【レポート】高校生と創る実験的演劇工房 10th 『chair 0』
- 開催日
- 時間
- 14:00~
- 会場
- サントミューゼ 大スタジオ
上田市内の高校演劇部(班)の生徒たちとプロの演出家が作品創作に挑む「実験的演劇工房」。10回目の今年は、作・演出に劇作家・演出家の藤田貴大さんを迎えました。藤田さんは2007年に演劇団体「マームとジプシー」を設立。2011年には26歳で第56回岸田國士戯曲賞を受賞し、演劇以外にも多岐にわたる表現活動を続けています。
今回参加したのは、上田高校、上田染谷丘高校、上田東高校、丸子修学館高校の生徒たち12名(うち1名は17日のみ出演)。2日間2公演のうち、初日の模様をお伝えします。
キャロル・キングの「You’ve Got A Friend」が流れる舞台の両端に、椅子が向かい合うように並んでいます。黒い床に白線が何本も走っていて、細かく描き込まれた場所の名前は、今回参加する高校生たちの行動範囲を地図として表わしているようです。
10人の演者たちが登場し、椅子に腰かけました。「おはよう」というセリフの後に、それぞれの朝の光景が断片的に展開していきます。プロローグ「それぞれの朝」からチャプター1「家のなかで」です。
「私には痛みがない」「自販機行くけど一緒に行く?」「お母さんあれ買ってきて欲しい、Aコープで。揚げ物のお菓子」「次は松尾町」「すべてがだりぃ」。10人の高校生のおそらく日常、もしくは印象に残ったであろう朝の光景が、アンビエントな音楽を背景に次々と現われます。そのうち、言い争う姉弟と姉妹の2組のシーンが交互に繰り返されるように。徐々に荒々しく絶叫めいて変容していくことで、フィクションと現実のあわいが溶けていくようです。
リフレインは藤田さんの演出の特徴のひとつで、時間が流れていくこと、そのことで忘れられていく何かがあることに抗いたいからかもしれないと過去のインタビューで答えているように、ただ激しい感情の発露ではない、切実さが迫ってきます。
チャプター2「町を歩くと」では、数組の友だち関係が描かれます。マクドナルドのオーダーで、心の中ではこう言いたかったけれど、実際は当たり障りのないやりとりをする女子と友だち。久しぶりにばったり会ってカラオケに行く同級生のふたり。17年分のお年玉でイタリア旅行に行きたいという女子。舞台上の何気なく見える会話の中に、ふたりの関係性や、演者本人のパーソナリティが見え隠れするようです。
そして、ギター、オカリナ、トイピアノ、バードコールを持った4人が舞台に現われ、マクドナルドから焼肉きんぐをはしごした女子ふたりのセリフが演奏にオーバーラップ。素朴な音色とスキャットが切なく響きます。
チャプター3「サンタクロースについて」は、演者が順番にサンタクロースにまつわるエピソードを話していきます。リアルなエピソードかもしれないと感じつつ、それぞれ語られる内容、温度感に引き込まれます。
インタールード「バス停にて」では、言い争っていた姉弟が再び登場します。演劇をやっている姉は、演劇が自分にとってどんな存在かを語ります。徐々に大きくなっていく電子音に会場が包み込まれます。
チャプター4「サンセポルクロ」。耳慣れない名前は、どうやら旅の目的地のよう。チャプター2で「ひとりでイタリアに行く」と言っていたシーンと繋がります。細かく表現される長旅の様子は、初めの海外旅行の高揚感と所在なさがよく表れています。途中、上田にも滑走路があったことが差し挟まれます。かつての陸軍滑走路です。唐突に飛び出す戦争のエピソードが、破れ目のような異物感を呼び起こしました。
エピローグの「完璧な一日」は、「おやすみ」から舞台に横たわった演者たちが、それぞれの完璧な一日について短く語ります。演じ終わった11人の高校生に、温かい大きな拍手が送られました。
ふたり組の高校生の感想です。「抽象的な劇に生活のワンフレーズが細かく具体的に出てきて、日常に取り込まれた感じで面白かったです」と言うのは、お姉さんが今回の舞台に出ている女性。同じ演劇部の女性は、「演者たちを知っているので、知っているネタも出てきていました。役だけどリアルが顔をのぞかせるところがとても面白かったです」と、話してくれました。