【レポート】松本蘭 ヴァイオリン・リサイタル~珠玉の名曲とロマン派傑作ソナタ~
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松本蘭 ヴァイオリン・リサイタル~珠玉の名曲とロマン派傑作ソナタ~
2022年3月5日(土)14:00開演 サントミューゼ小ホール
今年1月から2月にかけて、アウトリーチやアナリーゼ・ワークショップを行ってきたヴァイオリニストの松本蘭さん。ピアニストの酒井有彩さんとともに、美しい響きと楽しいトークを上田市内各所で届けてきました。2021年度レジデント・アーティストとしての締めくくりになった、3月5日のリサイタルの模様をレポートします。
ステージに登場したおふたりがまず演奏したのは、エルガーの「愛の挨拶」。春を先取りするような、のびのびとした響きです。
演奏後、客席へ挨拶をしたおふたりは、大雪だったアナリーゼの翌朝に別所温泉へ行ったことなど、上田での思い出を話してくれました。
ここからは3曲続けての演奏です。
ベートーヴェンが20代前半で書いた「ロマンス 第2番」は、その名の通り恋愛中だったベートーヴェンの心情がつづられているようで、明るく優美でありながら切なさも感じさせます。
3曲目の「波の盆」は、日本を代表する作曲家・武満徹の作品です。テレビドラマのテーマ曲として書かれました。
4曲目はガラッと趣を変えて、ビートルズメドレー。「ビートルズ世代のお客様も多いのではないでしょうか。 凝ったアレンジをお楽しみ下さい」という松本さんの言葉通り、ビートルズの曲の中にモンティの「チャルダッシュ」などのクラシックの名曲が顔を出します。
5曲目は、オペラ「トゥーランドット」から「誰も寝てはならぬ」。とても人気のあるテノールのアリアで、松本さんは「こどもの頃からパバロッティが大好きでよく聴いていました」と思い入れを話してくれました。凝ったアレンジのピアノと、歌い上げるように朗々と響くヴァイオリンに、盛大な拍手が送られます。
6曲目の「ツィゴイネルワイゼン」は、“ロマ(ジプシー)の旋律”という意味で、ドラマティックさと哀感が持ち味です。超絶技巧が要求される曲としても有名で、松本さんは「100メートル走を全力で駆け抜けるよう」と評します。恩師の「こういう曲は難しい顔をして弾くものじゃない。涼しい顔をして弾くべし」という教えの通り、松本さんは曲と一体になって、涼しい表情ながら熱のこもった演奏を披露してくれました。
15分の休憩をはさんで、後半はリヒャルト・シュトラウスの「ヴァイオリン・ソナタ」です。演奏に入る前に、曲の聴きどころや、おふたりがこの曲に感じている思いなどを話す、“ミニ・アナリーゼ”なトークに。
酒井さんが「ピアノとヴァイオリンが対等」と言うように、ピアニストにとっても演奏しがいのある、その分とても難しい曲です。この演奏を控えて、おふたりで松本さんの恩師・徳永二男先生にレッスンをつけてもらった際、徳永先生は「共演をお願いしてあったピアニストが、この曲に決まったとたん、いろいろ理由をつけて辞退することがあった」と、この曲がいかにピアニストにとっても難しいかを物語るエピソードを教えてくれたのだとか。
演奏時間約30分、3楽章からなるヴァイオリン・ソナタは、松本さんのヴァイオリンと酒井さんのピアノによって生命を吹き込まれ、さまざまなイメージと表情を見せてくれました。スケールの大きなシュトラウスの曲に演奏者の技巧と心情が見事にシンクロし、聴き応え満点です。
息をもつかせぬスリリングな掛け合いからフィナーレへとなだれ込む第3楽章が終わると、万雷の拍手が会場を満たしました。
アンコール1曲目は、松本さん作曲の「未来へ」。会場の熱気を落ち着かせるような、優しく温かい旋律が印象的です。
2曲目は一転、ドラマティックなモンティの「チャルダッシュ」。松本さんと酒井さんの演奏は乗りに乗って、ラストにふさわしい熱演に。
お客様に感想を伺いました。
女性おふたり連れのお客様は「伝わってくるものがあって、すごくよかった。熱量も素晴らしかったです」と、笑顔で会場を後にしました。
満足げな表情で会場から出てきた男性は、「松本さんはエンターテイナーですね。酒井さんも素晴らしかった。ここぞというところでの音のツヤに聴き惚れました」と感想を述べつつ、またぜひ上田で演奏してほしいと話してくれました。
【プログラム】
エルガー/愛の挨拶
ベートーヴェン/ロマンス 第2番 ヘ長調 作品50
武満徹/波の盆
ビートルズメドレー ~ 「Here, There and Everywhere」「Michelle」「Hey Jude」「Yesterday」
プッチーニ/オペラ「トゥーランドット」より「誰も寝てはならぬ」
サラサーテ/ツィゴイネルワイゼン
リヒャルト・シュトラウス/ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 作品18
【アンコール】
松本蘭/未来へ
モンティ/チャルダッシュ