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【レポート】仲道郁代~アナリーゼシリーズvol.28~

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サントミューゼ

アナリーゼ(楽曲解析)ワークショップVol.28
お話し:仲道郁代

1月30日(水) 19:00~ at サントミューゼ小ホール

 

 

国内外で活躍するピアニスト、仲道郁代さんによるアナリーゼワークショップ。

この日は、2月11日にサントミューゼで開催する「仲道郁代ピアノ・リサイタル オール・ショパン・プログラム」の曲から「24のプレリュード」「4つのバラード」についての解説でした。

 

 

「今日はショパンについて、証明されている正しい歴史だけでなく『私はこう思う』ということも交えてお話します。いつにも増して勝手なことをしゃべろうと思いますので(笑)、ご了解くださいね」と笑顔で話した仲道さん。
まずはショパンの人生を紐解きます。

 

スクリーンには彼や家族の肖像画、祖国ポーランドの情勢が分かる地図などが映し出されました。

「ポーランドは長く地図から消され、ショパンは祖国に帰ることができませんでした。こうした背景があったからこそ、激しさや暗さといった、彼の音楽に潜む激情が生み出されたのだと思います。ショパンはのちにパリに移りますが、ポーランドの民族音楽のリズムやメロディーを取り入れた彼の曲はパリの人々には新鮮で、大きな人気を得ました」

 

 

作家のジョルジュ・サンドと恋に落ち、病の静養を兼ねて一緒に出かけたのがスペインのマジョルカ島。

「24のプレリュード」はこの地で書かれました。

 

 

「1オクターブには黒鍵を入れて12の音があり、それぞれに長調と短調の2つの調性ができます。12×2=24。この24すべての調性で書かれたのが『24のプレリュード』です。全ての調でもって表される世界。それはつまり宇宙なのだと思うのです」

 

音楽修辞学では「変ホ長調は英雄的」「ニ短調は哀しみ」というように、すべての調性に意味があるとされますが、

「『24のプレリュード』の曲一つひとつは30秒から2分ぐらいと短いのですが、それぞれにショパンの思う調性の世界観が凝縮されています。彼の作曲家としての極みの作品だと、私は思います」

 

そして曲の一部を弾きながらの解説へ。

第1番(ハ長調)は幸せな気分に満ち、対して第2番はイ短調の不安定さに満ちた、しかし最後までイ短調の和音が現れない不思議な曲調。

第3番はト長調の明るく軽やかな調子でムードを一変し、第4番のホ短調は下がっていく和音や嘆くような旋律が悲しみをそそります。

 

 

第7番は彼の自筆譜とともに紹介。

「イ長調」のため胃腸薬のCMに使われている、おなじみの曲です。ちなみに現在のCMで流れているのは仲道さんの演奏なのだそう。

ショパンが楽譜に書き込んだ繊細な指示が印象的ですが、注目はペダル指示です。

 

 

「現代のピアノで楽譜の通りにペダルを踏むと、すごく音が濁るんです。彼がマジョルカ島で使っていたピアノはとても音が小さく繊細でした。そのピアノで指示通りに弾くと、とても良い感じに響くのですね」

 

第15番「雨だれ」は、降り止まぬ雨の音を聞きながら不安と恐怖にかられた彼の思いを表すように、最初から最後まで雨を思わせる音が続きます。しかし「途中で、この持続していた音がふっとやむ一瞬があるのです」と仲道さん。

このように24曲すべてに、「このポイントに向けてこの曲を書いたのではないか」と思える部分があるのだと話します。

 

 

最後の第24番はニ短調。そのラストは低く暗い単音が3つ、鐘のように厳かに打ち鳴らされます。

「音楽の宇宙を描こうと思ったショパンがたどり着いた最後は、この3つの音。これまでの23曲が思い返されて、“彼にとっての宇宙観はなんなのだろう。”“最後に打ち鳴らしたいのはこれなのか……”と感じ入ります」

 

続いては「4つのバラード」について。

「ショパンは音楽から文学性を排除し、音は音だけで存在するとした人でした。それなのに、なぜ物語を意味するバラードで曲を書いたのか。実は彼がインスパイアされた物語があるのですが、どれもすごくロマンチックなのです」

 

第1番の元になったのは、故郷ポーランドの勝利を目指した若者の物語。

「自分は祖国のために何もできない」と悩んでいたショパンは共鳴する部分があったのかもしれません。「戦争と平和」とも呼ばれる第2番は、穏やかな部分と激しい部分が交互に表れます。第3番は、水の精の幻想的な物語がモチーフ。音のリフレインが、人間を水へと誘う妖精を思わせます。第4番は、晩年のショパンの祖国への忸怩たる思いがうかがえるのだと話します。
「ショパンは後ろ向きだったと思うんです。自分も祖国の役に立ちたかった、共に戦いたかったという思いが常にあったから、楽しげなワルツや雄壮な曲でさえ『こうありたかった』という思いがあるのでは。それがえも言われぬ影や繊細な魅力となって、私たちを惹きつけてやまないのではないでしょうか」

 

 

仲道さんの感性と言葉を通して、ショパンという人物とその音楽がいっそう立体的に浮かび上がってくるようでした。

2月11日、彼が遺した楽譜から仲道さんが感じとった音をぜひ味わってみてください。

 

仲道郁代ピアノリサイタル~オール・ショパン・プログラムの詳細はコチラ