【レポート】名古屋フィルハーモニー交響楽団 名曲コンサート
- 会場
- サントミューゼ
名古屋フィルハーモニー交響楽団 名曲コンサート
7月7日(土) 15:00~ サントミューゼ大ホール
日本を代表するオーケストラがクラシックの名曲をお届けする、サントミューゼの「名曲コンサート」。この日の演奏は名古屋フィルハーモニー交響楽団です。中部・東海を代表するオーケストラとして、地域はもとより国内で確固たる地位を築いています。
この日の指揮を務めるのは、若手気鋭として注目の川瀬賢太郎さん。
そして「ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品75 『皇帝』」では、日本とイギリスを拠点に世界で活躍するピアニストの小川典子さんがソリストとして登場しました。
第1楽章の冒頭、象徴的な和音とともに、まるで泉が湧き出るように清らかで華やかなピアノの音色が魅了します。
第2主題では、ドラマチックな短調部分と優美な長調部分とのコントラストが印象的でした。 この第1楽章は変ホ長調。本公演に先がけて行われたアナリーゼ(楽曲分析)ワークショップで、指揮者の川瀬さんは「神や英雄を描く曲には変ホ長調が使われました」と解説してくれました。「皇帝」というタイトルはベートーヴェン本人がつけたものではないとする説がありますが、壮大なオーケストラのハーモニーとピアノ独奏の濃密な音色からは、皇帝にふさわしい美しく力強い世界観が伝わってきます。 木漏れ日を思わせるゆったりとした音色で始まった第2楽章。オーケストラのおおらかな音色に華やかなピアノが重なり、世界が広がっていくような感覚です。
そして途切れることなく第3楽章へ。ダイナミックでありながら小気味よいハーモニーが、気持ちを盛り上げます。 演奏後、客席から注がれる惜しみない拍手に笑顔で応える小川さん。ソリストアンコールで披露したのは、「エリーゼのために」。優しすぎず洗練された印象の音色は、永く親しまれている名曲の呼び名にふさわしく、聴くたびに新たな表情を見せてくれます。
前半終了後、休憩のロビーでは小川さんのサイン会が行われました。ピアノを習っているという小学生の女の子は「すごい演奏でした」と話し、小川さんのリサイタルに行ったことがあるという女性は「オーケストラとの共演は違う良さがあり、素晴らしかった」と感想を話してくれました。
そして第二部。「交響曲第3番 変ホ長調 作品55『英雄』」の演奏が始まります。
プログラムノートには、「この交響曲を境に、交響曲は壮大で記念碑的なジャンルとして新たな意味を持つようになった」と記されています。それは曲の長さがそれまでの古典派のほぼ2倍に近くなったこと、さらに従来2本だったホルンが3本使われていることからも伺えます。
第1楽章の冒頭から躍動的に伸びやかに、体を揺らしたくなる音色が響きます。曲が持つ豊かな表情を、いきいきと引き出していく川瀬さんの指揮。アナリーゼで解説されていた通り、3拍子ながらアクセントの位置が移り変わることで躍動感が生まれ、時にスリリングにも感じるほど。音の強弱がpppからffへと一気に変化する部分もダイナミックで、気持ちのいいグルーヴが生まれていました。
地を這うようなメロディーで始まる第2楽章は「葬送行進曲」。
棺を担いで足を引きずり歩く姿を思わせる暗い音色は、北風が吹きつけるように悲哀の色を増していきます。かと思えば一転、明るい長調のメロディーへ。川瀬さんはアナリーゼで「ここは亡くなった人の楽しい思い出を振り返っているのかもしれない」と語っていました。そんなふうにストーリーに思いを巡らせて耳を傾けると、音がいっそう奥行きを増して感じられます。
そして再び短調へ戻るとフーガが神々しく響き、死への厳かな思いが感じられました。 ダイナミックで躍動的な第3章では、ホルンの三重奏が登場。最後の第4楽章は明るく、少しだけおどけたようなメロディーです。「英雄」というタイトルとはアンバランスな気もしますが、もしかするとベートーヴェンは、英雄の人間らしい一面も描いたのかもしれません。 演奏後、割れんばかりの拍手で包まれた会場。ベートーヴェンの音楽に身をゆだねた豊かなひと時が幕を下ろしました。
訪れた人に感想をお聞きすると、「ベートーヴェンの曲を久々に聴けて良かった」「迫力があり、感動した。毎年演奏に来てもらえたら」などの声が聞かれました。
【プログラム】
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品75 『皇帝』
ベートーヴェン:交響曲第3番 変ホ長調 作品55『英雄』
ソリストアンコール ベートーヴェン:エリーゼのために