サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館) おかげさまでサントミューゼは10周年

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【レポート】金子三勇士 アナリーゼ(楽曲分析)ワークショップ Vol.48 

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会場
サントミューゼ

4月11日(日) 14:00~ at サントミューゼ小ホール

 

国内外で幅広い活動を続け、ラジオのレギュラー番組を持つなど多方面で活躍するピアニストの金子三勇士(みゆじ)さん。2015年度から毎年サントミューゼで演奏を行っています。この日は、5月8日にサントミューゼで開催するリサイタルをより深く楽しむためのアナリーゼ(楽曲分析)が行われました。

 

リサイタルチケットは現時点ですでに完売。今回のアナリーゼにも多くのお客様が訪れ、金子さんの人気とリサイタルへの期待の高さを物語っていました。

 

 

にこやかに登場した金子さん、最初にステージのピアノの前に座って弾き始めたのは、バッハの「フランス組曲 第5番 ト長調 アルマンド BWV816」。春の訪れを感じさせるような、明るく軽やかな音色です。

 

「私は日頃から、練習やリハーサルの1曲目は100%バッハの曲を弾いています。クラシック音楽の生みの親とも言われるバッハは音楽家の原点でもあり、初心に帰る気持ちになります」

 

5月のリサイタルのタイトルは、「ピアノで綴る“上田2020/21” ~バロックから現代まで・五人の作曲家の音楽リレー」。当初は2020年に行う予定だったため、「東京2020オリンピック」になぞらえてタイトルを考えたそうです。新型コロナウイルス感染拡大のため2020年のリサイタルは残念ながら中止となりましたが、2021年、満を持してして開催されることとなります。

 

リサイタルで取り上げる作曲家は18世紀に活躍したバッハに始まり、古典派のベートーヴェン、ロマン派のショパン、近代のバルトーク、そして現代の藤倉大と、時代も国も違う5人。今回のアナリーゼでは、ベートーヴェンと藤倉大にスポットを当てて解説しました。

 

まずは、2020年で生誕250周年を迎えたベートーヴェンから。誰もが見覚えのある肖像画がスクリーンに映し出され、「紹介されるのはいつもこんな表情・・・・・会ってみたいと思いますか?」と金子さんが尋ねると、会場には笑い声が広がりました。

 

 

こわもての印象があるベートーヴェンですが、「作品に触れていると、彼の本当の姿が表れてくるような気がします」と金子さん。

 

「よく知られているのは、どちらかというと暗く、重ための曲です。例えば『交響曲第9番』や『月光』、『運命』。ですが今回は、もしかして彼にもフレンドリーな一面があったのではないかな?と思う作品を選びました」

 

それが、ピアノ・ソナタ 第21番 ハ長調 Op.53『ワルトシュタイン』。タイトルは、今でいうスポンサーとして彼を物心両面から支えた伯爵の名前です。

 

難聴で失意の底にあったベートーヴェンを救ったのが、ワルトシュタインの支援で贈られた当時最新鋭のピアノでした。それまで聴こえなかった高い音や低い音、きらきらした音色にすっかり魅了されたベートーヴェンが嬉しさのあまり書き上げた曲が『ワルトシュタイン』だったのです。

 

実際に曲の一部を演奏してくれました。第1楽章には、それまでのピアノで表現できなかった音の強弱や音色(おんしょく)がふんだんに盛り込まれています。暗い第2楽章を経て、新しいピアノの音色の引き出しの多さを表現する第3楽章へ。その世界は、金子さんいわく「天使と悪魔のよう」。繊細さと彼らしい情熱がこれほど交互に入れ替わる作品は、ほかにないのだといいます。

 

もう一人紹介する作曲家は、藤倉 大。国際ピアノコンクールが舞台の映画「蜜蜂と遠雷」(2019年公開)の劇中に登場するオリジナル曲を手がけています。金子さんは、登場人物の一人・マサルの演奏パートを担当しました。劇中でコンクール課題曲として演奏される「春と修羅」には、最後の1/3に「カデンツァ」と呼ばれる部分があります。

 

カデンツァとは、出場者が自由に変えていい部分。即興演奏でも、自分で曲を作っても自由です。映画のカデンツァは金子さんではなく藤倉さんが作ったそうですが、藤倉さんは「マサルのカデンツァが一番苦労した」と語っていたそうです。

 

「原作を読むと、マサルのカデンツァを聞いた審査員が『なかなか斬新だった』と評価しているんです。それを実際の音で表現するのは大変だったと思います」

 

 

まずは冒頭を弾いてくれました。繊細で、ミステリアスな音色。続いて、マサルバージョンのカデンツァへ。「はちゃめちゃです」という金子さんの予告通り、まるで音の土砂降りのような激しい連打。会場内にも思わずどよめきが広がりました。

 

「この楽譜が届いたときは、びっくりしました(笑)。でもこれが映像になったとき、確かに原作で描かれた化学反応が起きた気がするんです。そこに、作者の恩田陸先生が書きたかったマサルの精神が見えてくる気がしましたね。このカデンツァはコンクールでどのように評価を受けたのか?・・・結末は、ぜひ原作か映画でお楽しみください」

 

5月のリサイタルが楽しみになる話が盛りだくさんだったアナリーゼ。金子さんは「こんなときだからこそ、一人でも多くの方に生の音楽に触れてほしい。音楽からしか得られないものはきっとあると思うから、そのお手伝いができたら」と話してくれました。