【レポート】リサイタルシリーズvol.39 田中拓也&中野翔太 デュオ・リサイタル ~若きトップ奏者2人が紡ぎ出す響き~
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- サントミューゼ
2021年1月23日(土)
2020年10月から11月にかけて市内各地でアウトリーチ活動に取り組んできたサクソフォニストの田中拓也さんとピアニストの中野翔太さん。輝かしい受賞歴を誇り全国各地でさまざまな活動を展開する2人の若き奏者の演奏を聴こうと、この日も多くの観客が集いました。
1曲目は、クラシックとジャズを融合させ数多くの名曲を生み出したガーシュウィンの「3つの前奏曲」を演奏。独特のリズムで展開されるスイング感のある曲に、会場の雰囲気が明るさを帯びたように感じました。
演奏を終えて挨拶をした2人は、「新型コロナウイルスで自粛の動きが広がる中、もしかしたら会場はすっからかんかもしれないと心配でした。しかしながら、今たくさんのお客さまを目にして本当にうれしいです」と挨拶。つづいて中野さんが「 “祈り”を意味する曲を演奏します」とソロ演奏へ。スペインの風景が思い浮かぶようなリズムと、哀愁を感じる余韻のある音に浸りました。
再びデュオに戻り、「牧神の午後への前奏曲」を演奏。オリジナルはフルートとピアノのために作られた曲をサックス用に編曲。美しい和声からは「質感を感じる」と田中さん。
4曲目は中野さんが作曲した「For You」。新型コロナウイルスによる外出自粛期間に我が子と触れ合い、遊ぶ中で生まれた曲です。音階の「レ」と「ミ」が多用されているのが特徴で、子どもとの楽しい時間を思わせるリズムにテンションが上がりました。実はこの演奏中、中野さんは電子楽譜の画面を何度も指で触れていたのですが・・・、この話はまた最後にお話しましょう。
前半最後の曲は「スカラムーシュ」です。ジャズの影響も受けた明るい曲で、サックスの軽快な音色が喜劇役者を思わせるようでした。
後半は、良く知られたクラシックの名曲、ドビュッシーの「月の光」からスタート。時折吹く夜風や、にじむようにスーッと差し込む光・・・中野さんが連想している月の光の風景は、とてもおだやかなものであろうとの印象を受けました。一転してピアソラの「Escualo」は、鮫が近づいてきて死闘をくり広げるかのような緊張感あふれる音が展開。
「後半では自然や生き物をテーマにした作品を多く演奏します。この後の曲は上田市内の小学校でも演奏した曲が続きます。固定観念にとらわれないように小学校ではあえてタイトルを伝えずに曲を聴いてもらいましたが、児童たちからは、曲のイメージを表現する想像力豊かな感想が次々に飛び出しました。
「音楽は一人ひとり感じ方が違うものです。想像力を膨らませて聴いてください」と田中さんが話し、「熊蜂の飛行」「森の響き」「黒鳥の歌」「白鳥」を演奏。
そして、アナリーゼの題材になった吉松隆さんの「ファジィバード・ソナタ」を演奏。さまざまな音楽に情熱を傾けてきた吉松さんは自身を「雑食系」と評していますが、「サックスという楽器も雑食系の楽器で、クラシックやジャズ、ロックなどジャンルレスに使われています」と田中さん。
15分ほどの曲の中にはジャズやロック、民俗音楽などが融合されていて、章がすすむにつれて緻密に構成されていた曲がどんどん曖昧になり、最後は即興に転じます。その変化はまさに“ファジィ(曖昧であること)”で、この曲には音の世界に身を委ねる楽しさがあります。
アンコールでは、前半の「For You」に触れ、「実は演奏中にハプニングがあって、電子楽譜をめくったら最後のページに飛んじゃったんですよ!」と中野さん。「普段は飄々としているのですが、あんなに緊張した表情は初めて見ました」と田中さんがフォローしつつ、「もう一度演奏していいですか?」と客席に確認してから、「For You (Take2)」を演奏。ミスなく終えてホッとした表情の2人は、最後に「アヴェ・マリア」を演奏。艶やかな音色を響かせるサックスと情感豊かなピアノでコンサートを締めくくりました。
プログラム
G.ガーシュウィン:3つの前奏曲
E.グラナドス:スペイン舞曲集Op.37 アンダルーサ(ピアノ・ソロ)
C.ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
中野翔太:For You
D.ミヨー:スカラムーシュ
第1曲 ヴィフ
第2曲 モデレ
第3曲 ブラジルの女
・・・《休憩》・・・
C.ドビュッシー:ベルガマスク組曲より 第3曲「月の光」(ピアノ・ソロ)
A.ピアソラ:Escualo(鮫)
N.リムスキー=コルサコフ:熊蜂の飛行
S.グバイドゥーリナ:森の響き
H.ヴィラ・ロボス:黒鳥の歌
C.サン=サーンス:白鳥
吉松隆:ファジィバード・ソナタ
第1楽章 Run, bird
第2楽章 Sing, bird
第3楽章 Fly, bird
〈アンコール〉
中野翔太:For You
グノー:アヴェ・マリア
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