【 レポート 】上田市立美術館コレクション展Ⅰ 農民美術と児童自由画
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2020年3月14日(土)~7月5日(日) 開催の「2020年度上田市立美術館コレクション展Ⅰ 農民美術と児童自由画」の様子をレポートします。
創造の芽はあらゆる人々の中に宿っていると考えた芸術家・山本鼎(1882-1946)が後半生をかけて取り組んだふたつの美術運動を当時の資料とともに振り返る本展。
2019年、両運動が100周年を迎えたのを機に開催された「農民美術・児童自由画100年展」をご覧になれなかった方のために、
引き続き大正から昭和初期にかけて全国に広がった工芸運動と美術教育に焦点を当てた展示を行っています。
ドイツのバウハウス、柳宗悦の民芸運動と同時代の山本鼎が目指した理想を垣間見ることができます。
展示は大きく4つに分かれています。
まずは山本鼎の本業であった洋画家としての活動をご紹介。
東京美術学校在学中からフランス留学を経て日本で制作に励んだ各時期の代表的な作品で、洋画家としての山本鼎を通観します。
鼎の作品はどれも具体的で実在感があります。奇をてらわず癖のあるタッチでもないところが彼の作風の特徴です。
抽象表現よりも「自然の直写」をモットーとしたことは、作品を見るとより実感として理解できます。
次に明治時代末に「創作(的)版画」という用語の概念や具体的な作例を世に出すことで、版画芸術の確立に努めた版画家としての山本鼎を紹介するコーナー。
彫刻刀を握り始めたばかりの10歳から11歳頃の試し刷りや、20~30代の青年期に「創作版画運動」に邁進した時期の作品が皆さまをお迎えします。
当時は写真や絵画を精巧に複製する木版の技術が重宝されていました。
創作版画の始まりとなった《漁夫》(1988年に後刷りしたもの)と、当時の版木(はんぎ)
ここからは1919年に鼎が始めた美術工芸運動「農民美術運動」について資料をご紹介しています。
農村の副業奨励と創作による文化的生活の向上という一石二鳥を目指し、1919年から1940年ころまでのわずか20年ほどの間に全国に広がった運動です。
「農民美術」とは農村民自らが手仕事で制作した美術的手工品のこと。
そこには担い手であった農村民の素朴な美意識が反映されていて、100年前に生きた人々の息吹が伝わってきます。
特に各地のお土産物として観光地で販売された木片人形(こっぱにんぎょう)は当時の風俗をユーモアたっぷりに表現しています。鼎は農村民には彼ら彼女ら自身の美意識と表現の力があることを世に知らしめたのです。
農民が制作した木片人形たち。当時風俗を反映しています。
農民美術が商品として売れるためにはデザインが大切でした。そのため、山本鼎や彼の画家仲間たちは様々なデザインを考案し、農村民を指導しました。
ここでは様々な農民美術のデザインをご覧いただけます。
山本鼎らの指導により農民自身が考えたデザイン案
最後は子どもたちの感性を愛した鼎の「児童自由画教育運動」をご紹介するコーナー。
現在の創造性・自発性を重視した図工美術教育の先駆となった彼の運動の軌跡を資料とともに垣間見ます。
教科書に示された模範となる絵を「手の動かし方の練習」「筆や鉛筆の使い方の練習」と称して方法だけを教え込む当時の学校教育を疑問視し、先生たちや子どもたちに教科書ではなく直接見たもの感じたことを表現しようと熱心に導いた鼎や全国の教育者たち、そして子どもたちの足跡をたどります。
Text=小笠原正
展覧会詳細はコチラ