【レポート】高橋多佳子 ピアノリサイタル
- 会場
- サントミューゼ
2016年7月16日、国内外で活躍する高橋多佳子さんのピアノリサイタルが小ホールで行われました。
5月と6月には上田に滞在し、「地域ふれあいコンサート」と「アナリーゼワークショップ」を開催した高橋さん。
この日のリサイタルは、それまでとは圧倒的に違う音を響かせるホールでのリサイタルです。
真っ白なドレスに身を包み、穏やかな笑顔でステージに現れた高橋さん。
「上田駅に着いた時、迎えてくれたサントミューゼの方に、思わず『ただいま!』と言ってしまいました」と嬉しい言葉を聞かせてくれました。
幕開けは、スカルラッティの『ソナタ ヘ長調 K.17 / L.384』。
弾むような音色が、素敵な時間の始まりを感じさせます。
続いてはモーツァルトの『ピアノ・ソナタ第12番 ヘ長調 K.332』。
高橋さんがモーツァルトの曲で最初に弾いた第1楽章に始まり第3楽章まで、一音一音を丁寧に、表情豊かに聴かせてくれました。
演奏後、「モーツァルトは弾いていて楽しいけれど、うまく弾けるようになるのは、歳を重ねて大事なものだけが見えるようになってから……30年ぐらいかかるかもしれませんね」と控えめな言葉が印象的でした。
続いてはショパン。
1990年の「ショパン国際ピアノ・コンクール」で5位に輝いた高橋さんにとって、特別な思い入れのある作曲家です。
「変イ長調の天才」と呼ばれたほど、変イ長調の楽曲を多く遺したショパン。
今日の演奏曲も、3曲中2曲は変イ長調でした。
「何調かで、曲のイメージは全然違います」と話していましたが、印象的だったのは高橋さんがまとう空気の変化。
曲によって穏やかな表情、きりりとした眼差し、時には激しく躍動しながらと、音に素直に身を委ね、楽しんで演奏していることが伝わってきました。
休憩を挟んだ後半、「今日は緊張しています」と切り出した高橋さん。
実は、これから演奏するラヴェルの2曲はどちらも初めて披露する曲なのだそう。
「初めての演奏は一生忘れられないもの。それを上田で弾けて嬉しく思います」。
1曲目の『亡き王女のためのパヴァーヌ ト長調』は、弱冠18歳のラヴェルが作ったとは思えないほど美しく、切なさも漂う曲。
続く『ラ・ヴァルス ニ長調』は、オーケストラ曲を独奏ピアノ用に書き換えたとあって音の密度が濃く、非常に難易度の高い曲です。
高橋さんは2本の腕で弾いているとは思えないほど、濃厚で緻密な世界に私たちを引き込んでいきます。
時に打楽器のようにピアノを鳴らす情熱的な演奏は、それまでの演奏とは別人のよう。
素直な感性と高い表現力を合わせ持つ、高橋さんの真骨頂を見た気がしました。
最後の曲はアメリカの作曲家、ガーシュインの『ラプソディ・イン・ブルー 変ロ長調』。
『のだめカンタービレ』でも使われた親しみある曲は、クラシックの手法とジャズのスタイルを融合させ、新たな領域を開拓したもの。
先ほどのラヴェルとは打って変わって、手拍子をしたくなるほど心が躍る曲です。
高橋さんも、先ほどまでの真剣な演奏とは一味違う楽しそうな表情!
「テロのニュースを多く耳にします。音楽は国境を感じさせないもの。同じ“地球人”として、音楽の力で何かできれば」と話してくれた高橋さん。
穏やかな語り口と柔らかな笑顔がとても素敵で、情熱的な演奏との対比が印象的でした。
ぜひまた上田で、素晴らしい音を聴かせてほしいですね。