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【レポート】加藤文枝コンサートin上田養護学校

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サントミューゼ

加藤文枝 アクティビティコンサート

 

2017年5月10日(水)長野県上田養護学校

 
サントミューゼでは上田市内9地域すべてにおいて、小・中学校でのアウトリーチ活動や公民館コンサートなど、芸術家とふれあうさまざまな体験事業を実施しています。

その一環として、福祉施設や養護学校などに出向く「アクティビティ事業」が長野県上田養護学校のプレイルームにて行われました。

 

訪問したのは、これまでに多数のオーケストラとの共演があり、日本各地でソロリサイタルや室内楽コンサートに多数出演するチェリストの加藤文枝さんと、ピアニストの小澤佳永さん。

おふたりでのコンサートも数多く行っており、翌日にはサントミューゼ小ホールでの公演も控えていた中での開催です。

 

 

参加したのは、同校に通う小学部から高等部までの音楽好きの生徒80人ほど。

普段、校内でこういった企画が行われることはほとんどないそうで、生徒だけでなく先生方からも楽しみにしていた様子が伝わってきました。

 

「今日はチェロがどんな楽器なのか、どんな音がするのか楽しみましょう」という教頭先生の挨拶の後、登場したおふたりはエルガー「愛の挨拶」を演奏。

すると、生徒たちはすぐに体を揺らしてリズムを取ったり、手拍子をしたりと、思い思いに音楽を楽しんでいました。

一流の演奏を間近に体験できる貴重な機会への喜びを、素直に全身で表現しているようでした。

 

そして、加藤さんが「今日は短い時間ですが、皆さんと想像力を使って楽しいことや悲しいこと、綺麗な景色などを思い浮かべながら音楽で遊びたいと思っています」と挨拶。

 

 

その後、「何の動物かわかりますか?」と尋ねながら、1枚の絵を生徒たちに見せました。

生徒たちからは「象」「きりん」といった声とともに「白鳥」という答えが。
「そうです、今から演奏するのは白鳥をテーマにした曲です」と加藤さん。

すると、小澤さんがサン=サーンス「白鳥」のピアノ部分を演奏し、加藤さんが「この音は湖面の揺れる感じやキラキラした光を表現しています」と紹介。

 

続いて、ピアノに合わせた優雅なメロディをチェロで奏でました。

普段、学校や保育園での演奏機会も少なくないというおふたり。

さすが、生徒たちとのやりとりもスムーズで、彼らの心を掴んでいるようでした。

 

「次にクイズ形式のゲームをやりたいと思います」と加藤さん。正解があるのではなく、みんなで一緒に考えるゲームです。
「今から弾く曲を聴いて、頭に浮かぶ色は赤でしょうか、黒でしょうか」と尋ねた後、フォーレ「蝶々」を演奏。

加藤さんの穏やかな口調とは対照的な力強い演奏に、少し集中力をなくしていた生徒も次第に食い入るように加藤さんの指の動きを見つめ、演奏後は「オー」というため息のような歓声が。

「赤と黒、どちらだと思いましたか」との問いにはどちらも同じくらいの数の手が挙がっていました。

このように、プログラムには生徒たちを演奏に引き込む工夫が随所に感じられました。

 

 

その後は、歌詞を伴わず母音のみで歌われる「ヴォカリーズ」の演奏から意味合いや歌詞を想像してもらったり、ピアノソロでは再びクイズ形式で「昼の曲か、夜の曲か」を考えてもらったり。

クイズでは高等部の生徒から「夜の雰囲気の曲に聴こえた」「太陽が出てきた明るい感じに聴こえた」といった声が聞かれ、想像力が掻き立てられているようでした。

 

また、加藤さんのチェロ独奏も披露。

チェロという楽器の特徴を紹介した後、「日本にも似たような楽器がありますが、今から日本の音楽をチェロで演奏します」と話し、黛敏郎「BUNRAKU」を奏でました。

ピチカート(指弾き)でしっとりと始まる日本音階の落ち着いた曲調ながら、次第に弓で弾く激しさや荒々しさに包まれ、生命力に溢れた作品はあまりの迫力に圧倒されるほど。

演奏後、加藤さんは「全身で弾くので走った後のようです」と話していましたが、まさにその全身全霊の気迫が感じられる演奏でした。

 

 

最後は「悲しいことや幸せなことなど、結末を想像しながら、物語の主人公になってもらえますか」と紹介し、ポッパー「ハンガリー狂詩曲」を演奏。

華やかさと躍動感を合わせもった魅力的な旋律により、目の前でさまざまな物語が展開していくようでした。
そして、教頭先生からは「もうちょっと聴いてみたいですよね」とアンコールのリクエストが。

 

おふたりは驚きの表情を浮かべながらも、ピッタリの息でパラディス「シチリアーノ」を演奏。

すると、ひとりの生徒が立ち上がってうれしそうに両手を大きく動かしている姿が印象的でした。

 

 

 

こうして幕を閉じた演奏会。

おふたりが落ち着いて演奏に集中している姿も素晴らしく、生徒たちのストレートな反応も音楽の本質的な魅力を物語っているようでした。

最後に、高等部の木工班が作ったペンスタンドをおふたりにプレゼントするサプライズも。

 

 

どうやら、高等部の生徒の参加は直前に決まったそうですが、それでも何かを贈りたいという彼らの温かい気持ちも、おふたりに届いたことでしょう。
生徒たちからも先生方からも、新鮮な喜びや充実感が感じられた体験事業でした。