【レポート】2020.9.4(Fri) 仲道郁代~アナリーゼワークショップvol.42~
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新型コロナウイルスの感染拡大以降、開催を中止していた「アナリーゼワークショップ」ですが、約半年ぶりに開催されました。
今回は9月26日(土)に当館小ホールにて「オール・ドビュッシー・プログラム」のリサイタルを控えたピアニストの仲道郁代さん。
当日のプログラムの魅力を、仲道さん自身がわかりやすく解説するアナリーゼワークショップが行われました。
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当日は多くのファンが集まるなか、仲道さんは「久しぶりの上田は懐かしいし、嬉しい」とにこやかに何度も口にしながら、アナリーゼはスタート。
◆コロナ禍におけるアーティストとしての心情の変化◆
「音楽家として活動を続けて30年になりますが、久しぶりに立つ舞台はとても怖くて、これまで積み重ねたものがこの数カ月でがらりと変わりました」
そう語るように、仲道さんはコロナ禍でスケジュールがキャンセルになり、閉塞感を抱えながら過ごしながらも、
「音楽という言葉は名詞ですが、奏でる人・聴く人の双方があって初めて音楽になることを改めて感じました。この言葉は動詞なのだと理解するようになりました」
と語ったように、自身の音楽観にも変化があったそう。
◆ドビュッシーの世界観◆
そして話題はドビュッシーの音楽の世界観へ。
子どものころに感じた感覚に触れながら、次のように仲道さんは語ります。
「彼の作品の世界は本当に独特です。子どもの頃の体験を思い出します。夕暮れのなか、近所の友だちと外で遊んでいたときのことなのですが、だんだんと暗くなっていく時間が怖かったのです。夢中になって遊んでいて、ふと夜の闇とお日さまの境界がある時間帯に自分はどこかにひゅーっと消えてしまいそうな不思議な感覚を抱いていました。その感覚とドビュッシーの世界は、通じるところがあります」
「空気の中に現実とは異なる空気があり、怖くもあり美しくもある曖昧さが存在する。それがドビュッシーの世界観です」
◆ドビュッシーのルーツ◆
こうした世界観のルーツを紐解いていくため、仲道さんは彼のいた時代背景を履歴書にあてはめて解説します。
1862年にパリ郊外のサン・ジェルマン・アン・レーで生まれたクロード・アシル・ドビュッシー。彼はショパンの弟子をしていた人に付いて音楽を勉強してきました。
その後チャイコフスキーやワグナーに影響を受けた時代もありました。
ドビュッシーの活躍していた頃は印象派が台頭しており、デカダンスやオカルト、サロンなどの流行の中、彼は独特の美的感覚を磨いていきました。そこに人生のプライオリティーを持っていたのであろうと仲道さんは推察します。
◆ドビュッシーの楽曲の特徴◆
ここで話題はドビュッシーの楽曲の特徴へ。
スクリーンに譜面を映し、ピアノによる実演を挟みながらお話が進みます。
「これからマジックが始まりそう」
そう表現したように、ドビュッシーの楽曲には、和音の並行な動きをはじめ、教会旋法や全音音階が用いられています。
そして、リサイタルで演奏予定の「音と香りは夕暮れの大気に漂う」という曲名の詩的な美しさに感嘆。
ドビュッシーはボードレールやヴェルレーヌといった詩人たちに傾倒したことでも知られているそう。
そんなヴェルレーヌの詩に触れながら、ドビュッシーが
「サンセットほど音楽的なものはない」
と語った言葉に注目し、仲道さんがかつて夕暮れ時に感じていた感覚に通じるものがあると語りました。
◆印象派の絵画とドビュッシー◆
ここで話題は印象派の絵画とドビュッシーの世界観との比較へ。
スクリーンにスーラやモネ、ルノワールの絵画を映しながらお話が続きます。
例えばモネの作品は近くで観ると色だけを感じますが、遠くで観ることで初めてその描かれた世界が目に飛び込んできます。
ルノワールの作品は肌を表現する際に白や赤、黄色、緑など複数の色が混ぜ合わせずに、あの滑らかな肌を描いています。
このように、印象派の作品には明るい単色を巧みに使って表現したい世界を創造していることがわかります。
こうした印象派の絵画の描き方は、ドビュッシーを弾く時のタッチともつながっているのだそうです。
最後に仲道さんは、
「ドビュッシーの曲は“理解しよう”と努めるのではなく、魔法劇場に入ったような気分で、音の粒子が形になって変容するさまを体感し、“音の世界に浸る”感覚で聴いていただきたいです」
と締めくくりました。
仲道さんが幾度となく「独特」で「不思議」と表現したドビュッシーの作品の世界。
そんな世界にあなたも一度触れてみてはいかが?