【レポート】中川賢一 クラスコンサート
- 会場
- サントミューゼ
2016年2月3日(水)at 武石小学校
美ヶ原高原の麓に広がる上田市武石は、上田市中心から車で20~30分ほどの場所にあります。
ゆるりとした段差がまるで波のように感じる棚田や、
遠くには浅間山などが見えるなど、豊かな自然に育まれています。
2月3日、武石小学校5年生を対象に
ピアニスト・中川賢一さんのクラスコンサートが開かれました。
校舎は、木材がふんだんに使われ、
子どもたちが心地よく過ごせそうなぬくもりある雰囲気に満ちています。
中川さん登場と同時に
ムスルグスキーの組曲「展覧会の絵」より「プロムナード」を演奏。
教室いっぱいに音が広がる演奏に、子どもたちは少々呆気にとられた表情を浮かべながらもじっと聴いています。
演奏を終えて、「今、演奏した曲を知っている人?」
と中川さんが声をかけると、8割ほどの生徒が手をあげました。
その結果に中川さんもおどろいた様子を見せながら、次の曲へ。
「次に演奏するのは、フランスのドビュッシーが作曲した『アラベスク第1番』です。
アラベスクはアラビア風という意味です。
アラビアと聞いて、ターバンを巻きながら笛を吹いて蛇を操る人を想像するかもしれませんが、
ここで言うアラビア風はアラビア絨毯の
もにょもにょとした唐草模様から来ています。
この曲はメロディーが唐草模様のようにもにょもにょしていて、はっきりしていません。
クラシックは歌詞がないので、どう解釈してもいい。
それがいいんです。次の曲では皆さん、自由に、好きな場所で聴いてください」
そう話すと、子どもたちは一斉に笑顔で駆け寄り、
ピアノをぐるりと囲むようにして聴き始めました。
なかには座り込んで、地面の振動を感じながら聴いている子も。
3曲目も同じくドビュッシーから、ベルガマスク組曲より『月の光』を演奏。
この時には目をつぶって聴いてほしいとお願いすると、子どもたちは少し恥ずかしそうに周りを見回します。
すぐに目をつぶって曲の世界をイメージする子、
まわりは目をつぶっているかな?とみんなの様子を見ている子など反応はさまざま。
それでも、少しずつ音楽を自由に聴く楽しみが伝わり始めているようです。
立て続けに3曲を終え、
今度はピアノという楽器に焦点を当てたトークが始まりました。
どういう仕組みで音が鳴るのか分かるように、
ピアノのアクションカットモデルを用意。
1つひとつのパーツを細かく説明し始めました。
「ピアノの音はコンピューターで出しているわけではなく、木と鉄のパーツが組み合わさって音を出しているんです。
鍵盤は全部で88個あります。
この鍵盤の音が常に良い状態にするために、ピアノのお医者さんと言うべき『調律師』という人がいます。
今回はサントミューゼのピアノも担当している宮下さんという調律師の方に登場いただき、ピアノを解体してみましょう」
子どもたちの「みやしたさーん!」という声とともに登場した宮下さんは、
慣れた手つきでピアノの鍵盤部を取り外していき、
20キロ以上あるピアノの弦部分をすっと取り出しました。
ピアノの内側を初めて見た子どもたちは、
「すごーい!」と歓声を上げながら興奮した様子。
「今度は弦の気持ちになってみよう」
と子どもたちを1列に並ばせ、弦に当たる部分となる
固く丸められたフェルトが子どもたちの手のひらに当たるよう、鍵盤を叩いていきます。
「世の中にはいろんな職人さんがいます。
私の職業はピアニストですが、調律師さんがいないと美しいピアノの音色を出すことができません」
再び鍵盤を元の位置に戻す作業をしている宮下さんを見つめながら、
ピアノに関連する職業についても話しました。
次は大屋根の役割を説明するために、
大屋根を開いた状態と閉じた状態で弾き、音にどれだけの違いがあるのか弾き比べたり、
ピアノの弦がどれだけ振動しているのかを見てもらおうと、ピアノの弦の上にピンポン玉を入れたりしました。
すると、ピンポン玉が生き物のように弾んでいます。
また鍵盤の下にある響板にオルゴールをあてると、音が大きくなります。
その仕組みに女の子は、「なんか、かわいい」と大騒ぎ。
このころになると、後ろで見ていた担任の先生たちも一緒になって参加。
ピアノの構造の後は、現代音楽の楽譜を読み解いたり、子どもたちが事前に描いてきた抽象画を見て中川さんが即興で演奏するなど、音楽を自由に楽しみ、演奏することを学びました。
ふだん何気なく学校にあるピアノを、
解体などを通じて新しい見方ができるようになった時間でした。