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【レポート】群馬交響楽団 上田定期演奏会-2024秋- 関連プログラム「トーク&コンサート」

みる・きく
開催日
時間
19:00~
会場
サントミューゼ 小ホール

10月20日の群馬交響楽団(以下、群響)上田定期演奏会に先駆け、群響ソロ・コンサートマスターの伊藤文乃さんによる、トーク&コンサートが開催されました。ピアノは原博美さんです。

1曲目はモーツァルトの「ヴァイオリン・ソナタ 第21番 K.304」。第1楽章は哀切なメロディが印象的で、美しいヴァイオリンの音色が光ります。第2楽章のピアノソロのパートは夜の雰囲気が漂い、今回の群響公演のテーマ「夜」が想起されます。

モーツァルトらしい優美さを備えつつも、悲しみを色濃く感じる短調のこの曲は、母アンナを亡くした影響を受けた作品と言われています。「ひときわもの悲しく、悲劇的でセンチメンタル」と評する伊藤さんは、演奏でその雰囲気を伝えてくれました。

続いてはリムスキー=コルサコフの『シェエラザード』から「アラビアの歌」と「東洋風舞曲」です。「シェエラザードは女性の名前で、『アラビアン・ナイト(千夜一夜物語)』に出てきます」。シェエラザードは、女性不信に陥った王を改心させるために、毎晩面白い話を王に聞かせ「続きはまた明日」と繰り返して生きながらえます。

コンチェルト以外ではなかなかオーケストラの一員として演奏する機会のないピアニストにとって、この曲はどう映るのか、伊藤さんが原さんに尋ねます。「すごく美しい曲で、ピアニストが一緒に演奏したいと思うオーケストラ曲の中でも憧れの作品です。初めて親の仕送りで買ったCDも『シェエラザード』でした」と、エピソードを交えて話してくれました。原さんが「なんて美しいヴァイオリンを弾く人なのだろう」と絶賛する伊藤さんにとっても、何度弾いても難しい曲なのだとか。

「アラビアの歌」は、聞き覚えのある冒頭のメロディで一気にアラベスクの世界へ引きこまれます。低音の深みは特筆すべきものがあり、伊藤さんが弾きこなすレンジの広さを感じます。「東洋風舞曲」にはシェエラザードのテーマが顔を出し、情熱的なタッチが物語を目の前に浮かび上がらせます。

最後はドビュッシーの「ヴァイオリン・ソナタ」。今回の定期演奏会にはラインナップされていないドビュッシーですが、「夜」がテーマと聞いて伊藤さんが真っ先にイメージしたのがこの曲だったそうです。「幻想的で神秘的な響きのある素晴らしい作品」と伊藤さんが評するこの曲は、ドビュッシー最後の作品でもあります。

第1楽章は、月に照らされた夜の情景が広がるようです。木の影、風・葉のざわめき、月を映す水面……さまざまな質感が現れては消えます。賑わうカフェの会話を思わせる第2楽章。「Intermède. Fantasque et léger(間奏曲 幻想的かつ軽快に)」と指示されている通り、小気味良さと緩急が心地よく、ヴァイオリンのピチカートも冴えます。第1楽章のフレーズがまた違った印象を伴ってあらわれる第3楽章は、スリリングな夢の中のような雰囲気です。

アンコールは、ベルギー出身の名ヴァイオリニスト、イザイが作曲した「子どもの夢」です。4番目の子どもアントワーヌが生まれた時につくられました。寝ている赤ん坊のまわりに漂う幸せでゆったりした時間が、そのまま音楽として現れるような演奏です。途中、子どもを案じる親の心境が反映されているような荒々しいパートを経て、再び安らかな時が流れます。

60分とは思えない、ヴァイオリンとピアノのさまざまな表情が感じられる濃密なリサイタルでした。

『シェエラザード』が好きだという女性は、「すごく楽しみにして来ました。とてもよかった。演奏される方がお話ししてくれるのもいいですね」と感想を話してくれました。おひとりで来られた男性は、「コンサートマスターの安定感のある音ですね。素直でレンジが広かったです」と、満足そうな表情で会場を後にしていました。

オーケストラ版で豪華に鳴り響く『シェエラザード』をはじめ、秋の定期演奏会がますます楽しみになりました。

【プログラム】

モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 第21番 K.304

リムスキー=コルサコフ(クライスラー編):『シェエラザード』Op.35 から「アラビアの歌」、「東洋風舞曲」

ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ

【アンコール】

イザイ:子どもの夢