サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館)

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【レポート】サントミューゼ×Co.山田うん『TEN』

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サントミューゼ×Co.山田うん『TEN』

開催日
時間
14:00~
会場
サントミューゼ 大スタジオ

コンテンポラリーダンスのカンパニー「Co.山田うん」が、サントミューゼでダンス作品を創作・公演しました。今作は、紙を使った三部作として、東京・メキシコで上演された『EN』と、2025年1月に横浜で上演予定の『遠地点』の間をつなぐ作品に位置づけられています。
出演は山田うんさん、カンパニー所属ダンサーの猪俣グレイ玲奈さん、黒田勇さん、佐々木章晃(しょうあ)さん、須﨑汐理(しおり)さんの5名。演出は山田うんさんです。
2日間の公演のうち、初日となる11月23日の公演をレポートします。
大スタジオの天窓からは光が入り、照明を吊るしたやぐらからは、大きな豆のさやのような和紙細工が4組ぶら下がっていました。

鏡の壁の前には椅子と紙のオブジェが置かれた大きなテーブルが並び、反対側の壁にはご祝儀袋のように華やかに彩られた2枚の大きな和紙が。今日は子どもの来場者が目立ちます。

山田うんさんの声で、お客様は好きに動きながら鑑賞でき、写真や動画も撮影可とアナウンスが流れました。「和紙を使った自由でヘンテコな世界」という言葉と相まって、どんな公演になるのか期待が高まります。
スタッフの誘導で芝生広場に出ると、水色の衣装と和紙を身に着けた山田うんさんがいました。11月の青空と紅葉の太郎山を背景に、和紙のオブジェを手にゆっくり動きます。一体何が始まるのか、少し戸惑いと好奇心がお客様の表情から見て取れます。
大スタジオへ戻ると、頭部を覆うマスクをつけた4名のダンサーが鏡の前の大テーブルに座っています。紙に書きつけたり、細く割いた紙を丸めたり、それぞれが紙を手にしている姿はとても不思議で、お客様は自然とテーブルの周りに集まりました。

ひとりがどこの言語が分からない言葉を発しながらコップのような紙の筒を掲げると他も続き、一列になって舞台からゆっくり去っていきます。

続いて中庭に面した窓のシャッターが開き、紙のオブジェを身に着けたうんさんによるソロが始まりました。ときどき吹く風にゆれる紙の中で、うんさんは踊り続けます。シャッターが再び下がっていくと、その動きに合わせて子どもたちがしゃがんでいました。
紙をクシャッとする音をサンプリングしたような音楽が流れ、2階の回廊から1階へと4名のダンサーが登場します。ビートを意識させられる踊りは、かぶったマスクと相まって古代の部族のようにも見えます。
椅子がリングコーナーのように結界を張り、ダンサーが組み合います。拮抗したりどちらかに傾いたりする力の感覚が、見る側にも共感覚のように心地よく伝わってきます。

最後にマスクを取り、ダンサーの顔が露わになりました。

今度はスタジオ入り口のガラス窓のシャッターが開きます。ずっと奥に見える芝生広場からうんさんがこちらに向かって歩いてきました。

2枚のガラスに挟まれた奥行数十センチの空間に入り込んだ猪俣さんがソロを踊ります。

中庭に面した壁の前に移動した猪俣さんの足に和紙がつながれ、這う動きに合わせて和紙が長く伸びていきます。続いては須﨑さんのソロです。
壁から落ちてきたロープを須﨑さんと猪俣さんが引っ張ると、ご祝儀袋のような和紙が降りてきます。その和紙の中にふたりが入り、生き物のように動きます。

佐々木さんのソロを挟み、大紙の塊が舞台へ出てきました。壁に大きく広がっていく紙は、照明の陰影で岩の壁のようにも見えます。波打つようにうごめく紙の怪物は佐々木さんを飲み込まんばかりです。

大紙が2階に引っ張り上げられると、産み落とされるように黒田さんが現れ、ソロダンスへ。

3名のダンサーが現れ、全員が叫び、ケンカするようにぶつかり合い、押し合い絡み合い、次の動きへと流れるようにつながっていきます。人の身体のかたちと動きの美しさを純度高く抽出するようなダンスに目を奪われます。

踊りはユニゾンになり激しさを増します。

最後、全員が手を1回叩き、照明がフッと消えました。

ダンサーが一礼すると、大きな拍手が沸き起こります。うんさんも登場し、改めてカーテンコールとなりました。

サントミューゼの空間を縦横無尽にダンス作品に組み込み、ここでしかできないクリエーションが生まれました。計2回の公演のためだけに創りあげられた美術、衣装、音楽、ダンスと、観客も一体化した空間は祝祭の色濃く、観る者にお腹の底から湧き上がるような力を与えてくれました。
会場には、Co.山田うんメンバーがダンスワークショップで訪れた小学校の児童たちも来ていました。
清明小学校4年生の女の子3人は、楽しかった様子が表情に現れていて、「ダンスにはいろんな動きや表現があることが分かりました」と感想を教えてくれました。
北小学校の男の子と女の子も、「ちょっと怖かったところもありました。戦いみたいなところが面白かったです」と、話します。一緒に来たお母様は「驚きがたくさんありました」と初めてのコンテンポラリーダンスを楽しまれた様子でした。

取材・文:くりもときょうこ
撮影:齊梧伸一郎