サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館)

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【レポート】第2回 サントミューゼ新進演奏家リサイタル  ジョイント・リサイタル

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第2回サントミューゼ新進演奏家リサイタル ジョイント・リサイタル

開催日
時間
14:00~
会場
サントミューゼ 小ホール

優秀賞 中島可絵(ピアノ)
特別賞・聴衆賞 塚田望生(ピアノ)


2023年の第2回サントミューゼ新進演奏家リサイタル選考会で優秀賞を受賞した中島可絵さんと、特別賞・聴衆賞を受賞した塚田望生さんのジョイント・リサイタルが開催されました。
ふたりとも上田市出身の音楽家とあって、会場には大勢のお客様が足を運んでいました。前半は塚田さん、後半は中島さん、そして最後は2台ピアノでの演奏です。
ステージに登場した塚田さんは、鍵盤を前に集中力を高め、小さく頷いてから演奏へ。2曲続けてショパンで『エチュード ハ長調』と『マズルカ 15番 ハ長調』です。「(エチュードは)とても壮大な曲で、病弱だったショパンがどうやって弾いていたのかなと想像します。この曲はリストに献呈されました。リストはきっと素早く弾いていたのではないでしょうか」。塚田さんの解説で、よりイマジネーションが膨らみます。

3・4曲目はリストの『超絶技巧練習曲』より第1番「プレリュード」と、『巡礼の年 第一年「スイス」』より「泉のほとりで」。現代で言うところのアイドル的存在だったリストらしい絢爛豪華プレリュードと、打って変わって優しさが溢れる好対照な選曲です。塚田さんの弱音は確かさと優しさが同居し、濁りのない音がします。

5・6曲目はプロコフィエフで『10の小品』より前奏曲「ハープ」と、バレエ音楽『ロミオとジュリエット』から「マキューシオ」です。5曲目はタイトル通り右手がハープのように鳴り、途中の短調はおどけているよう。「マキューシオ」はロミオの親友でその天真爛漫、破天荒なキャラクターを独特なリズムとスピード感で表現します。
7・8曲目はノルウェーの作曲家グリーグで、組曲『ホルベアの時代』の「前奏曲」と『抒情小曲集』から「トロルドハウゲンの婚礼の日」。彼の曲はノルウェーの雄大な自然と人間への愛を感じ、クラシックの中ではいちばん好きな作曲家なのだとか。

最後はシューマンの『ウィーンの謝肉祭の道化』より「インテルメッツォ」と「フィナーレ」です。「シューマンはドラマチックで文学的な、壮絶な人生を送りました。愛とは何かを考えながら演奏します」。

休憩を挟んでピアノを入れ替え、中島さんの1曲目はスクリャービンの『24の前奏曲』から7曲を抜粋して演奏します。タイトルから連想するのはやはりショパンの同名曲。スクリャービンのショパンへの尊敬の念が感じられます。中島さんの演奏は、それぞれの曲が持つキャラクターがはっきり感じられます。

続いては、同じロシアの作曲家シチェドリンの『2つのポリフォニックな小品』より「バッソ・オスティナート」。ジャジーな右手と、ウッドベースのように刻む左手のハーモニーに引き込まれていきました。
3曲目はショパンの『幻想ポロネーズ』。内省的で『舟歌』にも通じる優しさと穏やかさがありつつ、自由に解き放たれるような気ままさも。ショパンがこれまでの人生をひとり語りするような演奏でした。

「塚田さんからいろんな国を旅してきて、最後はふるさと日本の曲です」と紹介したのは、徳山美奈子作の『ムジカ・ナラ』。
懐かしさを感じる童歌のようなメロディから、ジャズのように展開していき、変拍子は踊りの場面でしょうか。地蔵、僧侶、仏像、邪鬼などが現代にタイムスリップして……という物語が込められています。

ここでおふたりのトークが挟まれます。中島さんはお母様がピアノ講師で、子どもの頃から生活の中に音楽がありました。今は音楽を教えている小さな子どもたちの成長にやりがいを感じています。塚田さんはピアノ以外に、宇宙研究に関心を寄せているそうです。

最後は、モーツァルトの『2台のピアノのためのソナタ ニ長調』より第1楽章です。最初の音から喜びに溢れ、おふたりのピアノによる掛け合いに自然と笑顔にさせられる演奏でした。

アンコールはサン=サーンスの『動物の謝肉祭』から「終曲」。さまざまな動物のモチーフがカーテンコールさながら登場して、にぎやかに終わります。

お客様の感想です。
長和町にお住まいのご夫婦は「初々しかったですね。特に最後の2台ピアノは楽しそうに弾かれていて、将来が楽しみです」と感想を話してくれました。塚田さんが通う屋代高等学校の同級生も駆けつけました。「いつもは天然でふわっとした雰囲気なのに、今日は全然違いました」「アンコールの冒頭の連打は最強でした」と、学校とは違う塚田さんの姿に驚いたようです。

【プログラム】

《塚田望生》
 ショパン:エチュード Op.10-1
 ショパン:マズルカ 第15番 ハ長調 Op.24-2
 リスト:『超絶技巧練習曲 S.139』より第1番「プレリュード」
 リスト:巡礼の年 第一年「スイス」S.160より「泉のほとりで」
 プロコフィエフ:『10の小品』より前奏曲「ハープ」と
 プロコフィエフ:『ロミオとジュリエット』より第8曲「マキューシオ」
 グリーグ:組曲『ホルベアの時代』より第1曲 前奏曲
 グリーグ:『抒情小曲集』より第8集「トロルドハウゲンの婚礼の日」
 シューマン:『ウィーンの謝肉祭の道化』より第4曲「インテルメッツォ」・第5曲「フィナーレ」

《中島可絵》
 スクリャービン:『24の前奏曲 Op.11』より
        第1番、第5番、第6番、第7番、第11番、第13番、第14番
 シチェドリン:『2つのポリフォニックな小品』より第2曲「バッソ・オスティナート」
 ショパン:ポロネーズ 第7番 Op.61「幻想ポロネーズ」
 徳山美奈子:ムジカ・ナラ Op.25

《2 台ピアノ》
 モーツァルト:2台のピアノのためのソナタ K.448 より 第1楽章

【アンコール】
 サン=サーンスの『動物の謝肉祭』から「終曲」

取材・文:くりもときょうこ
撮影:齊梧伸一郎