【レポート】藤田貴大 演劇ワークショップ
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- サントミューゼ
MUM&GYPSY 10th Anniversary Tour 関連事業 演劇ワークショップ
2017年8月2日(水)18:30〜 at犀の角
今年で設立10周年を迎え、上田を含む全国6都市を巡るツアーを敢行中の劇団「MUM&GYPSY(マームとジプシー)」。
8月3、5、6日のサントミューゼ公演に先駆けて、上田駅近くの劇場『犀の角』で演劇ワークショップが開催されました。
講師は、劇団主宰で作・演出を手がける藤田貴大さんです。
集まった参加者は19名。
高校生や大学生、社会人など年代はさまざまで、
普段から演劇に携わっている人もそうでない人も混じっています。
冒頭、藤田さんは
「僕のワークショップに参加したから演劇がうまくなる、ということはありません。普段僕がどう演劇を読み解いてやっているかということを、2時間の中で少しでも味わってもらえれば」
とあいさつ。
最初に藤田さんを囲んで参加者が輪になり、自己紹介。
名前とどこから来たのかを話すと、藤田さんが「どんな所?」「ここからどれくらいかかりますか?」など質問し、おおよその地理感覚をつかんでいきます。
上田市内や小諸市、長野市、軽井沢など、その場所はさまざま。
最初のワークは、先ほど聞いたそれぞれの家を網羅する地図をステージ上に作るというもの。
中央に「犀の角」と書いたテープを貼り、まわりに道路や鉄道、川などをテープで表現して大きな地図を作り、各自が家の位置をマーキングします。
範囲が広いため縮尺バランスが難しく、「一度貼ったテープははがさない」というルールもあってなかなか大変。
参加者はほぼ初対面ですが、否応なしにどんどん会話が生まれ、相談しつつ作っていきました。
電車で来た人と車で来た人で作りたい道が違ったり道路の角度の意見が食い違ったり、
かと思えば「ここに道があるよね!」と盛り上がったりと、白熱の30分を経て地図が完成。
完成した地図を元に、一人一人が家の場所を紹介します。
「離れ山のふもとに住んでいます」「家の近くには選果場しかありません。一番近いコンビニは歩いて40分……」など、パーソナルな風景が言葉で浮かび上がってきました。
「僕は作品を作る時、必ず地図を書きます。
小説を読んだ後も地図を書く。
演劇には空間があるから、どこまで描くかを把握するために地図を書いています」
と藤田さん。
続いて地図を囲んで車座に座り、
「今朝起きて、一番最初にしゃべった人を思い出してください。そのシーンを輪の中心で再現しましょう」
隣に座っている人が「話し相手役」を務め、輪の中央で小さな再現劇が行われていきます。
母親に「おはよう」と挨拶した人、つれない飼い猫に一生懸命話しかけた人、朝のお祈りをした人、寝坊して「どうしよう」と父親に相談した人……。
短くありふれた場面ばかりで、しかも「知らない人のエピソード」に過ぎないのですが、どことなく人となりが立ち上ってくる面白さがありました。
「では19人の朝の風景を、ザーッと切れ目なくやってみましょう」
セリフや動きを確認する時間を少しとったのち、始まったのは群像劇のように流れていく場面の集積。
テンポ良く進んだと思えば静かな場面もあり、猫のシーンでは笑いが起きたりと一つの物語のようで、「これは映画になるね」と藤田さん。
続いては「昨夜、寝る前に誰と最後に言葉を交わしたか」を再現。
参加者は少し慣れてきた様子で、細かなエピソードも交えつつ楽しそうに演じます。
面白かったのが、夫婦で参加した二人が別々に再現したシーン。
「飼い犬との会話」という点は同じなのですが微妙に時間にずれがあり、時計を逆回転したかのような不思議な流れに。
「すごくコンテンポラリーですね!」と藤田さんも驚いています。
藤田さんの作品の特徴の一つ、同じシーンを角度を変えて何度も繰り返すリフレインの面白さを彷彿とさせました。
最後は、作った地図を使って「今日ここまで来た道のりと、途中であった印象的な出来事を説明する」というワーク。
車で来た人が車中で歌った中島みゆきの歌の再現、職場を出る時のやりとり、コンビニに立ち寄ったエピソード……。
昨夜のシーンで探していた飼い猫が見つかっていたりと、物語が断続的につながる面白さもありました。
最後は「発表会」として、今朝のシーン、昨夜のシーン、そしてここまでの道中のシーンを続けて演じます。
演じる参加者も、回を重ねて温度が上がってきた様子。
一度見たドラマをもう一度見直すような不思議な感覚で、「分かっているのに笑ってしまう」心地よさが不思議です。
何より「今日ここに集まった」というただ一つの共通項を持つ人たちの多様なバックグラウンドが浮かび上がり、ここにしか生まれ得ない物語を観ることができました。
藤田さんは全体を振り返り、
「まず地図を作って、みんながどこにいるのかを俯瞰する。
さらにその人たちが何をしていたのか、数秒の断片だけれどもつなぎ合わせることでどんな人かが分かってくる。
僕は演劇で大きい話をする時も、一人ひとりがどんな表情で日々を過ごしているのかを忘れたくないという思いがあります。
このワークをすると、『一人もバカにできる人はいない』といつも思う。
2時間だけでしたが一人ひとりが愛しく思えてくる、いい1日でした」
と話してくれました。
参加した市内の高校の演劇部に所属する学生は、
「演劇のワークショップに参加するのは初めてでしたが、みんなで作り上げていく感じで楽しかったです」
芝居が好きで役者や製作の経験があるという男性の参加者は、
「どんな人でもできるワークショップで、とても面白かった。藤田さんはすごくポップというか、色々な人が関わりやすいのが良さであり、人気の秘密だと感じました」
と感想を語っていました。