう感じているか、明日人さんに聞いてみましょう」と、北村さんにマイクを向けます。「前半の2曲は音符の奥を掘っていってようやく言いたいことが見つかりますが、ベートーヴェンはやってほしいことが見てすぐ分かります。主張が強いので、むしろ不純物をどう取り除いて演奏するかが重要です」と、北村さんの興味深い分析が披露されます。

冒頭のヴァイオリン・ソロからして独創的で、王者の風格が漂います。ピアノ・ソロへ移っても力強さは変わりません。石上さんの髪が細かく揺れるほどに速いフレーズがたびたび出てきて、ベートーヴェン自らつけたタイトルの中にある“ヴァイオリン助奏”が霞む技巧的な曲であることが分かります。第2楽章はロマンチックな雰囲気の中にトリルやピチカートで軽妙な味つけが。第3楽章はピアノの強打からはじまり、スピーディーなタランテラのリズムに乗り、途中緩徐な部分をはさみながら、テンションを保ったまま駆け抜けます。

30分を優に越す大曲を終え、ひときわ大きな拍手が鳴り響きます。ふたりのプレーヤーによる真剣勝負にふさわしい、潔く大胆な構成と充実した演奏でした。

アンコールは、「クララ、ブラームスときてロベルトを弾かないわけにはいきません」と、ロベルト・シューマンのピアノ曲集『森の情景』より7曲目の「予言の鳥」です。2つの音色が非常に抒情的に響き、会場の熱気をほどよくクールダウンしてくれます。

お客様の感想です。

豊殿小学校のクラスコンサートをきっかけにお母さんと来たという小5の女の子は、「ベートーヴェンの9番はとても力強かったです」と満足そうでした。塩田公民館での地域ふれあいコンサートにも出かけられた上田市の男性は、「前半と後半で雰囲気が変わって楽しく聴きました」と笑顔で答えてくれました。

【プログラム】

クララ・シューマン/3つのロマンス Op. 22

ブラームス/ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第1番 ト長調 Op. 78 「雨の歌」

ベートーヴェン/ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第9番 イ長調 Op. 47 「クロイツェル」

【アンコール】

シューマン/森の情景 Op.82より第7曲 「予言の鳥」