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【レポート】群響メンバーによる室内楽演奏会

みる・きく
会場
サントミューゼ

群響メンバーによる室内楽演奏会
2019年6月8日(土)15:30開演  西部公民館 大ホール

 

 

 

7月14日(日)のオーケストラ公演に先立って、“群響”こと群馬交響楽団メンバーによる弦楽四重奏(カルテット)の演奏会を開催しました。

場所は、上田市常磐城の住宅街に位置する西部公民館です。

 

 

 

群響からは、秋葉美果さん、原美和子さん(ともにヴァイオリン)、太田玲奈さん(ヴィオラ)、長瀬夏嵐さん(チェロ)の4名が出演しました。

太田さんは上田市、長瀬さんは中野市の出身です。

 

開場時間前にすでにお客様の長い行列ができており、開演までに100名以上のお客さまがお越しくださいました。

 

モーツァルト作曲の「ディヴェルティメントK.136 第一楽章」で華やかに幕を開けます。

 

 

演奏後、ヴィオラの太田さんがメンバーを紹介します。

7月のオーケストラ公演はチャイコフスキーがテーマ。それに合わせて、今回はチャイコフスキーの楽曲を軸に、群響カルテットの妙味をじっくり楽しめる多彩なプログラムです。

 

2曲目はそのチャイコフスキー作曲のバレエ音楽「くるみ割り人形」から、「マーチ」と「花のワルツ」を演奏。

誰もが一度は耳にしたことのある名曲を、時に軽快に、時に優美に奏でます。

 

次は、オーストリアはウィーン出身のヴァイオリニスト、クライスラーの「愛の悲しみ」と「愛の喜び」。

愛についての対称的な2曲に、クライスラーが込めた思いがにじみます。

クライスラーは1962年まで存命で、本人の演奏による音源も残っているそうです。

 

感傷的で美しい旋律に身を浸した後は、プッチーニの「菊」という弦楽四重奏曲に続きます。

プッチーニといえばオペラ「蝶々夫人」などが有名なイタリアの作曲家です。

 

太田さんが、この曲の背景を教えてくれます。

「プッチーニの作曲家生活を支えたパトロンが急死した時に、故人に捧げるための曲として一晩で書き上げたそうです。イタリアでは、菊はお墓参りの時だけ使われる花です。

日本での菊人形のような楽しみ方とはまた違いますよね」

 

低音から高音まで縫うように奏でるチェロの音色が特徴的で、死者に手向けるにふさわしい、悲しみを誘う重厚な楽曲です。

この曲のメロディーはオペラ「マノン・レスコー」に転用されています。

 

荘重な余韻を残したところで、太田さんが再びマイクを取ります。

「一緒に『わっしょい』って言ってくださいね!」と客席へ声をかけてはじまった演奏は、なんとプログラムにはない「上田わっしょい」。

 

そして、来たる暑い夏の空気を先取りするように、文部省唱歌の「夏祭り」と、中田喜直作曲の「夏の思い出」に続きます。

いずれも日本の楽曲ですが、弦楽四重奏にのせると、ためて聴かせるところ、弾むようなところと緩急が際立ち、夏の空気感が目の前に立ち上ってくるようです。

お客様それぞれに、子ども時代に思いをはせているようでした。

 

 

 

さらに趣向は変わり、今度はアルゼンチンの作曲家、バンドネオン奏者、アストル・ピアソラの名前が出てきます。

 

バンドネオンはアコーディオンに似た楽器ですが、鍵盤がなく、蛇腹と不規則に並んだボタンを使って音を出します。

「難しい楽器のひとつではないかと思います」と太田さんが言う通り、習得が非常に難しく、“悪魔が発明した楽器”とも呼ばれています。

 

ピアソラといえば、アルゼンチンタンゴの名曲を多数残した偉大な作曲家です。

今回は、カルテット向けに編曲された「オブリビオン」と「リベルタンゴ」の2曲が選ばれました。

 

「オブリビオン」は“忘却”という意味です。タンゴ・ヴァイオリンには特殊奏法がいくつかあり、この曲にも弓で弦を引っかくようにキュイキュイと鳴らす箇所が出てきます。

 

“自由なタンゴ”という意味の「リベルタンゴ」は、伝統にとらわれない聴くためのタンゴとして新境地を切り拓いた一曲です。

踊るための音楽だったタンゴに、当時若者に人気だったロックのテイストを取り入れるなどしているのが特徴です。

クラシックへのアレンジは、世界的なチェリスト、ヨーヨー・マの演奏が有名です。

太田さんが「“群響のヨーヨー・マ”夏嵐さんのチェロに注目してください」と笑いを誘い、リラックスした雰囲気の中、演奏がはじまります。

 

タンゴ独特の歯切れのいいリズムは、自然と足を踏み鳴らしたくなる魅力があります。男声で歌うような深いチェロの音色が、心に沁み入ってきました。

 

 

1時間のプログラムはあっという間に最後の1曲に。

最後はチャイコフスキー「弦楽四重奏曲第1番 第2楽章アンダンテ・カンタービレ」で締めくくります。

 

第2楽章はとりわけ有名で、ロシアの作家、トルストイが音楽会で感動の涙を流して聴いていたという逸話も残っています。

2本のヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの美しい響きはこれぞカルテットという醍醐味に満ち、群響の実力を感じさせます。

ひときわ大きい拍手とともに、「ブラヴォー!」の声も飛び出しました。

 

アンコールナンバーは、坂本九さんの歌で大ヒットした「見上げてごらん夜の星を」。

イントロですぐに分かるいずみたくさん作曲のメロディーは、思わず口ずさんでしまいます。

客席のそこここからかすかな歌声が流れていました。

 

 

 

アンコールが終わり、ホールから出てきたお客様は一様に顔をほころばせていました。

「群響は何度も聴いています。今日も楽しかったです」と満足気に話してくださった女性のお客様は、ホールに出てきたヴィオラ奏者の太田さんに声を掛け、談笑していました。

年2、3回は演奏会に足を運ぶという男性のお客様は「どの曲も聴いたことがあるもので、親しみやすかったです」と話してくれました。

 

 

 

【プログラム】

モーツァルト:ディヴェルティメントK.136 第1楽章 チャイコフスキー:くるみ割り人形より マーチ、花のワルツ

クライスラー:愛の悲しみ

クライスラー:愛の喜び

プッチーニ:菊

佐藤勝:上田わっしょい

文部省唱歌:村祭り

中田喜直:夏の思い出

ピアソラ:オブリビオン

ピアソラ:リベルタンゴ

チャイコフスキー:弦楽四重奏曲第1番より 第2楽章アンダンテ・カンタービレ

〈アンコール〉 いずみたく:見上げてごらん夜の星を