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【レポート】高校生が創る実験的演劇工房4th「夏の夜の夢」

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【レポート】高校生が創る実験的演劇工房4th「夏の夜の夢」
上田市交流文化芸術センター 演劇創造事業
高校生が創る実験的演劇工房4th「夏の夜の夢」

稽古/2017年11月27日(月)、29日(水)〜12月4日(月)、6日(水)〜8日(金)
公演/2017年12月9日(土)10日(日) 両日14:00開演 at 大スタジオ

 

 

上田市の高校演劇班の生徒が集まり、プロの演出家の指導のもと、限られた日数でひとつの舞台を作り上げる。

そんな実験的で冒険に満ちたプロジェクト「実験的演劇工房」も今年で4回目を迎えました。

学校の垣根を越えての交流が生まれ、プロの演出家との作品創作、地域の劇場スタッフとの交流など、普段の高校生活では生まれない出会いと経験がここにはあります。

 

脚本と演出は、昨年に引き続き劇団「田上パル」を主宰する田上豊さん。

今回のコンセプトは「高校生がシェイクスピア作品と邂逅する」です!

 

 

⬛︎稽古は10日間。27人でシェイクスピア作品に挑戦

稽古初日。

上田東、上田染谷丘、上田千曲、上田、丸子修学館の5校の演劇班から「実験的演劇工房」史上最多の27人が集結しました。

前年や前々年に参加したメンバーの姿もあり、「久しぶり!」と声をかけ合う姿も。

田上さんも久々の再会に笑顔がこぼれます。

 

 

この日初めて配られた上演台本のタイトルは「夏の夜の夢」。

言わずと知れたシェイクスピアの名作を、「僕が現代風にめちゃくちゃにアレンジしました」と田上さん。

 

本番公演は、この顔合わせのわずか12日後。

しかしながら台本は前回上演作品の「3倍の分厚さ」!

プロでも難儀するシェイクスピア作品は随所に長ゼリフが登場し、上演時間も約2時間に及びます。

 

「これは地獄の苦行ですが、乗り切るしかありません。

体験したことのないスピード感だと思いますが、悩みすぎず困った時は相談して。

心身ともにはつらつと制作していきましょう!」(田上さん)

 

 

昨年の「実験的演劇工房」で上田の高校生にたくましさを感じたという田上さん。

今年が自身にとって「実験的演劇工房ラストイヤー」ということもあり、
「“実験的”と冠がつくからこそ、できるか分からないものにチャレンジしてみたい。

今年は高校生とシェイクスピアをやってやろう!とこの台本を選びました」

 

初日からさっそく台本読みスタート。

指定されたシーンを二人ずつ順番に演じ、田上さんは一人ひとりの声や背格好を確認しながら、キャスティング案を練っていきます。

 

 

 

 

舞台は人間界と妖精界が入り混じる世界。

両方の世界を行き来する殿様・シーシアス(妖精界ではオーベロン)が人間界での結婚式を数日後に控えていたところ、家臣の娘たちの恋愛問題が勃発します。

シーシアスは、夫婦喧嘩の真っ最中である妖精界の女王・タイターニアにいたずらをしようと妖精パックに命じ、タイターニアと、さらに家臣の娘の恋の相手に惚れ薬を処方。

ところがパックの手違いでとんでもない展開を招いてしまい……と、魔法や恋や罵声が怒涛のように押し寄せるドタバタの物語です。

 

クセの強いキャラクター揃いで熊本弁やら罵り合いやらと感情の起伏が多く、笑いが起きる場面も多々。

読みながら、少しずつ高校生たちの個性も見えてきます。

 

 

 

 

参加2回目の2年生は、
「去年より稽古期間は長いですが、セリフが難しいし長いから覚えられるか心配……」
と不安な表情。

とはいえこの未知の感覚こそが、「実験的演劇工房」の醍醐味でもあります。

 

⬛︎長ゼリフと動きを体に叩き込む一週間

稽古中は毎日、授業が終わった夕方にサントミューゼ大スタジオに集まる生徒たち。

学校での班活動同様、それぞれ発声練習や柔軟体操などアップ作業を行います。

スタッフも舞台監督、音響、照明に分かれ、サントミューゼスタッフのもとで脚本に沿って打ち合わせ。

 

 

昨年から参加するメンバーもいて、頼もしさを感じさせます。

前半の一週間は特に、膨大なセリフとの戦い。

「学校の休み時間もずっと台本を広げています」と話す生徒も。

セリフを覚えた役者から田上さんの演出がついていくため、まさに時間との勝負です。

 

 

動きも多い本作品。

まだセリフが完全に入っていない中、どんどん動きが加わっていきます。

その場で台本に書き込む高校生たちの表情は、真剣を通り越して必死そのもの。

さらに、
「動きは自分で考えて。ここはどんな反応が自然?」
「セリフをポンポン言い合うだけでなく相手の反応を見て」
と、高校生たちに考えさせる問いかけも。

 

 

たとえば片思い相手にサディスティックに迫ろうと、縄で相手を叩きながら追うシーン。

「ここをどう見せたい?」と田上さんが問いかけると、「追いかけ回す感じにしたい」と役者の二人。
「じゃあもっと疲労感を出して。言葉だけでなく動きも組み立てて。痛みが伝わるにはどうしたらいい?」との声に、役者同士その場で相談して動きを決め、そこに田上さんが演出を加える、といった調子で演技がどんどんリアルになり、面白さを増していきます。

 

