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【レポート】松本蘭~アナリーゼワークショップvol.56

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サントミューゼ

松本蘭~アナリーゼワークショップvol.56

2022年2月10日(木)19:00~20:00 サントミューゼ小ホール

 

3月5日(土)に開催される松本蘭さんのリサイタルのテーマは、「珠玉の名曲とロマン派傑作ソナタ」。今回のアナリーゼでは、後期ロマン派を代表する作曲家、リヒャルト・シュトラウスの「ヴァイオリン・ソナタ」にスポットを当てました。

 

ステージに登場した松本蘭さんとピアニストの酒井有彩さんが披露したのは、ワーグナーの「夢」。リヒャルト・シュトラウスはワーグナーの影響を強く受けた作曲家です。

 

 

 

 

リヒャルト・シュトラウスは、ドビュッシーやマーラーと同時代に活躍した音楽家で、1864年にバイエルン王国(現在のドイツ)で生まれました。父はミュンヘン宮廷歌劇場の首席ホルン奏者、母は今現在も残るビール醸造会社の令嬢という恵まれた環境で育ちます。4歳からで父の非常に保守的な音楽教育を受けるようになりますが、6歳の頃には作曲も手掛ける早熟ぶりでした。

 

「リヒャルト・シュトラウスのお父さんは、ベートーヴェンの『交響曲第7番』すら嫌うほど、古典派の音楽しか認めない人でした。もちろんワーグナーも嫌いです。なのに、なぜか自分のこどもにワーグナーと同じ“リヒャルト”の名をつけています」と、スクリーンに資料を投影しながら、松本さんがリヒャルト・シュトラウスの幼少期を解説します。

 

シュトラウスは17歳の時に作曲した「セレナーデ」で指揮者ハンス・フォン・ビューローに見いだされ、多くの人が知るところに。さらにヴァイオリン奏者でワグネリアンでもあるアレクサンダー・リッターと出会い、ワーグナーに傾倒。革新的な音楽に興味を持ち始めます。そして、24歳で書いた交響詩「ドン・ファン」が出世作に。

 

今回取り上げる「ヴァイオリン・ソナタ」も、「ドン・ファン」と同じ1888年に書かれています。20代の終わりには、のちに妻となるパウリーネと出会い、彼女との出会いもまた作曲活動に大きな影響を与えました。

 

「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」「英雄の生涯」「ツァラトゥストラはかく語り」「アルプス交響曲」などを一部流しながら、松本さんと酒井さんがリヒャルト・シュトラウスの華々しい生涯を追います。

 

後半はいよいよ「ヴァイオリン・ソナタ」の楽曲分析へ入っていきます。

 

松本さんはまず「エス・ドゥア(Es-dur/変ホ長調)」の調性に着目します。酒井さんがピアノで和声を弾きながら「生命力あふれる調性」と表現し、松本さんも「華やかで輝かしい雰囲気」と評します。

 

第1楽章。酒井さんはピアニストの目線で、ピアノがオーケストラのように立体的に書かれていると分析します。酒井さんの楽譜が映写されると、高さの違う同じ音に「ヴィオラ」「チェロ」「コントラバス」と書き込みが。また、ヴァイオリンとピアノがまるで会話しているように掛け合いを繰り広げる部分も非常に印象的です。

 

「インプロビゼーション(即興曲)」と書かれた第2楽章。松本さんは、「個人的にはこの第2楽章はパウリーネだと思っています。中間部のアパッショナートは、怒ったパウリーネを想像しています」と、イメージを膨らませます。そして、星屑がきらめくような美しい旋律から第3楽章へ入っていきます。

 

物々しい雰囲気ではじまる第3楽章ですが、一転、華々しいピアノとより高みに昇るヴァイオリンがフィナーレを予感させます。第2テーマは、松本さんにとってとても印象深いパートなのだとか。「高校生の時にレッスンで先生に怒られて落ち込んだ帰り道、ちょうどこのソナタを聞いていました。第3楽章の第2テーマが流れてきた瞬間、涙が止まらなくなって、霧がパッと晴れたような感覚でした」(松本さん)

 

 

 

 

さらにたたみかけるように曲は進んでいきます。第1楽章の会話しているようなリズムと似たようなパートが出てきますが、非常に速くてより緊張感があります。「全体を通してアパッショナート(情熱的に)やエスプレッシーボ(感情豊かに)という指示が多い」と松本さんが言うとおり、熱を帯びたまま終曲へ。

 

おふたりがこの曲を心から愛して演奏していることがよく伝わってくるアナリーゼでした。

 

リヒャルト・シュトラウスが生涯で1曲のみ作った「ヴァイオリン・ソナタ」他、3月のリサイタルではさまざまなヴァイオリンとピアノの表情が見られそうです。