【レポート】高橋多佳子 クラスコンサート
【レポート】高橋多佳子 クラスコンサート
2025年1月30日(木)
上田市立川辺小学校
立春直前の1月末、レジデント・アーティストを務めるピアニストの高橋多佳子さんが、川辺小学校の5年生へ音楽を届けました。
この日は午前中の1・2組に続き、午後は3組の29名が鑑賞しました。滅多に聴けないショパンコンクール5位という実力のプロの演奏への期待が満ちる音楽室に、高橋さんが拍手で迎えられます。

黒板には、今回演奏する曲の曲名と作曲者名が書かれていますが、1曲目は作曲者名「ドビュッシー」としか書かれていません。
「あえて曲名は書いていません。どんな曲なのか、いろんな想像をしながら聴いてみてください」と言い、演奏に入る高橋さん。クラシック音楽に慣れている人ならすぐに分かるメロディ、子どもたちにはどう聴こえたのでしょうか。

演奏が終わると、すかさず手が挙がります。「海の中の深い感じがします。盛り上がるところで広がって、最後はまたシュッと消え入る感じで素敵」「激しいところがかっこいい」と、ふたりの女の子が感想を述べます。高橋さんに指名された男の子は、「よかったです」と恥ずかしそうに答えました。
「朝・昼・晩のどのイメージですか?」という問いには、「夜」にたくさん手が挙がります。

『月の光』という曲名を明かし、「私は、朝の白い月のイメージがあります」と話す高橋さん。
正解がないから自由に受け取っていいのが音楽のいいところと、子どもたちのイマジネーションを刺激します。
1862年生まれのドビュッシーは創立151年の川辺小とほぼ同世代であること、上田の星空に感動したこと、月が地球から少しずつ遠ざかっていることなど、高橋さんのお話はとても興味深く、子どもたちも集中して耳を傾けました。
「月の光つながりで、次は『月光』という曲です」。そう言ってまずは、ベートーヴェンと言えば、ということで『運命』の冒頭を弾いてくれました。ピアノは1台で多彩な表現ができるので、迫力十分。
ピアノ・ソナタ第14番『月光』は、発表した当時、ある詩人が「(第1楽章は)湖の小舟を月が照らしているようだ」と評したことで、この名がつけられました。今回は第3楽章を抜粋して弾きます。ベートーヴェンの肖像画に通じる激しさを感じさせる曲に、子どもたちは聴き入っていました。

3曲目はショパンです。ショパンの故郷ポーランドに留学していた高橋さんは、ショパンが生きた時代のポーランドについて話してくれます。歴史の綾により二度と祖国の地を踏めなかったショパンの曲が人々の心を揺さぶるのは、祖国への思いやあらゆる感情をピアノで表現したところにあると言います。
「今日は、ポーランドを発つ前に作曲した、少し大人っぽい『ノクターン第2番』を演奏します。美しさの中に憧れや少しの悲しみ、焦るような気持ちも込められています。気持ちよく音楽に身をゆだねてくださいね」。

4曲目に入る前に、子どもたちに「ピアノの周りに集まってみる?」と声をかけます。柔らかいハンマーで弦を叩いて音を出す仕組みや、3つあるペダルの役割などを実演しながら説明すると、子どもたちは興味津々。

「せっかくだからこのまま弾いちゃおうか!」と言い、ホルストの組曲『惑星』から「木星」を演奏します。この曲は、合唱曲としても愛されている平原綾香さんの『Jupitar』の中間部に流用されています。川辺小では、今年の6年生が合唱で歌いましたが、「原曲はこの曲なんだよ」と話しながら演奏に入りました。
高橋さんが演奏をはじめると、ピアノの中を覗き込んだり、ペダルに注視したりしながら聴く子どもたち。

ピアノ1台でどんな音楽でも弾けるという高橋さんの言葉通り、管弦楽曲の迫力がピアノで表現されます。『Jupitar』と同じメロディが現れると、子どもたちは顔を見合わせて「知ってる!」という表情に。窓を鳴らすほどの寒風をものともしない熱い演奏で締めくくります。
「11歳のみんなは素晴らしい可能性しかありません。やりたいことにいっぱいチャレンジしてくださいね。またどこかで会える日を楽しみにしています」と言う高橋さんの言葉を受け取った子どもたちは、拍手で応えていました。

【プログラム】
ドビュッシー:月の光
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第14番『月光』より 第3楽章
ショパン:ノクターン 第2番
ホルスト:組曲『惑星』より「木星」
取材・文:くりもときょうこ
撮影:金井真一