【レポート】塚越慎子 アナリーゼ(楽曲解析)ワークショップ Vol.55
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アナリーゼ(楽曲解析)ワークショップ Vol.55
お話:塚越慎子
11月18日(木) 19:00~ at サントミューゼ小ホール
2022年1月15日、国内外で活躍し、現在最も注目を集めるマリンバ奏者の一人、塚越慎子さんが、サントミューゼのリサイタルシリーズに初めて登場します。これに先駆けて行われたアナリーゼワークショップには、塚越さんとともにリサイタルで共演するジャズピアニストの武本和大さんも登壇。リサイタルの際に演奏する曲やマリンバの魅力について解説していただきました。
笑顔で登場したお二人が最初に披露したのは「トルコ行進曲」のジャズバージョン。洒脱な和音、弾むようなリズムに心が躍ります。
「今日はマリンバを身近に感じてくれたら」と、楽器の魅力を解説してくれた塚越さん。木琴とよく似ていますが、マリンバは「偶数倍音」、木琴は「奇数倍音」で調律されている点が大きな違いです。オーケストラで使われる弦楽器や管楽器も偶数倍音なので、マリンバがオーケストラに入ると音がなじむのに対し、木琴の音が入ると際立つのだそう。
ステージのスクリーンには、塚越さんのマリンバの鍵盤がアップで映し出されます。「鍵盤の中央、つまり共鳴管(鍵盤の下にある金属製のパイプ)の上を叩かなければ良い音が出ないんです」と、実際に叩いて見せてくれました。確かに、位置がずれると高音が際立つ印象。さらに吊り紐部分に当たってしまうと、カチカチとした音が出てしまいます。ピアノで言うと黒鍵に当たる上の鍵盤も中央を叩くのがベストですが、「速い曲の時は物理的に間に合わないので、下の方を叩きます」と、演奏者ならではのポイントを教えてくれました。
マレットは片手に2本、計4本持って演奏する方法が主流。1本を軸にして固定することで、手の角度を変えながら演奏することができます。片手に3本、計6本持つ方法もありますが、手の角度を変えられないため白鍵と黒鍵の和音を叩くのが難しいとのこと。
「とはいえ最近は、6本すべてを独立させて叩くメソッドも出てきているんです。私も1月のリサイタルでは、6本マレットの曲を演奏する予定です」
武本さんが「8本マレットで演奏する人もいますか?」と質問すると、「一人だけいます!ただし手がとても大きいヨーロッパの男性奏者で、しかもテープでマレットを固定しています」という塚越さんの答えに、会場に笑いが広がりました。
音を長く伸ばしたい時は、鍵盤がマレットに当たる時間を短くして連打する「トレモロ奏法」で演奏します。サン・サーンス作曲の「白鳥」を、トレモロ奏法とそうでない演奏とで比較して聴かせてくれました。演奏する手元のアップをスクリーンで見られる贅沢な時間。巧みに手の角度を変えながら、美しいメロディーを奏でます。
「速いトレモロで細かい波が立った水面の様子を表現しています」と塚越さん。同じ曲でもトレモロ奏法は音が長く、密度が濃く感じました。さらに、マレットの角度、鍵盤から浮かすか、思い切り叩くか、などによっても音色(おんしょく)が変わるのだそうです。
続いては武本さんによる「調性」の解説コーナーです。調性とは、楽曲がある主音・主和音に基づいて成り立っている場合、その音組織・秩序を指すもの。例えば調性がハ長調の場合、「ド」の音を中心に「ドレミファソラシ」の7音を原則として使用する、という具合いです。ステージ上のホワイトボードには、「C、G、D……、D♭」とさまざまな調性が円状に書かれています。
武本さんは曲を作るとき、調性が持つ世界観を大切にしているそう。
「例えばC(ハ長調)はシャープもフラットもない、すべてが白鍵の“ピュアな調”。映画やドラマで、登場人物が思いを告げる時の音楽によく使われます」
そう言って弾いたのは、翳りがなく澄んだメロディー。そこから調性を変えつつ、さまざまな音楽を聴かせます。「フラットが増えると、愛情が深まり温かさが増した印象になります」と弾いたのは、フラットが1つのへ長調のメロディー。ふるさとを思わせる温かな響きです。さらにフラットが2つの変ホ長調、フラットが4つの変イ長調……と、弾きながら違いを解説します。
フラットが5つの変ニ長調は「J-POPのラブソングやバラードによく使われます」。一方、明るい中に翳りがあるロ長調は「死の調」と呼ばれ、ジャズやポップスでは死を連想させる曲に多いそう。「言葉で説明してもらうと分かりやすいですね」と塚越さん。
続いて紹介したのは、1月のリサイタルのプログラムの中でも塚越さんの思い入れが強い曲「デルタ・リブラ」。同じ国立音楽大学出身で、世界で活躍するジャズ作曲家の挟間美帆さんが塚越さんのために書いた曲です。「テーマ部分は、何拍子か分からなくなるような作りです」と、スクリーンに楽譜を映して解説してくれました。
「4/4拍子ですが、16分音符が1つずれていることで何かが起こりそうな、興奮を招くような雰囲気になっています。演奏していても興奮しますし、聴いている方も楽しいと思います!」
一部分のみ、生演奏で聴かせてくれました。それまでのにこやかな表情から一変、全身に緊張感を漂わせて音を奏でます。モダンなメロディーとリズム。途中から裏で拍をとり、エキサイティングな曲調が高揚を誘います。
最後に聴かせてくれたのは、モンティ作曲「チャルダッシュ」。テンポの速い曲で、迫真の表情、全身で奏でる佇まいに圧倒されます。かと思えば、マレットを持ち替えて柄の先で繊細に演奏する部分も。最後はダイナミックに盛り上がり、笑顔でステージを後にしました。
クラシックとジャズの要素を織り交ぜたトークで楽しませてくれたお二人。1月のリサイタルは、もっと深く楽しい音楽の世界に浸れることでしょう。