サントミューゼ開館2年目から公演を続けてくださっているピアニスト金子三勇士さん。今年はサントミューゼ開館１０周年記念事業として節目の公演となりました。

ステージに登場した金子さんを、高く掲げた拍手で迎えるお客様の姿に、期待のほどが伺えます。力強い「ハンガリー舞曲　第５番」（ブラームス）は連弾用に書かれた楽譜をソロで弾くという、１曲目から限界に挑戦するかのような演奏が繰り出されます。

「今回のテーマは“舞曲”です。私のもうひとつのアイデンティティであるハンガリーをはじめ、さまざまなルーツの舞曲を聴き比べてください」と金子さんが挨拶します。１０回目ともなるとお客様も耳が肥えているからと、「ハイリスクハイリターンなプログラムをご用意しました」と笑いを誘います。

2・３曲目はハンガリーの作曲家・バルトークの作品「６つのブルガリアリズムによる舞曲　～リサイタル・パッシオテーマ曲～」と「６つのルーマニア民族舞曲」です。ブルガリアリズムは８拍子を3-2-3と分ける変拍子で、まるでジャズのよう。ルーマニア民族舞曲については、当時はハンガリー領だったバルトークの故郷のリズムが取り入れられています。切ない短調に懐かしさが横溢する曲想に、戦争などによって国境線が変えられてきた歴史が重なります。

そしてショパンのワルツが２曲、「猫のワルツ」と「華麗なる大円舞曲」と続きます。ショパンのワルツといえば「子犬のワルツ」が有名ですが、こちらは中間部に猫が「ニャーオ」と鳴くような部分があることから名付けられました。「華麗なる大円舞曲」は壮麗な舞踏会が目の前に広がるような、スケールの大きな演奏でした。

前半最後はリストの「メフィスト・ワルツ　第１番」。村の居酒屋で悪魔メフィストは楽士からヴァイオリンを取り上げて弾き、人々を陶酔させます。不穏な空気と踊りの熱狂を、畳み掛けるような超絶技巧で表現します。金子さんが踏み鳴らす足は舞曲を引き立てる打楽器のようです。

後半１曲目、ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第２３番『熱情』」はどこに舞曲が隠れているのでしょうか？　「第３楽章の最後の最後にハンガリー舞曲が突然出てきます」と種明かししてくれます。“運命の動機”が重々しく扉を開く第１楽章と、威厳に満ちた第２楽章。そして緊張感と嵐のような激しさで駆け抜ける第３楽章まで至り最後、「熱々で弾きたい」という金子さんならではの、ひときわ情熱的なフィナーレが刻み込まれます。

最後は、リスト「死の舞踏」を金子さんが音楽番組「題名のない音楽会」用に編曲したバージョンです。オーケストラとピアノの15分ほどの作品をコンパクトにし、ピアノででき得る限りの高難度のテクニックを盛り込んだ金子さんの意欲作です。重苦しく歩む低音からはじまり、激しい波のようなグリッサンドなど華麗な演奏に圧倒されます。襲いかかる死を命がけで跳ねのけるような「死の舞踏」でした。

「ブラボー！」という掛け声がかき消されそうなほどの熱い拍手が、会場を満たします。

アンコール１曲目は、“お口直し”の「子犬のワルツ」。今日は「子犬のワルツ」は弾かないという言葉にさみしそうなお顔をされているお客様がいらっしゃったのでと、予定外のサプライズでした。２曲目は、ショパンかリストの「ややしっかりめのアンコール曲」２択をお客様の挙手で決めるという楽しい趣向が。結果、「ハンガリー狂詩曲　第２番」が選ばれます。

お客様の興奮が伝わったのか、ショパンも弾いてくださることに。「３kgぐらい減量できそうです」とおどけつつ、「英雄ポロネーズ」へ。そう、ポロネーズはポーランドの舞曲です。高揚感と切ないほどに美しいメロディが、金子さんの力強いタッチで輝きを増します。

終演後のサイン会には多くのお客様が参加していました。

佐久市の女性とピアノを習っている中学２年生の息子さんです。「金子さんのリサイタルは毎回来ていますが、今回は特に良かったです」と話してくれました。

「また来たいです」と話してくださった長野市のお友だちと一緒に来られた女性は、「とても力強くて、素晴らしかったです！　金子さんはトークも良いですね」と話してくれました。

【プログラム】

ブラームス：ハンガリー舞曲 第5番

バルトーク：6つのブルガリアリズムによる舞曲 第4番 ～リサイタル・パッシオテーマ曲～

バルトーク：6つのルーマニア民族舞曲

ショパン：ワルツ 第４番「猫のワルツ」

ショパン：ワルツ 第１番「華麗なる大円舞曲」

リスト：メフィスト・ワルツ 第1番

ベートーヴェン：ピアノ・ソナタ 第23番「熱情」

リスト＝金子三勇士：死の舞踏 ～題名のない音楽会オリジナルバージョン～

【アンコール】

ショパン：子犬のワルツ

リスト：ハンガリー狂詩曲　第２番

ショパン：英雄ポロネーズ