【レポート】高校生と創る実験的演劇工房 11th『Street Story』
作・演出・監修・指導:守田慎之介(演劇関係いすと校舎代表)
- 開催日
- 会場
- サントミューゼ 大スタジオ
上田市内の高校演劇部(班)の生徒たちとプロの演出家が創作に挑む「実験的演劇工房」。
11回目となる今年は、実験的演劇工房5thに招聘した劇作家・演出家の守田慎之介さんを迎えました。
今回参加したのは、上田高校、上田染谷丘高校、上田東高校、丸子修学館高校の生徒と、過去の実験的演劇工房に参加したOGあわせて14名。
いずれも満席となった2日間2公演のうち、2日目の模様をお伝えします。

大スタジオに足を踏み入れると、黒い床に白いテープで道路や横断歩道が表現され、空間が3つに分けられており、それぞれに客席が設えられています。奥には「晴芽町商店街」と書かれた看板が。スクーターの走行音、スタンプラリーのアナウンスなど街の音が混じった音楽が流れ、商店街の雰囲気が醸し出されます。

開演前、守田さんが挨拶します。「今回の話は、北九州市の黒崎商店街で、疑似家族をテーマにしたワークショップがとても面白かったので、それをヒントに創作しました」。そして、今回の舞台はお客様に移動していただきながらの観劇になることが告げられます。
おもむろに開演すると、文房具屋の「つむぎや」、お茶屋の「茶房すみれ堂」、パン屋の「パン屋Candy」で同時に芝居がはじまります。
〈6年前の「つむぎや」〉
モモコ:「つむぎや」の現店主。3年前、夫に先立たれた。穏和な性格で、人付き合いがうまい。子どもたちにはそれぞれ思うところがあるが、温かい目で見守っている。
ハルカ:モモコの娘。文房具をこよなく愛している。なんでもすぐにお金の話に結び付ける双子のカナタとはそりが合わない。
カナタ:モモコの息子。ハルカの双子の兄。経済学を学んだことがあり、常にお金のことを考えている。「つむぎや」の跡継ぎ問題でハルカと揉めることがある。娘・ミライがいる。
ミライ:カナタの10歳になる娘。おばあちゃん子。本来は明るい性格だが、ハルカとカナタがたびたび仲違いすることでうつむきがちに。
「つむぎや」では、文房具屋店主の妻のモモコ、モモコの子どもである双子の兄妹のカナタとハルカ、カナタの10歳の娘ミライが登場します。今でこそ仲の良い「つむぎや」ですが、「話を聞いてくれますか?」というモモコのセリフを皮切りに、過去のギスギスした様子が展開されていきます。
商店街のお祭りで、お客さんに配るスケッチブックに合わせてクレヨンを売りつけようと考えるカナタに対し、「こんな時に商売するなんて」と怒るハルカ。

ケンカするふたりの陰で、元気のないミライにスポットライトが当たります。スケッチブックに絵を描くのが好きなミライですが、笑顔の家族の絵をうまく描けず、「ちがう! ちがう!」と苦しそうに叫びながら黒く塗りつぶします。カナタに真っ黒に塗りつぶしたページを見られそうになり、「見ちゃだめ!」とスケッチブックを破ってしまいました。
カナタとハルカは、自分たちのせいでミライを悲しませていたことにようやく気づきます。お互いに「ごめんなさい……」と謝り合い、それまでのギスギスした空気が一気に変わりました。

回想シーンが終わり、ハルカとカナタのふたりで協力して店を切り盛りしている現在の「つむぎや」に戻ってきました。モモコの「またのご来店をお待ちしています」の言葉で、お客様は次の舞台へ移動します。
〈6年前の「茶房すみれ堂」〉
マナブ:「茶房すみれ堂」の店主。寡黙な性格で、孫であるシンとサキにどう接したらいいか迷っている。
アイラ:「茶房すみれ堂」の副店主。朗らかな性格で、父マナブよりはシンたちと心の距離が近い。
シン:高校生。2年前に両親が他界して以来、兄妹でマナブとアイラの世話になっている。面倒見がいい。
サキ:中学3年生。シンの妹。内向的な性格で、マナブの家で暮らすことに抵抗を感じている。
次は「茶房すみれ堂」です。店主のマナブ、その息子のアイラ、そして高校生のシンと中学生のサキが、リラックスした雰囲気で朝の準備をしています。シンとサキはマナブの孫で、両親の他界により2年前にやむなくこの家に引き取られたようです。
こちらも、過去の様子が回想されます。朝の食卓で、黙々と慌ただしく食事を済ませてそれぞれ仕事や学校に向かいます。マナブはふたりにほとんど話かけることなく、ふたりもよそよそしく過ごしています。アイラが「もう少しあのふたりと会話したほうがいいよ」とマナブに伝えるほど、居心地の悪そうな空気が漂っていました。
ある日の夕食の時、サキは1枚の紙を差し出します。卒業式の案内です。シンが、思い切って卒業式に来てくれるかどうか尋ねるも、「考えておく」としか言わずに先に席を立ってしまうマナブ。

