【レポート】浜野与志男 ピアノコンサート in 青木村
- 開催日
- 時間
- 19:00~
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ピアニストの浜野与志男さんが、10月11日のサントミューゼ・マチネ前夜に、上田市の西隣に位置する青木村で定住自立圏コンサートを行いました。
青木村文化会館の講堂には、70人ほどの村民の方々にお集まりいただきました。登場した浜野さんは「こんなにたくさんのお客様に来ていただいて嬉しく思います」と、感謝の気持ちを伝えていました。
1曲目はスカルラッティの「ソナタ ホ長調K.380」です。スカルラッティはバロック時代の作曲家で、鍵盤楽器用のソナタを555曲も遺しました。「行列」という通称で呼ばれることもあるこの曲は、冒頭含め途中何度か出てくるトリルが印象的です。少しゆったりしたテンポの演奏が、この曲の愛らしさを引き立てます。
「今日のプログラムは、ショパンとリストを中心に組み立てています」という浜野さん。ショパンは若い時代のスケルツォ、晩年の夜想曲と舟歌と趣きの異なる3曲が選ばれており、「対比をお楽しみください」と言います。2曲目の「スケルツォ 第2番」はショパン27歳の時の作で、「言いたいことをズバッと言うようなまっすぐな表現」という浜野さんの評通りの、激しくゴージャスなスケルツォでした。
がらっと雰囲気が変わる「ノクターン ロ長調」は、「これまでの人生で心無いことを言ってきた人、言ってきた自分をすべて許すような、極上の優しさが必要な曲」と、浜野さんのお人柄がしのばれる解説が印象的でした。30代の今ならそろそろ弾けるのではないかという今年の挑戦曲でもあるそうです。タッチもさることながら、ペダルのタイミングが絶妙で、浜野さんのこまやかな優しさが音として表現されていました。
3曲目はヴェルディの歌劇『アイーダ』から「神前の踊り」と「終幕の二重唱」をリストの編曲で聴かせます。当時リストはさまざまなオペラを編曲していました。記録媒体のない時代、大掛かりなオペラをピアノ用に編曲することで、多くの人が楽曲を楽しみました。
妖しさ漂う導入部から引きこまれ、シーンが見えるような巧みな構成です。古代エジプトを舞台とした悲恋の物語が、リストらしい絢爛豪華な音づかいで紡がれていきます。
一転、ショパン晩年の傑作と言われる「舟歌」へ。ヴェネツィアのゴンドラの船頭唄をモチーフとし、左手の伴奏は小舟が波に揺られる様を表わしています。凪いだ海から、にわかに雲と風が出て、木の葉のように揺れる舟……というイメージが膨らむ演奏は、まるで人生のはじまりから終わりまでを表現しているかのよう。エモーショナルなフレーズに繰り返し洗われ、静かにきらめく水面に浮かんで終わります。
プログラム最後の作品です。チャイコフスキー作『18の小品』の「瞑想曲」は、ピアノ独奏曲はあまり多くないチャイコフスキー作品の中で比較的よく演奏されます。「私は母がロシアの生まれで、幼い頃からロシア語も学んできました。この2年、ロシアのウクライナ侵攻という大変悲惨な戦争に心を痛めています。戦争が終わった平和な世界を夢見て弾きたいと思います」と胸の内を明かし、演奏へ。「万感の思いがさまざま頭の中を駆け巡る」と浜野さんが言うように、冒頭から不思議と懐かしさがこみ上げ、長い旅路からふるさとの家に帰り着いたような温もりに包まれます。
演奏が終わると大きな拍手が起こり、浜野さんに花束を渡すお客様もいらっしゃいました。
アンコールは同じくロシアの作曲家、スクリャービンの「2つの詩曲」から第1番です。神秘的な響きが会場を満たします。
お母さんと来場していた7歳と6歳の女の子は、「上手だった」と感想を教えてくれました。前回の青木村での定住自立圏コンサートにも来たという男性は、「ご本人の解説もあって、とてもよかった。前回の企画もですが、今回も楽しませてもらいました」と話してくれました。
【プログラム】
スカルラッティ:ソナタ ホ長調 K.380
ショパン:スケルツォ 第2番 変ロ短調 作品31
ショパン:ノクターン ロ長調 作品62-1
リスト:歌劇『アイーダ』より 神前の踊りと終幕の二重唱(ヴェルディ)
ショパン:舟歌 作品60
チャイコフスキー:18の小品より 瞑想曲 作品72-5
【アンコール】
スクリャービン:2つの詩曲 作品32-1