【レポート】アナリーゼ(楽曲解析)ワークショップ Vol.54~大萩康司(ギター)~
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アナリーゼ(楽曲解析)ワークショップ Vol.54
お話:大萩康司
11月11日(木) 19:00~ at サントミューゼ小ホール
クラシックギター奏者として国内外で活躍する大萩康司(やすじ)さん。11月19日に小ホールで開催するリサイタルに先駆け、公演で演奏する楽曲の魅力を解説するアナリーゼワークショップを行いました。
「クラシックギターはクセのある楽器です。今日はこの楽器の“取説”をお話しできたら」と話し始めた大萩さんが愛用しているギターは、フランスの名器「ロベール・ブーシェ」。作者はすでに亡くなっており、世界に154本しかないという貴重なギターです。
「使い始めてもう21年目。私が死んだ後も、大切に継いでいかなければならないので、メンテナンスしながら大切に使っています」
ナットやブリッジと呼ばれるパーツは、通常は牛骨や象牙を使いますが、大萩さんは実験的にカーボンを使用しているそうで、「音の伝達がとても良いので、この楽器の豊かな響きを保ちつつ輪郭を持った音の粒で演奏できるんです」とのこと。
演奏時、左足を足置き台に置くのが大萩さんの定番のスタイルです。左の膝と右足、胸の3点でギターを固定することで、指の形が複雑になっても支えられるからです。両手が自由に動くので「弾く弦の位置や爪の角度によって、音を変化させることができます」と、実際に比較して聴かせてくれました。
「私はギターという楽器を使って、様々な音を表現したいと思っています。たとえば琴のような音や、チェロのような音。“音の模写”というか、いろいろな音を真似してみたくて」
さらにこんなユニークなエピソードも。ギタリストが演奏前に鼻を触る仕草をよく見かけますが、「実は、爪に鼻の脂を塗っているんです」とその秘密を明かします。演奏する時、指が弦をとらえて抜くまでの時間は短ければ短い方が良いため、滑りやすくすることが重要なのだとか。
演奏会では色々なハプニングもあるそうで、これまで本番中に弦が切れたり共演者の音程がずれたり、停電や地震(!)もあったと振り返ります。
「でも、それでこそ生きた人間なんだと感じます。コロナ禍でカメラに向かって演奏している時は、心が淋しくて。お客さんの反応が呼吸だけでも伝わってくる喜びを再確認できたことが、この2020年を耐えてよかったと思うことの一つです」
サントミューゼの美術館で木版画を鑑賞し、「音楽は版画に似ている」と感じたといいます。彫る人、紙に刷る人、色をつける人。色々な作業が重なり合って一つの作品が完成する版画。クラシック音楽も、作曲者が書いた楽譜を演奏者が自分なりに解釈して演奏すると、そこに個性が生まれ、さらに、使う楽器や会場によっても演奏は変化し、一つの作品となります。
「たとえ楽譜どおりでも、その場で生まれたかのように聴かせるのが良い演奏です」と大萩さん。何百回も弾いている曲でも、今日はどんなふうに演奏しようかと、常に考えていると語り、実際に名曲『11月のある日』を弾きながら、常に軸になる音がぶれないよう次の音へいく準備をしていることや、「音の重力」を感じながら重さと軽さの対比を意識していることなどのポイントを解説していきます。
「演奏者が10人いれば10とおりの演奏があるので、色々な演奏を聴いて好きなものを探してほしい」
「もし、『この演奏は好きじゃない』と思ったとしても、何が嫌いなのかが分かると、自分なりのアナリーゼができてくるのかなと思います。自分で調べることが楽しいと思いますね」
最後の質問コーナーでは、楽譜の分析からギターの弾き方のコツまで、会場のお客様からの様々な疑問に丁寧に答えてくれた大萩さん。
「19日のリサイタルは、今日とまったく同じ場所で弾きます」
「ステージ上で椅子を置く場所は無造作に決めているのではなく、響きの良い場所を探って決めています。今日この場所で弾いてみて音が安定していたので、19日はまったく同じ場所で演奏する予定です」と締めくくります。
演奏の裏側まで教えてくれたユニークなアナリーゼ。リサイタル当日がますます楽しみになりました。