【レポート】中川賢一(ピアニスト)アーティスト・イン・レジデンス
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2015年11月の、ピアニストの中川賢一さんのアーティスト・イン・レジデンス。
まさに芸術の秋という言葉にふさわしい上田市内での、3日間の活動をレポート。
Day1
11月18日(水)アナリーゼ(大スタジオ)
参加者の前に颯爽と登場し「前奏曲嬰ハ短調『鐘』作品3-2」を演奏。
重厚感と緊張感が会場を包み込み、これまでのアナリーゼワークショップとは違った雰囲気で、
参加者を圧倒させたピアニスト・中川賢一さん。
この日は19日の地域ふれあいコンサート、23日の中川賢一「ピアノコンサート」をより深く楽しんでもらおう、
という主旨で行われたアナリーゼ(楽曲分析)ワークショップ。
ロシア出身の作曲家・ピアニスト・指揮者のラフマニノフに焦点をあて、中川さん自ら楽曲解説を行いました。
ラフマニノフは198cmと大柄で、同様にとても手が大きく、
鍵盤のCから1オクターブ上のGまで届いたといわれている、と中川さん。
楽譜を見ると、特に女性では押さえられない箇所が出てしまうほどだとか。
彼が生み出した作品について、「ラフマニノフの作品はとてもロマンチック。人生の浮き沈みや心の様子をドラマチックに表現しています」と中川さん。
演奏を挟みながら、「そもそも前奏曲とは?」という話にも触れ、
「元々はバッハなどのバロック時代に指慣らしだったり、その曲がどういう調性か、
それを表すための曲という位置付けだったものが独立していった」
「一番有名なのがショパンであり、ラフマニノフもそれを踏襲している」と話しました。
作曲家の歴史にとどまらず、より多角的にクラシックの名曲を深く知り、楽しむ内容になり、
参加したクラシックファンも納得できる内容に。
「悲しみと喜びが拮抗している」という言葉で分かるように、
聴く者も何かしら自分と重ね合わせるドラマ性がラフマニノフにはあり、
時代を経た今も多くの人を魅了している理由が探れた時間でした。
Day2
19日(木)地域ふれあいコンサート(上野が丘公民館)
14回目を迎えた「地域ふれあいコンサート」は、500円でプロのアーティストのコンサートを気軽に楽しめることから、
回を重ねるごとにファンを増やしています。
この日も、平日の夜7時の開演を前にぞくぞくと公民館に上田市民が集まりました。
1曲目は、ムソルグスキーの「組曲『展覧会の絵』より『プロムナード』」を、1音1音に想いを込めながら演奏。
2曲目からはドビュッシー「アラベスク第1弾」「ベルガマスク組曲より『月の光』「前奏曲第1巻より『亜麻色の乙女』」を演奏。
なかでも「月の光」は、中川さん自身が感じる曲の世界観を伝えながらも
「感じ方は自由で良い」と中川さん。
「もしよろしければ、目を閉じながら、さらには眠りながら聴いてください」という言葉とともに、
満月の夜に池の水面に映し出された月が風にゆらめく様子を繊細に表現。
クラシックの名曲ゆえ、観客もその世界に心地よく浸りました。
その後も、1曲ごとに作曲家や曲が作られた背景などを丁寧に話しながら演奏を続けた中川さん。
後半にさしかかり、クルターク・ジョルジィによる子どものために作られた「『遊び』より バーリント・エンドレを想って」では、五線紙にさまざまな図形が描かれた楽譜の形のとおり、手指を動かすだけで曲になるという、楽譜を自由に解釈して演奏する姿に、会場はおどろきと笑いで包まれました。
和やかな雰囲気の後には、アナリーゼワークショップで勉強した「前奏曲嬰ハ短調『鐘』作品3-2」、リスト「3つの演奏会用練習曲より『ため息』」を演奏。楽曲の世界観をダイナミックながら繊細に演奏する姿には緊張感が漂い、改めてピアニスト・中川賢一の凄さを感じられた瞬間でした。
そして最後は、1曲目と同様にムソルグスキー「組曲『展覧会の絵』より」、「キエフの大門」を演奏。
中川さん自身からにじみ出るピアノへの想い、そして「伝えたい」というパワーに魅了されたコンサートでした。
Day3
23日(祝・月)中川賢一 「ピアノコンサート」(小ホール)
中川賢一 featuring 越ちひろ ~Inspired by C.Debussy~
中川賢一 「ピアノコンサート」。この日は、ピアニストと画家がコラボレーションするという、劇場と美術館を併設するサントミューゼならではのプログラムが企画されました。
この日はそれぞれのファンがたくさんつめかけ、会場は満席でした。
第一部はピアニスト中川賢一さんが、「地域ふれあいコンサート」でも披露した
ムソルグスキーの「組曲『展覧会の絵』より『プロムナード』」、ドビュッシーの「アラベスク第1番」「ベルガマスク組曲より『月の光』」とクラシックの名曲を演奏。
一部の後半には、千曲市出身の画家・越ちひろさんが選曲したドビュッシーの前奏曲7曲を中川さんが演奏。
その曲を聴きながら越さんが別会場で”ライブペインティング”。
観客がいる小ホールのスクリーンに、別会場で絵を描く越さんの様子を同時中継。
中川さんの演奏と越さんがキャンバスに描く絵、そして映像を交えた幻想的な空間を演出。
中川さんが紡ぎ出す美しい音色を聴きながら、横幅3mの巨大パネルをじっと見つめる越さんの横顔が映し出される。
時に波打ち、時にはねるように描きながら、まるで1音ごとにまるで色を付けているよう。
音と色の気持ちよいグルーヴが小ホールに満ち、これこそがライブの醍醐味!といわんばかりの30分。
休憩を挟んでもなお余韻に包まれた会場。第二部の1曲目はブゾーニ編曲の「シャコンヌ」からスタート。「この曲は人間のさまざまな苦難を表し、人生のようです。弾いている時は曲と闘っているようで、精神力を試される1曲です」と中川さん。
コンサートの最後はブゾーニと同じく19世紀後半から20世紀前半に活躍した、ラフマニノフの「前奏曲嬰ハ短調」を演奏しました。厳かな鐘の音を連想させる主題からはじまり、後半につれて高まりを見せるなどとてもドラマチック。幻想的な時間を体験できたコンサートでした。
中川さんのパワー、繊細さに酔いしれた3日間。ピアニストとしてはもちろん、
クラシックの枠に留まらないアーティスト性、ユーモラスな話術(笑)も含めて“魅せる”ピアニストだと再確認しました。