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【レポート】セレノグラフィカ コンテンポラリーダンス公演『無言歌~カラダとウタウ~』

みる・きく
会場
サントミューゼ

セレノグラフィカ コンテンポラリーダンス公演『無言歌~カラダとウタウ~』

11月27日(土) 14:00~ at サントミューゼ大スタジオ

 

繊細な作品づくりと緻密な身体操作を持ち味に、観る側に多様な解釈を誘発する作品を制作するダンスカンパニー「セレノグラフィカ」。隅地茉歩(すみじ・まほ)さんと阿比留修一(あびる・しゅういち)さんが1997年に設立し、24年間「デュエット」の表現に向き合い続けています。そんなお二人が、サントミューゼ大スタジオで最新作『無言歌~カラダとウタウ~』を上演しました。

 

大スタジオ中央部分がフラットなステージ。その両側に向かい合うように客席が配置され、ダンスする身体を余すことなく魅せる空間構成です。ステージ部分の両側には、大型の照明がセットされていました。客席はほぼ満席。明るい雰囲気のピアノ曲と共に笑顔の二人が登場し、開演を迎えました。

 

今回のプログラムで印象的だったのは、「対(つい)」の概念。二つの身体の違いを感じる動き、「与える/受ける」といった行動の応答など二人だからこそできる表現を、多彩な演出や小道具を交えて生き生きと見せてくれました。

 

例えば冒頭、巨大な布のエコバッグが登場。

 

 

阿比留さんの身体を袋ですっぽりとくるんで口をゆわえると、巨大な物体のようなかたまりに。茉歩さんがトン、と指で突っつくと、ゆっくりと転がります。ごろん、ごろんと転がり、茉歩さんが足音を立てて近寄るとさらに転がって、中からは「はあ……」と気の抜けたような声。まるで人間と未知の生き物が出会ったような、不思議な光景を繰り広げます。

 

曲に合わせたダンスでは、倒れる/受け止める、立つ/座る、進む/止まる、追う/追われるといった対照的な表現が二つの身体の違いを際立たせ、息の合った動きを心地よく魅せます。異国の民俗音楽が流れるダンスでは、二人一緒にダンスしながら一人がもう一人の手を放して落とし、身体の重みを感じさせる表現も。

 

どれも、二人の息がぴったりと合っているからこその美しい表現。この日の衣装も、茉歩さんがグリーン×パープル、阿比留さんがオレンジ×グリーンと対照的で、鮮やかなコントラストを描いていました。

 

二人同時に飛び跳ねてシンクロする瞬間や息の合ったスキップ、阿比留さんが茉歩さんを持ち上げるリフトなど、さまざまな動きが心地よいテンポで切り替わります。それぞれがソロで踊る場面では、見えない糸を持っているようにしなやかで不思議な茉歩さんのダンス、ユーモラスでスピード感のある阿比留さんのダンスと、それぞれの魅力を余すことなく表現しました。

 

演劇のような演出も多彩でした。天井からスルスルと降りてきたファイルを開き、そこに挟まれていた謎の図形をヒントに、空間の中で何かを探すような動きをするという表現。ライン上をまっすぐにスキップしたり、ある地点でジャンプをしたりと、見えないルールに支配されているかのような動きはシュールながら俊敏で、照明の演出と相まって美しい光景を織り成していました。

 

白い巨大な布を持って現れた茉歩さんがそれをかぶって踊り、いつしか出られなくなる……という表現では、阿比留さんが一緒に布に入り、引き合ったり離れたり。ふたこぶラクダか、はたまた二つの山?遊び心ある表現の後は布を広げ、「四隅を二人でチェックする」仕草を始めます。何かを注意深く確かめ、布の角を折ったり、つまんで左右に振ったり、また伸ばしたり、さらには二人で作業を譲り合ったり。表情を活かして声のない演劇のような表現に魅せられます。

 

果てに始まったのは、布と一緒に踊るダンス。一枚の布をそれぞれの身体に巻き付け、ドレスのように着こなす二人。楽しくて思わず一人だけ布を大量に巻き取っていく茉歩さんを阿比留さんが怪訝な表情で見るなど、ストーリー仕立てで楽しめました。最後に二人が身体を抜くと、残されたのは何かの抜け殻のように有機的な形の布。その周りで踊る二人の姿はのびのびとおおらかで、壁に映し出された影もあいまって、たった二人とは思えないようなにぎやかな雰囲気を感じました。

 

 

場面が切り替わり、先ほどとは一転、モノトーンの衣装に着替えた二人。エレクトリックな音楽に合わせ、思い思いに身体を動かします。

 

 

かと思えば、再度あの大きなエコバッグが登場!まるで誘われるように入っていく茉歩さん。持ち手をゆわえて丸いかたまりにすると、しばらくしんとして動きません。阿比留さんが動物のように「ウォフッ」と声をかけると、袋の中から「ニャッ」と可愛らしい声が応答。客席に笑いが広がります。鳴き声をあげながら生き物のように転がる布。それを引きずった阿比留さんが客席に「飼う?」と真顔で尋ねるなど、くすりと笑わせてくれる表現はセレノグラフィカならではでした。

 

息の合った美しい身体表現をベースに、二人が持つユーモアやシュールな感性が詰め込まれていたプログラム。変化に富み、観客を飽きさせることがなく、二人の引き出しの幅に驚かされました。24年経ってもなお進化を続け、これからもまた新しい表現を開拓し見せてくれる予感がします。