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【レポート】福川伸陽 クラスコンサート at 上田市立塩川小学校

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会場
サントミューゼ

福川伸陽 アーティスト・イン・レジデンス クラスコンサート

9月15日(木)塩川小学校

 

世界で活躍するホルン奏者、福川伸陽さん。NHK交響楽団首席奏者の経験を持ち、オーケストラとの共演とソリストの両輪で多彩に活動中です。2022年度のサントミューゼレジデントアーティストとして、上田の地を訪れてコンサート活動などを行います。

 

この日は、ピアニストの宇根美沙惠さんと一緒に塩川小学校5年生の授業でクラスコンサートを行いました。拍手の中笑顔で登場したお二人が最初に演奏したのは、スペインの作曲家・カサドによる「親愛の言葉」です。

 

普段はなかなか聴く機会のない温かく優美なホルンの音色に、一瞬で魅了されます。

 

 

 

伸びやかに、ほがらかに、勇壮に。子どもたちは目と耳をじっと傾け、演奏後は「おお!」と感心の声が漏れていました。

 

演奏後、挨拶した福川さん。「今までホルンを近くで聴いたことがある人は?」と尋ねると、誰もいない様子。楽器について教えてくれました。

「ホルンは管がぐるぐるしているけど、延ばすとどのぐらいあると思う? ……答えは4m!」

その言葉に、ええー!と驚きの声が広がります。

 

音が出る仕組みも教えてくれました。リコーダーのように吹くだけでは、ホルンの音は出せません。先端の広がった「ベル」に手を入れても、レバーを押してもダメ。福川さんが、学校の金管バンドに所属している生徒たちに「どうすれば音が出る?」と尋ねると「頬を膨らませない」との答えが。

 

 

「そう、そして唇の形が大切ですね。実は、唇の動きだけで音階を吹き分けられるんです」

福川さんはそう話し、実際にドレミファ…と音を聴かせてくれました。

 

ベルが後ろ向きなのは、昔ホルンが狩猟に使われていたことがルーツなのだそう。

「例えばあなたが馬として、乗っている人が吹くホルンの音が前向きに出たら…うるさいよね」

とユーモラスに解説します。

 

さらにベルに入れる手の向きを変えることで音色(おんしょく)が変わること、操作するのは4つのレバーのみながら、唇と息のスピードで何十個もの音を作れることを教えてくれました。「世界一難しい楽器として、ギネスブックに登録されているんです」と話すと、生徒たちからは驚きの声。

 

続いての演奏は、フランスの作曲家・メシアンによる「恒星の呼び声」です。

「太陽から一番近い恒星まで、光の速さでも4年かかります。新幹線だと1580万年かかる距離! その間の暗闇で太陽はどんな音を出すのか、想像しながら聴いてください」

ホルンのみのソロ演奏。不思議な間合いが宇宙の悠久を思わせる、心地いいリズムです。エコーがかかったような音やささやくような音など多彩な音色が想像力を膨らませ、1つの物語を見ているかのようでした。

 

続いて、宇根さんによるピアノの楽器解説。ピアノの音を大きく豊かにするのが、中にある「響板」です。試しに小型オルゴールを響板の上に置いて鳴らしてみると、外で聴いた時の何倍もの大きさで音が響き、生徒たちも驚いた表情。

「オルゴールが回るカシャカシャした音がなくなって、まろやかできれいな音になりましたね」

 

ピアノソロで演奏してくれたのは、スペインの作曲家・ファリャによる「火祭りの踊り」。2音を交互に素早く演奏する「トリル」で、ゆらゆらと揺れる炎を表現する印象的な始まり。激しさと静けさを行き来しながら、エキゾチックな世界を聴かせてくれました。

 

 

 

最後は、福川さんと宇根さんがイギリスの作曲家・ホルストの「惑星」より「木星」を披露。オーケストラ曲をピアノ+ホルンに変換したスペシャルバージョンです。息の合った演奏で響かせる雄大な世界。ホルンの美しく温かな低音と歌うようなピアノがドラマチックに響き合います。有名なメロディーの部分に差し掛かると、表情を変えて聴き入る生徒たち。じんわりと染み入るようなホルンの音色から、体全体を使い、繊細な息遣いで奏でていることが伝わってきます。

 

 

 

二つの楽器が作り出す世界に触れた生徒たち。大きな拍手でクラスコンサートは幕を閉じました。

 

 

お2人が退場した後も、ピアノの中をのぞき込んだり弾いてみたりして、音が出る成り立ちを確かめて楽しんでいました。