サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館) おかげさまでサントミューゼは10周年

JA

音楽劇 『死んだかいぞく』

みる・きく
開催日
時間
14:00~
会場
サントミューゼ 小ホール

絵本「死んだかいぞく」は、画家・アーティストの下田昌克さんが手がけた2020年の作品です。児童書の国際的な見本市「ボローニャ国際ブックフェア」において、ボローニャ・ラガッツィ賞2024年特別部門「海」の特別賞を受賞した今年、ノゾエ征爾さんが脚本・演出を手掛け、田中馨さんの音楽とともに子どもから大人まで楽しめる音楽劇として舞台化されました。

客席は子どもからご年配の方まで多くのお客様で埋め尽くされています。波の音が響く舞台に、まず楽士のふたりが登場しました。片岡正二郎さんを先頭に俳優陣が「こんにちは!」と登場すると拍手が起き、舞台は暗転。歌曲に乗って、刺されたカイゾクが出現します。

Ⓒ田中亜紀

山内圭哉さん演じるカイゾクは海に沈んでいき、大きなサメがゆらゆらと泳ぎながら近づいてきます。サメの狙いはカイゾクの帽子。体が動かないカイゾクを尻目に、サメは帽子をひょいと奪って去って行きました。

Ⓒ田中亜紀

この帽子は、強い海賊たちの手を渡ってきたもののようです。片岡さん演じる“船燃やしのジョージ”ことキング・ジョージから始まった帽子の伝説にまつわるコミカルなやりとりを経て、ついに海賊帽はカイゾクの手へ。キング・オブ・パイレーツの誕生です。「やっと、やっと手に入れた」とその当時を感慨深げに思い出す死んだカイゾクを茶化すように「やっとさー、やっとさー」と阿波踊りの女性が舞台に登場して笑いが起きます。

海の中に戻ると、大きな口をしたシワシワの魚が近づいてきます。抵抗むなしくカイゾクは歯を奪われ、年老いた魚は金歯をキラリと光らせます。この金歯は、カイゾクが虫歯になった時に入れたものでした。金歯にこだわるカイゾクの言葉から、心に秘めた女性の存在が明かされます。

海の中のカイゾクに長い尾びれをゆらゆらさせたちいさな魚が近づいてきました。魚の被り物をした山下リオさんが頭を振ると、尾びれが優雅に揺れます。「自慢の鱗を貝殻にひっかけて剥がしちゃったの。その爪を私にちょうだい」と言われ、カイゾクの爪は桃色の花のような模様になって魚の体を彩ります。

続けて熊谷拓明さん演じるタコがやってきて、「かっこいい髪の毛をくれないかい?」と話しかけます。これまでは抵抗していたカイゾクですが、「どうも俺様は死んでしまったみたいだし、髪の毛なんてもういいか」とあっさり手放します。

Ⓒ田中亜紀

花のような爪と髪の毛から過去の記憶をたぐり寄せ、場面はカイゾクの少年時代へ。クルクル天然パーマの少年時代。山下さん演じる少女に落とした花の髪飾りを渡しました。少女に名前を尋ねるも「また会うことがあれば教えてあげる」と去ってしまいます。場面変わって、少年カイゾクは家納ジュンコさん演じる母とのふたり暮らしの情景が描かれます。神父だった父は家を出ていってしまったようです。

5年後、竹口龍茶さん演じるセイラーマンに少年は憧れを抱き、髪飾りの少女と再会します。名前を改めて聞くも「また会うような気がするから」と再び少女はいなくなります。さらに5年が経ち、セイラーマンになったカイゾクは難破して流れ着いた無人島で、過去に同じく難破して死んだと思われていたキング・ジョージと出会います。カイゾクはジョージに「海賊にしてください!」と頼み込みます。

こうして海賊になった少年カイゾクは、大人になった髪飾りの少女に再会します。アンナという名を明かし、昨日結婚した身にも関わらず、運命の再会でカイゾクへの愛を自覚するのでした。カイゾクは、腕輪と引き換えにアンナを自由にしてくれとアンナの夫に交渉します。今度は海賊を取り締まる総督に転身したキング・ジョージが現れ剣呑な雰囲気になるも、アンナの家政婦が窮地を救ってくれました。

Ⓒ田中亜紀

再び海に沈むカイゾクは釣り針に引っ掛けられてしまいます。その釣り針を垂らしている男ふたりは、実はどちらも男に変装した女と分かり意気投合して親友に。加えて、海賊船に身を隠して海賊のふりをしていたアンナと、アンナの家政婦から海賊に転身したリリーだと判明します。再会を喜ぶ中でアンナの妊娠が分かり、カイゾクとも再会しますが、ふたりは再び引き裂かれてしまいました。

場面変わって1年後、手紙を書くカイゾクは、アンナと生まれた息子ダニエルに会いたいと切望しています。その思いを忘れることなく、人や船をつぎつぎと集め、みるみる名を上げていきました。

Ⓒ田中亜紀

Ⓒ田中亜紀

場面はキング・オブ・パイレーツになった時点に戻ります。リリーがアンナからの手紙を持ってきました。カイゾクの懸賞金が跳ね上がったことで命を狙われるアンナと息子とは連絡を絶つべきと忠告するリリーに、怒って子どもの顔を描けと迫るカイゾク。開き直ったリリーはヘタな絵を描き始め、客席の子どもたちから笑い声が起きます。ふたりに一目でいいから会いたいとカイゾクは声を絞り出します。

再び、海底に落ちていくカイゾクのところにチョウチンアンコウがやってきて目ん玉がほしいと言い、もっていってしまいます。「どうも俺様は本当に死んでしまったようだから、もう何もいらないか」とつぶやくカイゾク。さらには魚の群れに自分を食べることを許したカイゾクは、骨だけになって海底にたどり着きました。船の上では船長を探す声が響き、カイゾクは不運にも酔っぱらった手下に刺されてしまったことが明かされます。

一方、とある町が海賊に襲われています。赤子を抱えて逃げてくる女性。どこかで見たことあるようなクルクル天然パーマです。もうここまでと、赤子だけを小樽に乗せて「絶対に生きて!」と手放します。海を漂った赤子は、奇跡的に、とある婦人に拾われます。それは、カイゾクの母親として登場していた婦人でした。婦人は赤子を迎え入れるのでした、「ようこそ」と。

物語を閉じるナレーションが流れ、「そしてカイゾクはサンゴになった」という山内さんの声で、舞台の上の骨が色とりどりのサンゴに囲まれて青白く輝きました。俳優陣が揃って歌い、カーテンコールです。

原作者の下田さん自身が美術・衣裳・小道具のデザインを手掛け、隅々までアイデアにあふれた幻想的な世界が出現していました。『死んだかいぞく』は、下田さんが美術学校生だった20代に、舞台美術家・朝倉摂さんの授業で課題としてつくった作品。30年の時を経て世に送り出され、大人の本気を見せたいとつくりあげられた舞台は、子どもから大人まで観た人の心にしっかりと届いていました。

終演後は、原作絵本やオリジナルTシャツを買い求めるお客様で賑わっていました。

お客様の感想です。

お母さん、お父さん、娘さんでいらした上田市のご家族です。「大人も子どもも楽しめる内容でした」「音楽もよかったです。舞台が大きすぎないのも見やすかったですね。小道具も素敵でした」。お友だちと誘い合わせて来られた上田市の女性は、山内さんファンの幼い娘さんと一緒に笑顔で「大満足でした!」と話してくれました。お友だちの女性も「大きい音に子どもがびっくりしたり、途中で集中力が切れるか心配したりしていましたが、最後まで観られました」と満足そうでした。