【レポート】神谷未穂・望月優芽子 アナリーゼワークショップ
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アナリーゼ(楽曲分析)ワークショップ Vol.18
神谷未穂ヴァイオリンリサイタル関連プログラム
お話:神谷未穂、望月優芽子
2月22日(木) 19:00~ at サントミューゼ小ホール
3月9日(金)、サントミューゼで神谷未穂さんのヴァイオリンリサイタルが行われます。
フランスと日本を中心に精力的に演奏活動を行い、国内外さまざまなオーケストラにソリストとして招かれ共演を重ねる神谷さん。
現在は仙台フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターを務め、3月18日(日)には同楽団の定期演奏会もサントミューゼで開催されます。
この日のアナリーゼには、9日のリサイタルで共演するピアニストの望月優芽子さんとともに登壇。当日のプログラムから2つのソナタを取り上げ、分かりやすくレクチャーしてくれました。
まずはベルギー出身の作曲家、フランクによる「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調」。
「ピアノとヴァイオリンのソナタの最高峰とも言える素晴らしい曲です。全4楽章を通して私と望月さんが感じるイメージは、“教会の音”です」
と神谷さん。
作曲者のフランクは、オルガン奏者としても活躍していました。彼が演奏を行っていたパリの教会の鐘の音色を聴いたのち、ソナタ第1楽章冒頭のピアノを望月さんが演奏すると、その音程とリズムは鐘の音によく似ています。さらに左手のみで演奏してみると、シンプルな和音はまさに鐘の音のよう。参加者の皆さんも思わず頷いていました。
第3楽章は、冒頭の楽譜をスクリーンに映して説明しました。
「ここに出てくる記号“G.P.(ゲネラルパウゼ)”は、“全体止まれ”という意味です。止まることで、聴いている方にも“考える瞬間”が生まれるのが素敵なところ。ちなみに仙台フィルハーモニー管弦楽団の指揮者は、演奏者に“G.P.のときは体も動かさないで!”と言うんですよ」
と、同じ演奏で体の動きを止めた場合と、動かし続けた場合を比較してみせてくれました。動きが止まることで空気が切り替わり、緊張と緩和のリズムを感じます。
「余韻まで楽しんでいただきたいという思いがあるから、演奏家にとってこうした休符はとても重要です」
と話してくれました。
続いて、フランスで活躍したプーランク作曲「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」を望月さんが解説。
プーランクがスペインの詩人ガルシア・ロルカを想って作ったと言われるこの曲。楽譜の第2楽章冒頭には、彼の詩の一編が書きつけられています。
“ギターは夢たちを泣かせる”
このフレーズをスペイン語の原文で聞いてみると、聞きなれない言語ながらも、不思議と心地よいリズムと語感です。
「スペイン語の余韻や母音のアクセントが非常に音楽的だと感銘を受けたプーランクは、第2楽章にこのフレーズを盛り込んでいます」
と、その箇所を実演。どこか怪しげな美しい音色の中に、ピアノのペダルでフレーズの響きをひっそりと表現しています。ヴァイオリンには、スペインの象徴的な楽器であるギターのアルペジオ奏法が取り入れられていました。
そして第3楽章の最後には、若くして暗殺されたロルカが銃撃されたシーンがピアノパートで表現されています。
「この曲で、私が一番気持ちを入れる音です」
と披露してくれた望月さん。銃撃音を思わせる重く暗い低音に悲鳴のようなヴァイオリンの響きが重なり、悲劇的な一場面が目の前に浮かぶようでした。
さらに、プーランクがピアノのペダルを多く使うことを好んだというエピソードも。
「このようにフランス音楽の楽譜には“こう弾きなさい”という指示表示がとても多いのですが、私たちはそれらを見るとワクワクするんです。楽器に向かうだけでなく、先ほどの鐘の音のようにいろいろな情景を見たり聴いたりして作曲者が求めた曲を作っていく、そんな過程が大好きです」
と望月さんは話してくれました。
お二人が「とても楽しみで、プログラムも張り切って盛り込んでみました」と語る3月9日(金)のリサイタルは、紹介したソナタのほかにも個性豊かな楽曲ぞろい。ぜひお楽しみに。