いっぽうで、高校生特有の演技の癖には容赦ないダメ出しが。
「セリフを言うタイミングで一歩前に出るな!不自然」
「観客に向かってセリフを言うのではなく、相手を見て話して」
「長いセリフに負けるな!滑舌よく!」
最初は困惑した表情を見せた高校生たちも、次第に自分ごととして捉え、弱点を意識してつぶしていきます。

 

今回初参加の2年生は、
「高校の演劇では役のバックグラウンドを掘り下げて表現してきましたが、田上さんの演出では演出を受けながらどんどんキャラクター像が変わっていって新鮮でした」
と話していました。

 

 

⬛︎チームで演技のアイデアを練って

週末は朝から夕方まで1日かけて稽古が行われました。

この物語は登場人物が「王族」「妖精」など4チームに分かれてシーンが進んでいき、最後に全員が一つの場面に集結します。
舞台で田上さんの指導を受けながら稽古をするのは1チーム。

残りのチームは舞台裏で自主練習です。

この積み重ねが、舞台上で如実に現れてきます。

 

 

他校の生徒と一緒に稽古を始めてまだ1週間。

田上さんからの指導に「はい」と返事をするものの、微妙な視線が空をさまよいます。
「なんかいい雰囲気になってきたね。どうしたらいいか悩んでるね」
という田上さんの言葉に戸惑う生徒たち。

そこへ「話し合った方がいいんじゃない?」とひと言。

大急ぎで円陣を組み言葉を掛け合います。

話し合いながら形作っていく、その繰り返しが続きます。

 

 

 

練習の最後には、それぞれのチームが抱えている課題を明確化し、次の稽古につなげます。
「話し合いだけでは演技はおもしろくならない。トライ&エラー、やってみることが大事」
と言葉をかける田上さん。

 

 

「こんなに面白い脚本なのに、演じると面白くできない。どうしたらいいのか」と悩むメンバーもいたそう。

でも答えを見つけるのは自分たち。どうしたら面白さを表現できるのか?動きは、間合いは、表情は……。

高校も学年も違うチームメンバーで何度も何度も話し合い、乗り越える姿が日々の稽古から伝わってきます。

 

 

「高校生は、プロの演出家と一緒にやると『どうしたらいいですか』と受け身になりがちですが、自分たちで作る力を養うことが今回のテーマです。

細かく課題を設定して一つずつ乗り越えることで、自信をつけていってほしい」(田上さん)

 

 

⬛︎本番の舞台で見せた一体感

そして迎えた本番初日。

午前中は本番さながらの通し稽古「ゲネプロ」が行われましたが、田上さんの評価は厳しいものでした。
「昨日の通し稽古の完成度が60%だったら今日は35%。

本番までに100%へ持っていかないと、遊びでやってると思われるよ」

 

表情に緊張と不安が宿る高校生たち。

本番までのわずかな時間を最後の確認に費やします。

 

 

13時半の開場と同時に、続々と埋まる客席。

妖精役の4人による前説ののち、幕が開きました。

 

役者の緊張を感じさせる部分もありましたが、客席から何度も起きる笑いやどよめきといった反応を受けて、楽しみながらシェイクスピアの世界を表現する高校生たち。

稽古にはない演じることの喜び、気持ちの高まりが伝わってきます。

 

終演後は、惜しみないダブルコール。

お客様のお見送りでも、皆やり遂げた喜びと安堵の表情を浮かべていました。

 

 

しかしミーティングでは、田上さんから容赦ないダメ出しが。

中でも大きな課題は、全体的に緊張して早口になってしまったこと。

また、

「お客さんから色々な反応がありましたが、明日のお客さんは今日と反応が違う。

間合いを変えず、稽古と同じものを見せること」

との指導に、気持ちが引き締まります。

 

 

そして翌日、千秋楽。
初日よりも落ち着いた空気で、自分のセリフを、動きを、次のシーンへとつなげるように。

気迫のバトンを渡し合い、この不思議な物語を作り上げていきます。

 

 

各チームのシーンは阿吽の呼吸で息ぴったり。

最初こそ各チームを引っ張るリーダー役がいましたが、練習を経て一人ひとりが輝き、空気を作り上げていたのが印象的でした。

 

生徒の中には、

「高校の演劇班は少人数だから、こんなに大人数で芝居をできることが嬉しい」

と話す人もいました。

 

劇中には全員登場するシーンがいくつかありますが、どれも迫力に満ち、テンポも絶妙。

この2週間、このメンバーで重ねた時間と絆を感じさせ、何よりも心からこの場を楽しんでいることが伝わってきます。

 

 

物語終盤の妖精パックのセリフ、「本当に楽しかった。楽しかったんだ!」
この言葉が、2週間を走り抜けた彼ら自身の声に聞こえてくるようでした。

 

幕が下りた後、晴れやかな笑顔の高校生たちは、
「あっという間の2週間で、もっとやっていたいという気持ち。来年もまたやりたい」
「寝ても覚めても演劇のことばかり考えていられた。本当に楽しかった」
と、この時が過ぎてしまうことを惜しんでいました。

 

 

最後の彼らの表情を見届けた田上さんは、
「彼らの表情から、充実した部分と、心残りの部分が半々なんだろうなと感じます。

でも、100%満足しないのがいいのかな。

自分たちのホームフィールドに帰って、次のやる気につなげてほしい。
実験的演劇工房では、いつも高校生に何を残せるか考えながらやっていますが、

『演劇は楽しい。もうちょっとやってみたいな』

と思ってくれたらいいのかなという思いです」

 

 

今年の思いを胸に、次の「実験的演劇工房」へ。新しい挑戦が続いていきます。

 

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