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【レポート】福川伸陽 ホルン・リサイタル ~伸びやかな深みのある響きで魅せる、ホルンの世界~

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サントミューゼ

福川伸陽 ホルン・リサイタル ~伸びやかな深みのある響きで魅せる、ホルンの世界~

2023年3月11日(土) 14:00開演 サントミューゼ小ホール

 

2022年度のレジデント・アーティストであり、世界的に活躍するホルン奏者・福川伸陽さんのリサイタルが開催されました。福川さんの登場は2017年のワンコイン・マチネ以来5年ぶり。ピアノは新居由佳梨さんです。

 

満席のホールに金色に輝くホルンを抱えて入場した福川さん。1曲目の「親愛なる言葉」は、スペインのチェロ奏者・カサドが同じくスペインが生んだ偉大なチェリスト、パブロ・カザルスに捧げたチェロ独奏曲です。熱っぽさの中に哀愁が混じる曲に、福川さんの伸びやかなホルンが命を吹き込みます。

 

 

お客様からの拍手に柔らかな笑顔でこたえた福川さん。ホルンの師匠は、上田出身のホルン奏者・丸山勉さんなのだとか。「若い頃はとても厳しくて怖かった先生ですが、今はとてもフレンドリーに接してくださいます」と、カサドとカザルスの師弟関係に重なるような上田との縁を話してくれました。

 

2曲目はツェルニーの「アンダンテとポラッカ」。この曲はホルンとピアノのために作られています。「ピアノの新居さんが大活躍します」という福川さんの言葉通り、華麗なピアノとホルンの技巧がたっぷり味わえる充実した曲です。

 

3曲目はホルン・ソロの「Air」。作曲したヴィトマンは「(今生きている作曲家の中で)5本の指に入る」と福川さんが評す作曲家です。「現代音楽は調性がない分自由に聴ける良さがあります。音の移り変わりから想起されるイメージを大切にしながら聴いてください」。

 

 

ベルに差し込む手の加減でさまざまな音色に変化し、人の話し声のように聞こえるところも。グリッサンドやフラッターなどの技巧も散りばめられています。ホルン1本とは思えない縦横無尽な響きは、幻聴なのか残響なのか。音の遠近、広さと狭さの表現はまさに“Air”でした。

 

4曲目は新居さんのピアノとともに、イギリスの作曲家ボウェンの「ホルン・ソナタ 変ホ長調」です。霧の多いロンドンの陰影を思わせる豊かな色彩と、熟知しているホルンのキャラクターを最大限引き出した、親しみやすい曲です。

 

 

休憩をはさんで後半は、傑作ミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」です。ニューヨークを舞台に、ポーランド系 とプエルトリコ系の不良少年グループの抗争と、『ロミオとジュリエット』を下敷きとしたトニーとマリアの悲恋を描いています。

 

福川さんの語りをはさみながら、新居さんのピアノと福川さんのホルンが各場面を雄弁に物語ります。プロローグでは、警官のホイッスルを譜めくりの方が吹き鳴らすなど、面白い仕掛けが。「ブルース」や「マンボ」のダンサブルなリズム、しっとりと聴かせる「マリア」、中盤のハイライトと言える「トゥナイト」や「ワン・ハンド、ワン・ハート」など、どの場面も登場人物の姿が目に浮かぶような臨場感があります。トニーの死で迎えたフィナーレは、悲しみをたたえて立ち去る若者たちの足音のように、消え入るように終わります。

 

 

お客様の大きな拍手がホールを満たしました。

 

 

手を高く上げて拍手するお客様も大勢いて、約40分にわたる心揺さぶる演奏への感動が伝わってきます。

 

 

「最後は、私がとても好きなラフマニノフの『チェロ・ソナタ』の第3楽章を演奏します」と福川さんが言い、アンコールへ。ラフマニノフらしい、流麗で胸苦しいような切ないメロディをホルンで歌い上げます。

 

再び大きな拍手が送られ、福川さんは客席に手を振って舞台をあとにしました。

 

お客様に感想を伺いました。

2017年のワンコイン・マチネにもお越しになった上田市内の女性です。「ホルンはこんなに素敵な楽器なんだと魅了されて、長野市での福川さんのリサイタルにも行きました。今日は知らなかった曲もたくさん聴けて、よかったです」。

ホルンを吹いているという中学2年生の男の子は、ご両親とともに奈良県から来られたそうです。「とてもかっこよかったです。特に『ウエスト・サイド・ストーリー』が良かったです。ホルンのいろんな音色で表現しているところがグッときました」と話してくれました。

 

【プログラム】

カサド/親愛の言葉

ツェルニー/アンダンテとポラッカ

ヴィトマン/Air(ホルン・ソロ)

ボウェン/ホルン・ソナタ 変ホ長調 Op.101

バーンスタイン(小林健太郎・編)/ウエスト・サイド・ストーリー

 

【アンコール】

ラフマニノフ/チェロ・ソナタ ト短調 作品19より第3楽章