サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館) おかげさまでサントミューゼは10周年

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【レポート】アナリーゼ・ワークショップVol.74~カルテット・スピリタス(サクソフォン四重奏)〜

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開催日
時間
19:00~
会場
サントミューゼ 大スタジオ

ソプラノ、アルト、テナー、バリトンのサクソフォン奏者4人で構成する「カルテット・スピリタス」のリサイタルが、11月16日にサントミューゼで開催されます。当日の聴きどころを奏者ご自身が紹介するアナリーゼワークショップが開催されました。

この日は偶然にも、サントミューゼ開館10周年の誕生日でした。冒頭、テナー・サクソフォン奏者の松井宏幸さんが「今日はめでたいサントミューゼの誕生日ですね」と笑顔で挨拶しました。

今年、結成20周年を迎えるカルテット・スピリタス。「私たちは先人達の偉大なカルテットに学びながら、自分たちらしい新しい音楽を作ろうと20年切磋琢磨してきました。作曲家も同じで、音楽の父バッハの時代から偉大な作曲家のスタイルを継承しながら発展しています。今日はそこに注目し、聴きどころを解説したいと思います」

まずはカルテットの理解を深めるため、4人の役割分担を料理に例えて解説します。題して『カルテット・スピリタスの音楽レストラン』。役割の異なる4つの楽器を組み合わせることでおいしい“料理=音楽”が完成します。1人ずつ順に音を重ねていき、美しいハーモニーが生まれる過程が分かりました。

今回のリサイタルのメインとなるアラン・ベルノー作曲「サクソフォン四重奏曲」の解説は、ベルノーがドビュッシーやラヴェルから受けた影響を中心にお話ししてくださいました。ドビュッシー作曲『ベルガマスク組曲』の冒頭の演奏から始まります。彼の音楽は“色の音楽”と呼ばれ、響きや余韻を大切にしています。土台になっているのがバッハによる“調性の確立”。ニ長調は祝祭や喜び、変ホ長調は神聖やヒーローを表現するといったように、調性にキャラクターを持たせるものです。

ドビュッシーはバッハの調性音楽を引き継ぎつつ部分的に調性を曖昧にしている部分があるのだそう。ベルノーもそんなドビュッシーのアイデアを引き継ぎました。

第1楽章の演奏をアルトサックスとテナーサックスだけで聴くと不協和音のような不思議なメロディですが、異なる役割の4つの音が重なることで美しい響きが生まれます。ボリュームのバランスも重要。「印象派の絵画のようですね。遠くから見ると赤なのに、近づいて見たら緑や黄色が使われていたりする」と松井さん。

第3楽章は各楽器の“歌”と色彩的なハーモニーに注目。第4楽章はテンポが速く、メインとなるアルトサックスの旋律と調性の速い変化が聴きどころ。冒頭部分の演奏では、スピードと緊張感に引き付けられます。「近代的な和音が使われているけれど作曲方法は古典的。4楽章すべて、別のダンスを踊ってるみたいなんです」。

続いてはロシアの作曲家、アレクサンドル・グラズノフ作曲の『サクソフォン四重奏曲』について。国民楽派の流れを継ぐ彼は、民族的な音を用いるのが特徴です。

四重奏曲の冒頭から順に短く演奏しながら特徴を解説。例えば第3変奏曲で、場面によって調性がどんどん変化する様子を「晩年、心を病み、生活が荒んだシューマンの作風に似ている」と指摘。実際に演奏を聴くと、じわりと切なさが漂いました。一方、第4変奏曲の副題は「ショパン風に」。パリのサロンで演奏された甘い“モテ曲”の雰囲気です。終楽章はロシアの民謡風で、まさにコサックダンスの世界。不思議なリズム、大団円を思わせるフィナーレが印象的でした。「この作品は後期ロマン派に分類されますが、伝統を受け継ぎながら古典に戻ろうとする傾向がロシア民謡の要素と混ざり、新しい音楽の魅力につながっていますね」と話しました。

古きを受け継ぎ、新しい音楽へ。カルテット・スピリタスの精神と通じる音楽の世界に、リサイタルへの期待が高まりました。