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【レポート】礒絵里子 ヴァイオリンリサイタル

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サントミューゼ

礒絵里子 ヴァイオリンリサイタル

2017年11月18日(土)14:00開演 at 小ホール
10月から11月にかけて12日間上田に滞在し、学校でのアウトリーチや公民館での地域ふれあいコンサートを行った礒絵里子さん。

今年でデビュー20周年を迎え、国内外で広く活躍する礒さんが今回のリサイタルで選んだ演目は、没後120年を迎えたブラームスのヴァイオリン・ソナタ全曲です。

 

 

華やかなピンクの衣装をまとい、ピアニスト・練木繁夫さんと登場した礒さん。

 

 

まず演奏したのは、ブラームスが大先輩のシューマンと友人のディートリヒとともに20歳の時に作曲した「『F.A.E.ソナタ』より スケルツォ ハ短調」です。
先の地域ふれあいコンサートでも演奏された楽曲で、冒頭の勇壮で躍動的な音色から一気に会場が独特の緊迫感と情熱に包まれるようでした。

 

 

そんな力強い演奏のあとに「本日は曇り空のなか、ようこそお越しくださいました」と、いつもの明るい笑顔で挨拶をした礒さん。

そして「本日は素晴らしいピアニストとともに、皆さんをどっぷりとブラームスの世界にお連れしたい」という言葉に、会場からは熱い拍手が起こりました。

 

 

 

続いて、プログラムを紹介。
次のプログラムである「ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト長調『雨の歌』作品78」は、「スケルツォ」から20年以上の時を経てブラームスが46歳の時に発表された作品ですが、自己批判の強いブラームスは、その間、4~5作を書いては破棄していたそうです。
そして、夏の避暑地として愛していたオーストリアのベルチャッハでやっと完成したのがこの曲でした。

 

副題の「雨の歌」は第3楽章の冒頭の旋律をブラームスの歌曲「雨の歌」から引用していることに由来しており、礒さん曰く「とても愛された曲」だったのだそう。
また、後半に演奏する「ヴァイオリン・ソナタ第2番イ長調 作品100」と「ヴァイオリン・ソナタ第3番 ニ短調 作品108」と合わせ、

 

「この3つのソナタは己に厳しいブラームスがやっと残したもので、マスターピースといっていい作品です」

 

という礒さんの言葉からは、ブラームスに対する敬意と敬愛の気持ちが伝わってくるようでした。

 

そして、「秋の終わりにぴったりな作曲家の音楽の旅を私たちと一緒にエンジョイしましょう」という言葉に続き、「ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト長調『雨の歌』作品78」を演奏。

 

 

「雨の歌」とは引用ではありますが、全体的に雨の日のような抒情的な雰囲気や哀愁が漂う作品で、第1番の繊細な旋律や弦を指ではじくピチカートの音色はやさしい雨のようでした。

 

また、第2楽章は、ブラームスが叶わぬ恋をしていたシューマンの妻・クララが息子の病気に心を痛めていたことから、彼女を労わる意味が隠されていたそうで、ブラームスの悲哀感や母子に対する深い愛情が伝わってくるように感じました。
そして、第3楽章は、クララが深い感銘を受け「あの世にもっていきたい曲」と述べたという美しい旋律が印象的で、練木さんのやさしく温かいピアノの演奏がヴァイオリンのしなやかな音色を支え、楽曲の美しさをより際立たせているようでした。

 

 

 

休憩を挟んで後半は、ターコイズブルーの鮮やかなドレスで登場した礒さん。
「ヴァイオリン・ソナタ第2番イ長調 作品100」も、地域ふれあいコンサートで演奏された曲です。

 

 

内向的なブラームスが多くの友人に囲まれて充実した作曲活動を展開していた時期の曲で、ロマンティックな美しい旋律が礒さんの大胆で伸びやかな演奏によってキラキラと輝いて聴こえます。

しかし、どこかもの悲しく切ない気配も漂い、ブラームスの作品らしい趣を感じさせました。

 

プログラム最後の「ヴァイオリン・ソナタ第3番 ニ短調 作品108」は、ブラームスが精神的に圧迫されて人生を諦観するようになり、音楽も内向的な傾向を強めていった時期に作曲されたものだそうで、前2作品のソナタよりもより深い憂愁や悩ましさが感じられました。
反面、第1~3楽章に比べて第4楽章はドラマティックでほの暗い情熱も感じ、ヴァイオリンとピアノのコンビネーションも見事。

 

 

ヴァイオリンのダイナミックな音色を支えて楽曲全体の骨格を形づくるピアノの演奏がまた素晴らしく、壮大なスケールや重厚な渋みなど、ブラームスのヴァイオリン・ソナタの集大成のようだと感じて非常に魅了されました。

 

アンコールには「聴いている皆さんも疲れたのではないでしょうか」と話していた礒さん。

先の地域ふれあいコンサートでも「ブラームスのソナタ全曲を演奏して体力がもつか心配」と語っていましたが、見事、演奏しきった姿には清々しい充実感が溢れていました。
また

「この秋、ブラームスにハマり、一人の作曲家でコンサートのプログラムを組むのは初チャレンジでしたが、今後の音楽人生に光が差したように感じました。

上田で練木さんと共演できたことも得がたい経験でうれしく思います」

との挨拶からは、達成感とともにこれからも続いていく長い音楽人生への新たな決意のようなものも感じられました。

 

 

アンコールには「ヴァイオリン・ソナタ第2番イ長調 作品100」と同時期に作られ、互いに影響しあったと言われる歌曲「旋律のように」と、ブラームスと同じくウィーンで活躍したクライスラー「ロンディーノ」を演奏。

 

「秋の終わりにぴったりな作曲家」と礒さんが紹介したブラームスの魅力を存分に堪能でき、同時に、礒さんの音楽への情熱や意気込み、希望も感じられた演奏会でした。

 

演奏後は大きな拍手が会場全体に響いていました。