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【レポート】ショパンとブラームス ロマン派演奏会

みる・きく
会場
サントミューゼ

ショパンとブラームス ロマン派演奏会
2017年9月3日(日)14:00開演 at小ホール

 

 

2日間上演された「ロマン派症候群」の余韻が残るステージで行われた、その名も「ロマン派演奏会」。

物語の中で演奏された曲を始め、作品のテーマであるショパンとブラームスの曲を解説と共に演奏します。

 

 

出演は、舞台でも素晴らしい演奏で魅了したピアニストの仲道郁代さん、バイオリニストの川久保賜紀さん、そしてチェリストの加藤文枝さん。

 

 

物語で象徴的なセットとして使われていた白いドアからステージに登場した仲道さんは、
「ショパンもブラームスも、そしてきっと客席の皆さまも、心の中に“開けたくない扉”を持っているはず。

その扉の向こう側にあるものを見出そうとするのが、芸術なのではないでしょうか。

音楽で何を見出すのか、今日の演奏からお聴きいただけたら」
と語りました。

 

 

第1部は、ショパンのピアノ曲を堪能するプログラムです。
「ロマン派症候群」の中でも象徴的に描かれる雨をモチーフにした曲「雨だれ」。

ショパンはこの曲を作った時、スペインのマヨルカ島で病気療養中でした。

輝く太陽を求めて訪れたはずなのに冷たい長雨に見舞われ、心にも体にもたいそうこたえたのだそう。
「“恵みの雨”という言葉もありますが、この時のショパンはやまない雨に絶望を見て、死をも意識したのではないでしょうか」
優美なメロディーの裏には、そんなショパンの絶望があったのかもしれない。

そう感じながら耳を傾けると、昨日の舞台で感じたショパンの横顔が蘇ってきます。

 

 

「ロマン派症候群」で描かれたショパンは、いつも自身の過去と対峙し、堂々巡りを繰り返す悩める一人の人間でした。

そんな印象を胸に聴く「スケルツォ」は、速いテンポや明るい旋律の中にも哀しみがひそんでいるかのよう。

まるで会話をしているような冒頭のリズムやドラマチックな展開が、一つの物語を思わせます。

 

 

そして作品ににじむ、祖国ポーランドへの想い。

若くして故郷をあとにしたショパンは、内戦が続くポーランドを憂い、何もできない自分に歯がゆさを感じていたのかもしれません。

それをうかがわせる「革命」の情熱的な旋律、対して同時期に作られた「別れの曲」は、ショパン自身が「最も美しいメロディー」と語ったとされる優美な曲です。

 

ピアノという一つの楽器で、多様な心のひだを描き切ったショパンに改めて感じ入ると共に、ショパンが何を想い、何を求めて曲を生み出したのかといったことに想いをはせながら耳を傾けると、さらに表情豊かに響いてくるよう。

 

 

頭の中ではときおり舞台でのセリフが蘇り、ショパンがどのような人なのか輪郭を思い描きながら聴く体験は、クラシック音楽との距離を少しだけ近づけてくれました。

 

 

そして第2部はバイオリンの川久保さん、チェロの加藤さんが登場し、ブラームスの「ピアノ三重奏曲」を披露。

舞台では第2楽章が演奏されましたが、この日は全楽章を披露してくれました。

 

 

ブラームスが20歳の時に書き、60代で書き直したというこの曲は、
「ブラームス自身の人生での時間の流れが、この曲の中にあるんです」
と仲道さん。

 

この曲は、以前仲道さんが行ったアナリーゼワークショップでも紹介された曲。

実は曲の最初の要素が1楽章の最初のメロディーにあり、それがさまざまに変化しながら4楽章まで続いていきます。

 

 

それを意識しながら聴くと、変化する曲調を包むひとつの大きな世界観が感じられるよう。

若い時の作品に向き合い、自身の円熟した感性をもって再構成した作品にはブラームスのさまざまな時代や想いが凝縮されているかのようで、舞台で感じた彼の物怖じしない印象も手伝ってか、大きな流れにゆったりと身を委ねる心地よさがありました。

 

 

演奏後は大きな拍手がいつまでも鳴り止まず、余韻のなかでアンコールの「愛の挨拶」を披露。

 

 

終演後のサイン会には長い長い列ができていました。

 

 

「ロマン派症候群」の舞台を観た人はもちろん、そうでない人の心にも多くを訴えたのではないでしょうか。