【レポート】南紫音 クラスコンサート
【レポート】南紫音 クラスコンサート
2024年7月4日(木)
上田市立神川小学校
ヴァイオリン:南紫音
ピアノ:秋元孝介
今年度のレジデント・アーティストであるヴァイオリニスト南紫音さんは、ピアニストの秋元孝介さんとともに、上田市立清明小学校、東小学校、西小学校、北小学校、塩尻小学校、神川小学校の5年生を対象にクラスコンサートを行いました。今回は、7月4日午前に行われた、上田市立神川小学校5年3組の回をレポートします。
はじめに音楽の先生から「目・耳・心を働かせて聴いてください」と語りかけられた25名の児童たちは、期待のこもった拍手でふたりを迎えます。まずはエルガーの『愛の挨拶』から。アンサンブルの美しさと、はじめましての気持ちが伝わります。
挨拶ののち、楽器の説明へ。「ヴァイオリンを習ったことがある人は?」の問いにAET(英語指導助手)のトマ先生がサッと手を挙げ、驚きの児童たちで和やかなムードになります。この後も、音楽経験豊富なトマ先生の合いの手が、クラスコンサートを盛り上げてくれました。
弦の太さの解説では、いちばん右の弦の細さに「めっちゃ細い!」と次々に声が上がります。秋元さんが「ピアノも同じで、弦の太さで音の高低が変わります」と続け、ふたつの楽器の音域の違いや、使われている素材(ヴァイオリンの弓には馬の尾の毛が使用されいてるなど)、多彩な奏法など、初めて聞く内容に、子どもたちはビビッドな反応を見せてくれます。
2曲目はプロコフィエフのオペラ『3つのオレンジへの恋』より「行進曲」。一風変わった曲名は、トランプの国の王子にかけられた「3つのオレンジに恋をする」という呪いが由来と、南さんが筋書きを説明してくれます。ピアノが刻む勇壮な行進のリズムに鋭いヴァイオリンが乗り、徐々に高揚していく曲の展開は、生き生きとした物語の世界へ誘ってくれるようです。
3曲目はメキシコの作曲家ポンセの『エストレリータ』。スペイン語で“私の小さな星”という意味で、甘く悲しい恋心を歌っています。「愛する人に向けた熱い気持ちを、大人っぽい和声にのせて歌い上げています」という南さんの解説通り、伸びやかに歌うヴァイオリンに優しく寄り添うピアノがとてもロマンチックです。
「音楽には、物語を音で表したり、気持ちをのせたり、作曲家の強い思いを世間の人に訴えたりといろんな表現があります。次に紹介するのは踊りの音楽です」と切り出し、バルトークの『ルーマニア民俗舞曲』へ。“民俗”というふだんあまり使わない言葉に注目しながら、その土地で伝わってきた音楽を題材にした曲であることを説明します。この曲は当時ハンガリー領だったルーマニア民謡を題材とした、6つの踊曲で構成されています。重く踏みしめるようなピアノに、切ないヴァイオリンの音ではじまる「棒踊り」から「帯踊り」「踏み踊り」「角笛の踊り」「ルーマニア風ポルカ」「速い踊り」と、口笛のようなかすれた音、独特で不穏な和音、疾走感あるリズムなど、さまざまな表情が現れては消えます。
ここで質問コーナーへ。「ピアノにも馬の毛が使われているんですか?」「なぜヴァイオリンをはじめようと思ったんですか?」など素朴でさまざまな質問が飛び出します。1日の練習量を尋ねられた南さんの「リサイタル前は、ご飯とお風呂以外はずっと弾いていることもあります。みなさんと同じくらいの時は、夕方5時から7時、夕食を食べて8時から10時まで練習していました」という答えに、子どもたちは驚いていました。ヴァイオリンの構造については、弦を弾くと振動が薄い木の板“駒”から中にある“魂柱(こんちゅう)”へ、さらに裏板に伝わることで響くと教えてくれました。
最後は「超絶技巧をたっぷり楽しんでもらいたい」と、サラサーテの『ツィゴイネルワイゼン』を短縮版で届けます。左手のピチカート(指で弦をはじく技法)をはじめ難しいテクニックが盛り込まれた名曲で、冒頭の激しいピアノから子どもたちの目と耳は釘付けに。
曲が終わると間髪入れず拍手が鳴り響きます。子どもたちから「とてもいい音で、楽器の構造も知ることができてよかったです」「素敵な音楽を聞け、僕もヴァイオリンをやってみたいと思いました」などと感想が伝えられました。ヴァイオリンとともにピアノの魅力をも鮮やかに印象づけた45分間でした。
【プログラム】
エルガー:愛の挨拶
プロコフィエフ:歌劇『3つのオレンジの恋』より「行進曲」
ポンセ:エストレリータ
バルトーク:ルーマニア民俗舞曲
サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン