【レポート】COASTER2017
- 会場
- サントミューゼ
2017年3月10日 サントミューゼ大ホール
Doris&Orega+水戸芸術館PRESENTS『COASTER2017』
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Doris&Oregaは西村雅彦さん自らが企画し、彼の高感度な演劇的アンテナで受信した“気になる役者”を揃えて作品を作り上げるプロデュース公演です。
今回は、10年前に上演され好評を博した『COASTER』をベースにさらなる練り込みを加えました。
“より多くのお客さまに楽しんでいただける作品に仕上がりました”とインタビューで西村雅彦さんが答えた言葉通り、老若男女が腹を抱えて笑い、手に汗握りながらじっと舞台に視線を送り続けるような、上質なエンターテインメント作品でした。
劇場に足を踏み入れると、舞台をフルに使ったバーのセットが目に飛び込んできました。
まるで本当のバーかと錯覚するようなカウンターや座席。
薄ぼんやりと浮かび上がる、壁面に飾られた無数の絵画。
さらに客入れの音楽は、登場人物でもある小説家・南条虎之助がパーソナリティを務めるラジオ番組という設定で、一気に劇の世界へと引き込まれ、期待も膨れ上がります。
物語は『コースター』という名前のバーに忍び込んだ、大泥棒・西園寺泥麻呂(西村)の登場を皮切りに、登場人物全員が時に主役となり、時に脇役になるという目まぐるしくもぐいぐいと話の行く末が気になる構成です。
壁に飾られた名画を盗み出そうと孤軍奮闘する西園寺泥麻呂ですが、そこにバーのオーナー(飯島直子)とマスター(浅利陽介)が入ってきてしまい、焦る西園寺。
とっさに口をついて出た「新入りのバーテンダーです」という嘘から、物語は急展開を見せてきます。
次々と現れる、小説家(本多力)、カップルの客(MEGUMI、鴈龍太郎)、警察官(デビット伊東)。そんな彼らに「こいつ怪しいぞ!」と追い詰められ、正体を暴かれそうになる西園寺。
しかし気がつけば「こいつ怪しいぞ!」どころか、全員が怪しく見えてきます。
大泥棒に親近感を抱くバーのオーナー、明らかに何かを隠しているマスター、チグハグ感の否めない美女と野獣系カップル、奇妙なテンションで場を引っ掻き回す小説家、恋人にフラれメソメソしているおネエ系警察官。
いったい彼らは何者なんだろう? 本当は誰なんだろう? 物語を追い掛けながら、常に疑いながら登場人物を見てしまいます。
中盤に差し掛かると、西園寺泥麻呂とカップルの客、バーのオーナーとマスターを中心に、徐々にその人物像や人間関係が浮かび上がってきます。
潜入捜査をしている刑事、絵画の贋作づくりに携わっていた男、その贋作づくりを依頼していた人物―。
少しでも劇から目を離せばあっという間に置いてけぼりにされてしまいそうなスピーディなやり取りのまま、ラストへとなだれ込んでいく劇構成はとにかく観客を夢中にさせます。
その心地良い緊張感をうまく緩和する小説家と警察官のコミカルなやり取りも本作品の見どころのひとつ。
さらに西村さんが本作品について“演劇の可能性をとことん追求した”とも語っているように、さまざまな演劇的表現で観客を掴み続けます。
ワンシチュエーションのコメディをベースに、ミステリー、シリアス、さらにはミュージカルや劇中劇のシーンも挟み込むという贅沢な演劇です。
しかしそこに唐突感はありません。
コメディとの境界線をなじませながら、味の違う劇へと変化させています。
その構成は、劇中の人物に対する観客の心のゆらぎとも絶妙にシンクロします。
気がつけば新入りのバーテンダー、気がつけば保険会社の調査員、気がつけば潜入捜査の刑事、気がつけば……気がつけば……気がつけば……の繰り返しを以って劇は進行し、あっという間の90分。
上田公演を意識した台詞やカーテンコールも含め、見どころ満載の作品でした。