【レポート】松竹大歌舞伎
- 会場
- サントミューゼ
「松竹大歌舞伎」
2017年7月16日(日) at 大ホール
中村橋之助改め八代目中村芝翫襲名披露、中村国生改め四代目中村橋之助襲名披露、中村宗生改め三代目中村福之助襲名披露公演となる「松竹大歌舞伎」です。
「猩々(しょうじょう)」は中村錦之助さんとともに、中村橋之助、福之助兄弟が初役で挑みます。
「襲名披露口上」では、役者が裃姿で緋毛氈が敷かれた舞台上に並び、順に襲名の挨拶とともに新たな決意を披露します。
そして三幕目では中村芝翫さんが10月に歌舞伎座でも披露した「熊谷陣屋」の熊谷直実を芝翫型で演じます。
幕開けは「猩々」です。
酒売りが水中に住む霊獣・猩々に酒を振る舞うと、お礼にいくら汲んでも尽きない酒壺を酒売りに与えるという襲名公演らしいおめでたい演目です。
揚子江のほとりで酒売り(梅花)が猩々を待っていると、ほのかに笑みをたたえた童子のような化粧の赤頭の猩々(錦之助、橋之助、福之助)が登場します。
酒売りに酒を勧められた猩々はうれしそうに飲み、上機嫌になり踊り出します。
お囃子にのり猩々が一人ひとり順に舞いを見せます。
笛を吹いたり、酒を飲んだり、華やかな舞いで表現します。
そして橋之助、福之助兄弟二人の連れ舞いです。
壺から柄杓で酒を汲んだり、壺の中を覗き見たり、酒を飲むほどに酔っていくような舞いで楽しさを表現しました。
そして、三人そろっての抜き足や流れ足で見せる「乱れ足」はこの演目の見どころの一つ。
兄弟猩々が脇花道へと進む最後の引っ込みまで楽しませてくれました。
二幕目は襲名披露の口上です。
背景に迫力ある龍と成駒屋の家紋が飾られた舞台に役者がずらりとならび特別感を感じさせてくれます。
中村梅玉さんの仕切りで始まり、それぞれが芝翫さんとの子どもの頃の思い出やエピソードなどを紹介。
そのたびに会場から笑いがおこります。
そしてご本人である中村芝翫さん、橋之助さん、福之助さんがそれぞれ襲名への思いや決意を述べ、観客からは大きな拍手が沸き起こりました。
三幕目は「平家物語」を題材にした「一谷嫩軍記」の3段目「熊谷陣屋」です。
熊谷直実が平敦盛の首を討ち取りますが、実は義経からの密命で息子・小次郎を身代わりにしたもの。
我が子を手にかけた悲劇が明らかになっていくという物語です。
ナレーターの役割を務める義太夫節と三味線が舞台を盛り上げます。
熊谷直実の家臣、堤軍次を昼の部は橋之助さんが、夜の部は福之助さんが演じました。
義経の命で桜の若木の前に立てられた制札「一枝を伐(き)らば一指を剪(き)るべし」。
これがこの物語のキーワードになります。
その秘密が明かされるのは物語の後半。
息子の初陣を心配した直実(芝翫)の妻・相模(扇雀)が陣屋にやってきます。
そこに沈痛な面持ちで帰って来た直実。
相模に身代わりの事実を隠し、敦盛を討ち取ったと明かします。
その時、隠れていた敦盛の母・藤の方(高麗蔵)が現れ直実に切りつけます。
思いがけない登場に驚くも、敦盛を討ったいきさつや立派な最後だったと二人に詳細に語ります。
ここで見せた軍扇を高く掲げる豪快な「平山見得」は芝翫型の見せ場でもありました。
実は後白河法皇のご落胤である敦盛を助けよという密命に従い、敦盛になりすました小次郎の首を討った直実。
息子を手にかけなければいけなかった親としての葛藤や悲しみを音楽が盛り上げます。
そして義経(梅玉)の前で行われた首実検。
直実は桜の前の制札を抜き取り、首桶を掲げます。
その首を見て相模は真実を悟ります。
ひと目我が子を見ようと駆け寄る藤の方と相模。
そのふたりの母を制札で押しとどめる「制札の見得」に会場から拍手が起こりました。
そして義経は「敦盛に間違いない」と断言します。
制札に秘められた意味をかみしめるひと時…。
戦の世の無常。登場人物一人ひとりの悲哀を感じさせてくれる芝翫型ならではの舞台でした。