【レポート】酒井有彩 ピアノ・リサイタル~うつろいゆく心の深遠~
- 会場
- サントミューゼ
酒井有彩 ピアノ・リサイタル~うつろいゆく心の深遠~
7月18日(月・祝) 14:00~ at サントミューゼ小ホール
国内外で活躍する気鋭のピアニスト、酒井有彩さん。サントミューゼのレジデント・アーティストとして、今年度は様々な活動を行ってきました。その集大成となる今回のリサイタル。客席では、多くのお客様が演奏を心待ちにしています。
爽やかな白いドレスで登場した酒井さん。最初に演奏したのは、モーツァルトの「デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲 ニ長調 K.573」です。冒頭、明るく澄んだ音色が初夏を思わせます。美しい和音が響き渡り、さまざまな表情を見せてくれました。
演奏後の挨拶では、この1カ月で上田を巡った思い出を話してくれました。
「1カ月で小学校のクラスコンサート12公演、そして公民館コンサートも2公演。お蕎麦の食べ歩きやカフェ巡りもして、上田を心から楽しみました。モーツァルトも『旅をしない音楽家は不幸だ』という名言を残しています」
今日のプログラムのテーマは「変奏曲」。最初にテーマが現れ、それが次々と表情を変えて奏でられる曲の形式です。
「曲の展開に、作曲家の個性が色濃く現れます。楽譜を見ると作曲家のアイデアの引き出しをのぞいているかのようで、わくわくします」
続いてはメンデルスゾーンの「厳格なる変奏曲 ニ短調 Op.54」。「ベートーヴェンへの敬意を感じさせる、古典的で情熱ほとばしる作品です」と酒井さん。
タイトル通り厳格で味わい深いテーマから始まり、華麗なる旋律が次々に奏でられます。時に荘厳に、時に情熱的に。クライマックスのドラマチックな和音は圧巻でした。演奏を終えた酒井さんは、「2曲目から、エネルギーが必要な曲でした」と笑顔で話しました。
前半の最後は、バッハの傑作とされる作品を「悪魔的なテクニックを持つ」と言われたピアニストで作曲家のブゾーニが編曲した「シャコンヌ ニ短調 BWV1004」です。
シャコンヌとは古い舞曲の一つ。「左手の低音が反復されて、その低音のラインの上で変奏されていきます」と解説してくれました。
荘厳で、かつ華やかな世界が繰り広げられます。教会でこの音が響きわたる風景が目に浮かぶよう。ピアノの高い技巧を感じさせるパートもあり、一気に魅了されました。
休憩を挟んで後半は、今日のメインとも言えるシューマンの「交響的練習曲 Op. 13」。サーモンピンクのドレスに着替えて登場した酒井さんは「ずっと憧れていた作品。今日初めて演奏します」と語りました。
発表当時は、主題と、自由に楽想(楽曲の構想)を展開した変奏曲9曲を含む12の練習曲で構成されたこの作品。今回は、シューマンが在命中に発表しなかった5曲の変奏曲を加えた17曲で演奏しました。
凛とした印象を受ける主題は、音階がリズミカルに上り下りするメロディーが印象的です。そこから展開していく16曲は、多彩な音の世界を心ゆくまで堪能させてくれました。例えば豊かな和声で魅了した「練習曲2」、リズムが小気味いい「遺作変奏曲3」、軽快で美しい「練習曲9」……。タイトル通り、シューマンがオーケストラのように多彩な響きを追求したことが伝わってきます。
酒井さんがアナリーゼで「シューマンの変奏曲の特徴は、主題を原型のまま曲中にポンと浮かび上がらせるところ」と語っていた通り、不意に表れる主題が光を放つような部分もありました。ホール全体が、シューマンの描き出す世界に魅了されていきます。
最後の「練習曲12」のクライマックスは劇的な盛り上がり。最後の和音の後、左手を大きく上に上げてフィニッシュ。
充実した表情で立ち上がった酒井さんに、大きな大きな拍手が贈られます。
「想像以上にエネルギーを費やすハードなプログラムでしたが、どの曲も大好きです。今日で上田での演奏活動がひとまず最後だと思うと寂しい気持ちです。またぜひサントミューゼに来たいと思いますので、良かったら皆さんもアンケートに書いていってください!(笑)」
鳴り止まない拍手に応え、アンコールではなんと2曲も披露。晴れ晴れとした笑顔が印象的だった酒井さん。またぜひ、上田に演奏に訪れてほしいと思います。
【プログラム】
モーツァルト:デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲 ニ長調 K.573
メンデルスゾーン:厳格なる変奏曲 ニ短調 Op.54
J.S.バッハ=ブゾーニ:シャコンヌ ニ短調 BWV1004(無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番より)
シューマン:交響的練習曲 Op. 13
〈アンコール〉
ショパン:エチュード第13番 変イ長調Op.25-1 「エオリアンハープ」
モーツァルト=ファジル・サイ編曲:トルコ行進曲