【レポート】新倉瞳(チェロ)&佐藤卓史(ピアノ)地域演奏会
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2021年1月27日(水)19:00開演 川西公民館 大ホール
1月24日のアナリーゼ・ワークショップに引き続き、翌25日から4つの小学校でクラスコンサートを行ったチェリストの新倉瞳さんとピアニストの佐藤卓史さんが川西公民館で地域ふれあいコンサートを開催しました。
とりわけ寒い1月の夜ですが、開場時間を過ぎるとお客様が続々と見えられました。ゆったりとした会場で約30名のお客様が開演を待ちます。
拍手で迎えられた新倉さんと佐藤さんが舞台に上がり、エルガーの「愛の挨拶」から幕を開けます。
演奏後、新倉さんと佐藤さんがマイクを握り、お客様に挨拶しました。「愛の挨拶」はエルガーが妻にプロポーズする時につくった曲で、作曲もされる佐藤さんに「奥様へのプロポーズの時も・・・・・?」と新倉さんが尋ねると、佐藤さんは「いえ、書いていないです」とはにかみながら答えていました。
話は変わって、滞在中の上田の印象へ。新倉さんは、「先週から上田に来て、いくつかの小学校に演奏を届けてきました。ここ川西地区の川西小、浦里小、そして神科小、豊殿小を回ってきて、子どもたちからとても素敵なイマジネーションをもらいました」とクラスコンサートについて話したあと、会場から近いお蕎麦屋さんで食べたお蕎麦のことや「室賀温泉ささらの湯」に行ったことなど、演奏以外の上田での過ごし方にも言及。
続けて、2曲目のサン=サーンス「白鳥」を「ささらの湯を経験して弾く今日の『白鳥』はとりわけなめらかな“上田スペシャル”ですね」と紹介すると、お客様も笑顔に。新倉さんが上田を堪能している様子が伝わってきた一場面でした。
新型コロナウイルスで気軽に旅行に行けない今、「音楽で旅をしていただきたい」という今夜の演奏会、3曲目はシューマンの「トロイメライ」です。
オリジナルはピアノ曲で、今回はロシア出身のチェリスト、ダニール・シャフランがチェロとピアノで録音したバージョンを下敷きにします。
この曲はドイツ語で「夢、夢見心地」という意味があります。宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』で猫がゴーシュに「ロマチックシューマンのトロメライ」(猫語?)を弾いてくれとせがむシーンがあるそうですが、「先生の音楽を聴かないと眠れないから」という猫の気持ちがよくわかる、優しい夢のような曲想です。
2015年から共演をしているおふたりは、トークも息がぴったり。近年の活動について話します。新倉さんは、歌舞伎俳優の尾上松也さんと司会の仕事でご一緒した縁で、クラシック音楽と歌舞伎のコラボレーション作品として「響―ひびき― セロ弾きのゴーシュより 某(それがし)はセロである」をつくりあげたそうです。尾上松也さんがセロの精を、新倉さんがゴーシュに扮したのだとか。
また佐藤さんも、クラシック音楽と日本舞踊を掛け合わせ、しかも前衛的なバルトークをぶつけるという意欲的な作品に取り組んでいます。
新倉さんの「異ジャンルの方との共演は、ジャンルは違えど同じ高みを目指していることが分かり、その気持ちよさが嬉しいです」という言葉に、佐藤さんも力強くうなずいていました。
4曲目はフォーレの「シシリエンヌ」。クラスコンサートでも出題された、“シシリエンヌ”の意味を問う三択問題が出てきました。1番目は「料理」の名前、2番目は「踊り」の名前、3番目は「好きな人」の名前です。今回は3番目の「好きな人」の名前に票が集まりますが、正解は、2番。シチリア風という名の通り、イタリアはシチリア島の伝統的な舞曲を指します。地中海に囲まれたシチリア島の寄せては返す波のようなスイングが、シシリエンヌの特徴なのだそうです。
ここで佐藤さんのピアノ・ソロが披露されます。曲はリストの「ラ・カンパネラ」。超絶技巧で有名なヴァイオリニスト、パガニーニがイタリアの民謡を翻案し、ヴァイオリン・コンチェルトに取り入れたのが元です。それを、同じく超絶技巧でならしたリストがピアノ用に仕立てたという経緯があります。
「リストが生きていた1800年代のピアノは、今のピアノよりもっと華奢だったんです」と、佐藤さんが時代背景を解説してくれます。リストは、リサイタルの時に3台のピアノを置き、演奏中に壊れると次の1台、さらに壊れるともう1台・・・という演出をしていたそうです。また、黒い手袋をはめてステージ上に現れ、その手袋をピアノにわざと忘れていく・・・ということも。甘いマスクのリストはご婦人方の絶大な人気を集めており、失神者まで出るほどだったと伝えられています。
佐藤さんは過去に「ラ・カンパネラ」の名を冠したアルバムをリリースしており、今回も繊細さと力強さが絶妙なバランスで同居する演奏を聴かせてくれました。
最後となる6曲目は、3月のリサイタルでも演奏される予定のベートーヴェン「チェロ・ソナタ 第2番」より第2楽章です。チェロ・ソナタはどちらかというとチェロが主役になりがちですが、この第2楽章は新倉さん曰く「チェロがオブリガード(助奏)」という趣向で、伴奏楽器として生まれてきたチェロの面目躍如と言えます。ピアノの美しい旋律と相まって、実に優美なソナタでした。
アンコールは、新倉さんが依頼して佐藤さんが作曲した「夜想」という曲です。
新倉さんは、3年ほど前からいろんな方に作曲を依頼するプロジェクトを進めています。佐藤さんにも作曲を依頼し、このコロナ禍に書き上げられました。「どういう音がチェロに、瞳さんに合うか探るところからはじめました」。夜の暗い中を歩くイメージが浮かんで、中間部は3回ほど書き直したそうです。
演奏が終わると、おふたりにひときわ大きい拍手が送られます。
終演後は、「すごくよかったですよね」と談笑し合うお客様、受付でどのCDを買うか迷いながらも楽しげなお客様の姿が見られました。コロナ禍で外出を控えがちな時ですが、どなたも満ち足りた笑顔で会場を後にしていました。
【プログラム】
エルガー:「愛の挨拶」
サン=サーンス:組曲「動物の謝肉祭」より「白鳥」
シューマン:「子供の情景」より「トロイメライ」
フォーレ:「シシリエンヌ」
リスト:「ラ・カンパネラ」
ベートーヴェン:「チェロ・ソナタ 第2番」より第2楽章
〈アンコール〉
佐藤卓史:「夜想」