【レポート】生誕140年 吉田博展 関連企画 記念講演会2
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吉田博の木版画の技法と特徴
5月27日(土)、吉田博の孫であり、また、版画家でもある吉田司さんを講師に迎え、本展第2回目の講演会を行いました。今回のお話の内容は「吉田博の木版画の技法と特徴」です。(第1回目の講演会のレポートはコチラ)
吉田司さんは洋画家としては4代目、版画家としては3代目にあたります。父・吉田遠志さんの跡を継ぎ、40年以上にわたって木版画の制作に携わっています。父・遠志さんが1972年に設立した「インターナショナル吉田版画アカデミー」の代表として、世界各国から学びに訪れる若手芸術家たちに日本が誇る木版画技法を教え、その普及に努めてきました。
司さんは、博が信州と深いつながりを持っていることに注目しています。丸山晩霞は博が北アルプスにこだわるきっかけを作った信州出身の画家であり、尊敬する小林喜作や嘉門次などは、博が絵を描くために登山する際の山の案内人などとして活躍した山男であったことを紹介しました。また、50歳を目前に始めた版画についても、信州と深いつながりのある創作版画家・山本鼎を意識したことが、自分で下絵を描くだけではなく、彫りや摺りについても自分で修得し、自宅の工房に雇った彫り師や摺り師を監督するまでになった一因ではないかと考えています。
司さんは、博の作品を数多くスライドで紹介する中で、特に今回の展覧会のポスターにも使われている木版画《瀬戸内海集 帆船》のシリーズを取り上げました。同じ帆船の版を使い、時間の経過を6種類の作品に摺り分けて表現したことが博の独特の着眼点だといいます。また、当時からこのシリーズは人気を博し、《帆船 朝》は累計で2万枚以上摺られたのではないかとのことでした。版木は堅い山桜の木を使うので、これだけ大量の摺りを行うことができるとのことです。
2万枚以上摺ったのではないかという吉田博の木版画《帆船 朝》を解説
司さんは、祖父の博から、父・遠志を経て、自分の代まで受け継がれた日本の伝統木版画の現状にも心配をしているとも話しました。伝統木版画を制作する上で、およそ30業種の人々が道具などの製造に関わっていますが、そのいずれもが後継者の問題を抱えていると指摘。漆工芸や能、茶道や歌舞伎など様々な日本文化があるが、その中でも特に日本独自の芸術として広く欧米に影響を与えたのは木版画であり、「その伝統を引き継いでいくのが私の使命である」と司さんは考えています。
博の木版画《落合徳川ぼたん園》を解説する吉田司さん
また、博の版画に関するエピソードも紹介。故ダイアナ英国皇太子妃が1986年に国賓として来日した際、吉田博と長男・遠志の作品を自ら選んで購入したそうで、そのことは迎賓館で直接ダイアナ妃に作品を売った画商自身から聞いたとのことでした。そして、帰国後にその作品を宮殿の執務室に飾った様子が翌年5月の王室専門誌『Majesty』に掲載されたという話題となり、吉田博のお孫さんだからこそ知っている作品にまつわる数々の興味深いお話を伺うことができました。