ふさぎ込んだままのサキは卒業式当日を迎えます。
サキが卒業証書を受け取ったその時、「サキーっ! 卒業おめでとう!」と叫ぶマナブの姿が。

驚きつつ、ニコニコ顔になるサキ。サキはマナブに「来てくれてありがとう」と伝え、舞台に投影された桜の花が、家族の関係性が好転していくことを暗示しているようでした。
〈6年前の「喫茶渡り鳥」〉
フウコ:パン作りが得意。パン屋開業の話を持ち掛けられるが、悩んでいる。
ラン:フウコの娘。小学生でまだ幼さが残る。
ツバメ:フウコの姉。「喫茶渡り鳥」の店主。天真爛漫な性格。
シュウ:ツバメの息子。中学生で面倒見のいい性格。
3つ目の舞台です。ランという娘がいるフウコが営む「パン屋Candy」と、フウコの姉ツバメが営む「喫茶渡り鳥」はお隣同士。4人は大きな声で「いらっしゃいませ!」と言い、紙芝居で「喫茶渡り鳥」のメンバーを観客に説明します。客席を巻き込みながら芝居が始まり、6年前にさかのぼります。
6年前、「パン屋Candy」はまだありません。 「喫茶渡り鳥」で映画を観たランは、映画の内容があまりに悲しくて泣いています。なかなか泣きやまないランは、好物のキャラメルポップコーンのおかわりも、ツバメの一発ギャグも、試作品のお月さまパンケーキも受けつけないほど、グズグズ泣いています。優しいシュウが恐竜の絵を描いてみせて、ようやく元気を取り戻します。

一方、パン作りの才能があるものの、パン屋の開業に一歩踏み出せず、悩むフウコにスポットライトが当たります。
「喫茶渡り鳥」に戻ったフウコは、シュウの恐竜の絵をきっかけに、3人から「一緒にパンをつくろうよ」と声をかけられます。
歌いながらパンをつくる4人。オーブンに見立てられた壁面の引き戸を開けると……

恐竜のかたちをした楽しいパンが焼き上がりました。
いつも支えてくれる姉や子どもたちとの楽しい時間がフウコの気持ちを後押しして、パン屋を開くことを決意します。
最後は、舞台転換で客席も舞台も1か所にまとまります。
時はクリスマス前。ホワイトボードと机と椅子が置かれた集会場に、3つの舞台の登場人物たちが集まってきました。今日は、晴芽町商店街の冬のイベントが議題です。
会話の中で、高校を卒業して町を出るかもしれないシン、家に残る妹サキの戸惑い、子どもたちに店を任せたモモコのこれからなど、それぞれが少しずつ変化している様子が語られます。

さまざまなアイデアが出る中で、マナブが「なるべく長く愛されるイベントになってほしい」と思いを打ち明けます。昔、通りにもっといっぱい人がいた時は盆踊りをやっていたという話から、試しに福岡発祥の「炭坑節」で踊ってみることに。さらにつむぎや一家が「上田わっしょい」を、サキの「TOMI,to me!」が披露されます。

いっそのこと3つともやってしまおうというツバメの提案に、モモコが「いろんなものがごちゃまぜって、商店街みたいね」と言います。それをきっかけに、「これで商店街を盛り上げて、この場所を残したい」「外に出た人が帰って来られる場所を」「それぞれの思い出がある場所だし」と、それぞれが商店街への思いを口にします。
一瞬の静寂ののち音楽が鳴り出し、「炭坑節」「上田わっしょい」「TOMI,to me!」のメドレーを登場人物全員で踊ります。

大団円に客席からも自然と手拍子が起こり、お客様の表情も晴れやかでした。
同じ会場で3つの舞台を同時上演というユニークなスタイルは、最初こそ隣の舞台のセリフが聞こえてきて集中しにくく感じましたが、2つ目、3つ目の舞台を観るときには、「さっき隣から聞こえてきたあのセリフはこういう場面だったのか」という驚きがありました。また、脚本のない芝居のため、さっき観た舞台のセリフが、自分が観た時とは微妙に違って耳に入ってくる生っぽさが、会場全体をリアルな生活の場として立ち上げているように感じました。
最後の盆踊りでは全員がそれぞれの役として踊っていて、パラレルワールドの上田に晴芽町商店街が存在するのかもしれないと、想像の翼を広げさせてくれました。

お客様の感想です。
立科町から来た女性は、「お客さんが移動しながら鑑賞するのは斬新で面白かったです」と話してくれました。 昨年、実験的演劇工房に参加したという染谷丘高校の3年生です。「演出家が変わると、また違う舞台が生まれるのだなと実感しました。スタジオの使い方も、人と触れ合えるような上手な使い方でした。町おこしがテーマなのもよかったです」。
取材・文:くりもときょうこ
撮影:齊梧伸一郎