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【レポート】生誕140年 吉田博展

みる・きく
会場
サントミューゼ

 

 

その生涯を風景画の制作に捧げた画家・吉田博(1876-1950)。現在でも版画を中心に海外で高い人気を誇る彼の画業を振り返る「生誕140年 吉田博展」を、2017年4月29日(土)から6月18日(日)までの44日間、上田市立美術館で開催しました。

 

 

 

本展は、山を愛し山を描いた吉田博の、初期のスケッチや水彩に始まり、油彩、そして晩年の木版画までの選りすぐりの250点の作品を通して「風景画家・吉田博」の生涯をたどる20年ぶりの本格的な展覧会です。全国5会場を巡回し、昨年は千葉市美術館(2016年4月~5月)、郡山市立美術館(2016年6月~7月)、今年は久留米市美術館(2017年2月~3月)、上田市立美術館、東京・新宿の東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館(2017年7月~8月)で行われています。

 

 

■オープニングセレモニー

 

 

開幕前日の4月28日(金)、吉田博のお孫さんにあたる版画家の吉田司さんや、国際的に活躍中のアーティスト・吉田亜世美さんなどをお招きして、オープニングセレモニーを開催しました。

 

 

 

■展覧会場

 

九州の久留米生まれで、東京を拠点に活動した吉田博の展覧会を、ここ上田の地で開催したのには深いわけがあります。それは、上田市の隣東御市出身の水彩画家・丸山晩霞との深い交友関係が、吉田博を信州の山岳地帯へいざない、生涯にわたり日本アルプスを繰り返し描くという風景画家としての生き方に決定的な影響を与えたゆかりの地であるからです。展覧会場は水彩と油彩を主に描いていた時代を紹介する第1会場と、版画に目覚めた後半生を紹介する第2会場に分かれ、そして、最後に丸山晩霞の特別展示コーナーがあります。

 

第1会場

 

第2会場

 

丸山晩霞の特別展示コーナー

 

 

吉田博といえば、この写真の方を忘れるわけにはいきません。ケンジントン宮殿で清楚な笑みをたたえるダイアナ元イギリス皇太子妃です。この写真は1987年発行の英国王室雑誌『Majesty』に掲載されたもので、彼女の後ろに見える2点の額に入れられた作品が何と吉田博の版画だったのです。精神科医のフロイトも吉田博の作品を買い求めて自分の家に飾っていたといいますから、吉田博の作品が海外でどれだけ高い評価を受け愛されていたかがわかります。

 

執務室のダイアナ元イギリス皇太子妃 (『Majesty』 1987年)

 

版画《光る海 瀬戸内海集》と英国王室雑誌『Majesty』

 

展覧会ではこのダイアナ妃が自ら買い求めたという吉田博の版画《光る海 瀬戸内海集》と、本展初公開となる1987年発行の英国王室雑誌『Majesty』も展示・紹介しました。昨年7月のほか今年2月と5月にも放送されたテレビ番組の影響もあってか、全国的に吉田博とこの展覧会は知られるようになり、期間中は日本各地から「山並みが見える信州で吉田博の作品を見たい」と、多くの方が美術館までお越しになりました。

 

 

 

■安永幸一さんの講演会

 

 

第1回目の講演会は展覧会初日の4月29日(土)。吉田博研究の第一人者である安永幸一さん(福岡市文化政策アドバイザー、元福岡市美術館副館長)による講演会「山と水の画家、吉田博―その人と芸術」を行いました。学芸員になりたての30歳の頃から40年以上にわたって吉田博を研究した成果をもとに、その人生や作品の特徴などについて詳しく解説していただきました。血気盛んで負けず嫌いだったという吉田博の性格や、同じ場面を違う色で摺り分ける博ならではの版画制作の独創性、北アルプスなどの山岳にこだわった経緯など、吉田博に様々な角度から迫る講演会でした。

 

→レポートを読む 「山と水の画家、吉田博―その人と芸術」

 

 

 

■吉田司さんの講演会 (5月27日【土】)

 

吉田博のお孫さんにあたる版画家・吉田司さんの講演会「吉田博の木版画の技法と特徴」では、ご家族から見た吉田博の姿や、同じ版画家の目線で語られる技法の話など、貴重な話を聞くことができました。この写真のスライドで紹介されている作品は吉田博の《落合徳川ぼたん園》という作品で、これにまつわるエピソードを紹介しているところ。東京・落合に広大な屋敷地を持っていた尾張徳川家のご当主に絵の指南を頼まれた博でしたが、徳川様曰く「教わるのに遠いから、我が屋敷地に引っ越してこないか」。それがきっかけで、中里から落合に引っ越したというお話を伺いました。

 

→レポートを読む「吉田博の木版画の技法と特徴」

 

 

 

■ガイドツアー (5月14日【日】・21日【日】・6月11日【日】及び17日【土】の昼間と夜間)

 

 

 

会期中は担当学芸員によるガイドツアーを5回開催。作品が描かれた時代背景や、吉田博の作品に対する姿勢や人柄などについて、参加された皆さんが新たな発見をしながら楽しめるよう解説をしました。最終日前日に行ったナイトミュージアム(夜間開館)では、昼間のガイドツアーよりも多くのエピソードを交えて吉田博の素顔に迫りました。

 

 

 

■登山&山岳スケッチワークショップ (6月3日【土】)

 

 

 

吉田博といえば北アルプスや浅間山、富士山など実際にその山に登って、現地で絵を描くという徹底した現場主義で知られる画家です。そこで、実際に登山をして山の頂上で絵を描いてみようという登山とスケッチをセットにしたワークショップを行いました。登った山は上田市立美術館から遠く見上げる標高2,066mの烏帽子岳。上信越高原国立公園にある360度のパノラマが広がる山です。参加者自身の足で実際に登って描くことで「自然と一体になってこそ本当の絵が描ける」と考えていた吉田博の境地を体験しました。この登山を通して、山岳画家・吉田博のこだわりである「超現場主義のすごさ」と、実際に現地で描く楽しさを学ぶことができたかもしれません。

 

→レポートを読む「【レポート】生誕140年 吉田博展 関連企画 登山&山岳スケッチワークショップ」

 

 

 

吉田博展の講演会やワークショップに参加できなくても、まだまだ楽しめる方法があります。今回は吉田博の作品や人となりなど、展覧会だけでは分からない吉田博にまつわるお話を8回にわたってご紹介する「コラム 週間YOSHIDA」を掲載しました。

 

→コラムを読む「コラム 週間YOSHIDA」(全8話)

 

 

 

そんなイベントを織り交ぜながら開催してきた吉田博展も、6月18日(日)をもって終了しました。遠方からお越しいただいた方、作品の入れ替えによる前期展示・後期展示の両方をご覧になられた方や、「ガイドツアーも登山スケッチも、全てのイベントに参加しました。」とお声をかけてくださる方などもいらっしゃいました。展覧会を通してたくさんのお客様に吉田博の作品と人物の魅力、そして信州との深いつながりを知っていただく44日間となりました。

 

 

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