新国立劇場による、ウエイン・イーグリング版の『くるみ割り人形』。主人公の少女クララが、クリスマス・イブに見た夢の中で憧れの青年と冒険し、大人への階段をひとつ昇る物語です。

東京公演を経て、千秋楽を迎えたサントミューゼでの公演の模様をレポートします。

今回のソリストは、クララとこんぺい糖の精の2役は廣川みくりさん、ドロッセルマイヤーの甥・くるみ割り人形・王子の3役は速水渉悟さんです。指揮は冨田実里さん、管弦楽は群馬交響楽団、そして合唱は上田市立清明小学校の合唱部が担当します。

クリスマス・イブの朝、目を覚ましたクララが、姉のルイーズ、お調子者の兄フリッツとともに、今晩我が家で行われるパーティーにウキウキしている場面から物語が始まります。

凍った運河で人々がアイススケートを楽しむ横で、クリスマス・パーティーの招待客が次々とクララの家へ来訪します。ミステリアスな雰囲気のドロッセルマイヤーと、彼の甥もやってきました。

クララの父の友人であるドロッセルマイヤーは、手品を披露してパーティーをさらに盛り上げます。子どもたちの愛くるしいダンスや、ルイーズと彼女を思慕する男性のダンスなど華やかな場面が続き、聖ニコラスがうやうやしく登場して、子どもたちにプレゼントを渡します。登場人物どうしの細やかなやりとりを通して、舞台の楽しい雰囲気が客席にも伝わってきます。

クララはドロッセルマイヤーからくるみ割り人形をもらいますが、フリッツに壊されてしまいます。ドロッセルマイヤーに直してもらって笑顔を取り戻したクララは、パーティーの余韻に浸りながら眠りにつきました。

夢の中で、目が赤く光るねずみの王様が現れます。邪悪の中にもどこかユーモラスに、舞台を駆け回ります。

ねずみの王と手下たちに襲われるクララが居間に駆け込むと、クリスマスツリーや柱時計がみるみる巨大になり、クララが小さくなっていくことが示唆されました。くるみ割り人形は兵士になり、ねずみたちと戦います。馬や大砲まで出てきて、迫力のある戦いが繰り広げられます。ねずみの軍隊が勝利し、くるみ割り人形は負傷しますが、ドロッセルマイヤーがその場を収めます。クララは、くるみ割り人形から姿を変えたドロッセルマイヤーの甥とともに、パ・ド・ドゥ（男女ふたりの踊り）を踊ります。

クララ：廣川みくり、ドロッセルマイヤーの甥：速水渉悟

ロマンティックな雰囲気は束の間、ねずみの王様が再び現れ、甥をくるみ割り人形の姿に戻してしまいます。

居間はいつの間にか銀世界の森へ。光り輝く雪片が、24名のダンサーによる群舞で表現されます。シンメトリーが多用された一糸乱れぬ踊りは壮観で、まさに第1幕のハイライトとも言える場面です。

第1幕　雪の結晶

ここで、清明小学校合唱部の子どもたちの歌声が響きます。群響が奏でる音楽と調和して、雪片のワルツがさらに幻想的に彩られました。クララと人形が、ドロッセルマイヤーのそりに乗って運ばれていくところで第1幕が終わります。

休憩を挟み、お菓子の国にそりが到着するところから第2幕が始まります。

くるみ割り人形になった甥は、自分たちの後を付けてきたねずみの王様を打ち倒して、王子の姿になります。

くるみ割り人形：速水渉悟、ねずみの王様：渡邊拓朗

魔法の城ではじまった壮大な祝宴では、中国、アラビア、ロシア、スペインなど世界各国のお菓子たちが踊りを披露。そして、ドロッセルマイヤーの魔法で現れた美しい庭で、ダンサーたちが「花のワルツ」を踊ります。

第２幕　花のワルツ

最後に、こんぺい糖の精に姿を変えたクララが、王子とともに美しいグラン・パ・ド・ドゥを踊ります。

こんぺい糖の精：廣川みくり、王子：速水渉悟

見ごたえのある踊りの連続で、それぞれの見せ場では客席から拍手が沸き起こりました。

大団円から暗転し、場面は再びクララの部屋へ転換します。クリスマスの朝、目を覚ましたクララは、夢の中での出来事を思い出しながら、昨日までとどこか違う自分に気づきます。

クララはフリッツと一緒に、ドロッセルマイヤーと甥を外まで見送りました。

幕が下り、ひときわ大きな拍手が鳴り響きます。何度も繰り返されるカーテンコールは、素晴らしい舞台への賛辞と千秋楽の寿ぎに満ちていました。

いくつかのバージョンがある『くるみ割り人形』ですが、イーグリング版では、現実の12歳の少女クララと夢の中の大人になったクララを別々のダンサーが演じることで、少女の憧れや内的成長を表現しています。

男性ソリストが3役を踊るのは、イーグリング版の中でも新国立劇場版のみ。体力的に非常にハードながら、クララが憧れるドロッセルマイヤーの甥、くるみ割り人形、そして夢の中の王子と、違ったキャラクターを見事に演じ分けていたのも、物語をさらに見ごたえあるものにしていました。

また、冬の凍てつく街の景色やパーティーの情景などのきめ細かな演出が、幻想的な夢の世界を際立たせる対比として非常に鮮やかでした。

軽井沢から来られたご家族連れに感想を伺いました。

「見どころがたくさんあって、群響の演奏も清明小の合唱も素晴らしかったです。音楽と踊りが一体化していました」と語る女性、そして昨年からバレエをはじめた小1の女の子は「初めて生のバレエを観て、とても面白かったです。舞台の仕組みも面白かったです」と話してくれました。

上田市でバレエを習っている小2の女の子は「楽しかった！　ダンサーが綺麗にくるくる回っているところがすごかったです」と満足そうな表情をしていました。

取材・文：くりもときょうこ

撮影：阿部章仁