【レポート】宮田大 チェロ・リサイタル with 山中惇史
- 開催日
- 時間
- 19:00~
- 会場
- サントミューゼ 小ホール
2023年度のレジデント・アーティスト、最後を飾るのはチェリストの宮田大さんです。ピアニストの山中惇史さんとのデュオ・リサイタルをレポートします。
バルコニー席も埋まった満席の小ホールに、スポットライトに照らされた舞台が浮かび上がります。宮田さんと山中さんが登場し、1曲目の「うたをうたうとき」へ。詩人まど・みちおさんの『まど・みちおの詩による4つのうた』という歌曲集の終曲です。今回は、作・編曲家でもある山中さんがチェロとピアノでアレンジしています。
曲が終わって、おふたりが挨拶します。1曲目は詩を見ながら弾いていたという宮田さんは、お客様に「すべての曲に物語を感じながら聴いてください」と語りかけます。
2曲目はバンドネオン奏者で“タンゴの革命児”、アストル・ピアソラの「天使の組曲」を山中さんが編曲。舞台『天使のタンゴ』のために書かれた4曲で、ブエノスアイレスの場末の共同住宅に現われた“天使”と、そこに住む荒んだ輩たちとのやりとりが描かれます。弱いピチカートからはじまり、不協和音が印象的なピアノが絡んでいきます。この週末、水戸、常陸太田とデュオ・リサイタルを重ねてきたおふたりが、「今日の結末は、ハッピーエンドか、to be continuedか……」と示唆するように、さまざまな天使の姿と情景が音楽で表現されていきます。
前半最後は、アイルランドの作曲家ビル・ウィーランの「Riverdance」。上半身を動かさず、脚のステップやジャンプだけで踊るアイルランド音楽の舞台作品として有名です。リズミカルなタップの靴音に、もの悲しさと胸の高鳴りを覚える旋律を、山中さんがダイナミックに編曲。ピアノとチェロのスリリングな掛け合いに、Riverdanceの熱狂が宿ります。
早くも熱気のこもった拍手が鳴り響き、前半が終わります。
後半は上田トークからスタート。アウトリーチを含め、何度か上田に来る中で行ったおいしいお店について盛り上がりました。かねてより盟友であるおふたりの関係性が垣間見える、リラックスしたやりとりに客席にも和やかな空気に。
4曲目は、モラヴィア(チェコ東部)出身の作曲家ヤナーチェクの「おとぎ話」。チェロとピアノのために作曲された室内楽曲で、チェロとピアノをカップルに見立てたような温かく甘やかな雰囲気が漂う小品です。少しくぐもった懐かしいピアノの音、「むかーし昔……」と語るようなチェロ。3楽章では宮田さんのチェロが思い切り歌い上げます。
最後は、山中さんが編んだ「John Williams Fantasy Trip」です。『ジョーズ』『スター・ウォーズ』『ハリー・ポッター』などの映画音楽の巨匠であるジョン・ウィリアムズ。手掛けた数多の作品の中から山中さんが選んだファンタジー要素の強い作品を、ただのメドレーではなく、違った曲が同時に進行したり、カデンツァ(即興)のパートがあったりと、さまざまな仕掛けとともに構成しているのがミソ。山中さんが、「完成したのは初演の1週間前です」と打ち明けるのも納得の力作です。
映画の世界を小旅行するような約14分間は、低音から厳かにはじまります。多くの人の耳になじんだ旋律が、現れては消えていきます。熱演という言葉がまさにぴったり。演奏後におふたりが「みなさんの集中力が伝わってきました」と言っていた通り、客席の熱気も最高潮です。
アンコールは坂本龍一の「星になった少年」と、ジョン・ウィリアムズの隠れた名曲「アメリカン・コレクションのテーマ」です。
お客様の感想です。
丸子地域のふれあいコンサートにも行ったという女性は、前方の席で鑑賞したそうです。「演奏が進むにつれて、宮田さんの体から湯気が上がるのが見えました。湧き上がるような美しさと音色があいまって、感激しました」。坂城町から来た女性は、「宮田さんも山中さんもよかったです。鳥肌が立ちました。おふたりとも兄弟のようですね」と言い、ご友人の上田市の女性は「最高でした!」と弾む声で感想を伝えてくれました。
【プログラム】
山中惇史/うたをうたうとき
ビル・ウィーラン(山中惇史編)/リバーダンス
ヤナーチェク/おとぎ話(全3楽章)
ジョン・ウィリアムズ(山中惇史編)/ジョン・ウィリアムズメドレー
ピアソラ(山中惇史編)/天使の組曲(1.天使の導入部 2.天使のミロンガ 3.天使の死 4.天使の復活)
【アンコール】
坂本龍一(篠田大介編)/星になった少年 ジョン・ウィリアムズ(山中惇史編)/アメリカン・コレクションのテーマ