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【レポート】長谷基弘ドラマリーディングワークショップ~日本劇作家大会 2019 上田大会 プレ企画

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サントミューゼ

長谷基弘ドラマリーディングワークショップ

4月27日(土)14:00~17:00  at サントミューゼ大ホールホワイエ 4月28日(日)10:00〜16:00  at サントミューゼ大スタジオ

 

東京を拠点とする「劇団桃唄309」代表で劇作家・演出家の長谷基弘さんを講師に迎え、2日間のワークショップが開催されました。

 

 

8月に上田で開催される「日本劇作家大会 2019 上田大会」のプレ企画である今回は、戯曲(劇の上演のために書かれた脚本)の読み解き方や、戯曲をアレンジして読む「ドラマリーディング」を通して演劇の基礎を体験するという内容。

公募で集まった参加者は、演劇班に所属する高校生や大学で演劇を学ぶ学生、演劇部顧問の教員、過去にサントミューゼのワークショップに参加したことがある人などさまざまです。

 

【1日目】
1日目は入門編。まずは体をほぐした後、声を使ったウォーミングアップをしました。

 

参加者に配られたのは、谷川俊太郎による一編の詩。最初に一人一行ずつ、順に読んでいきます。

続いて、自分が担当する一行を「一番小さな声で読む」「だんだん遠くに向かって言う」と変えていき、「人に声を当てる」というテーマでは「ボールをイメージして、直球ではなく高く放物線を描くように」とアドバイスを受け、声の輪郭や温度を意識しながら言葉を発してみます。

 

続いては「いろいろな“隙間”に言葉を入れていく」と、一風変わったテーマ。

壁や床、イスの隙間などを探しては、「口から言葉がペロッと出てくる感覚で」言葉を入れていく参加者たち。さらに、言葉を手のひらに出してから口に入れて「味わう」、話しながら一音一音を「触る」など、体を使って言葉を感じます。

 

 

 

その後もう一度全員で詩を読んでみると、言葉の奥行きや温度感が増し、最初とはまったく違う印象に。参加者からも「物体が広がっていくように情景が見えた」「リズムが見えた」などの声があがりました。

 

「演劇に一番大切なのは、身体性だと僕は思っています」と長谷さん。
「その人の体と言葉が一致すると、体を伴った言葉が届いてくる。言葉の持つ力と体の持つ力、両方でできているのかなと思います」

 

続いて、「ドラマリーディングとは何か」を長谷さんが画像と共に解説してくれました。

 

ドラマリーディングとは役者が台本を手に持ち、一人一役で戯曲を読み上げるスタイルの劇のこと。欧米では盛んに行われていて、長谷さん自身もアメリカで多数の公演を観たり、自身の戯曲を上演してもらったりしたことがあるそう。

上演後は出演者と観客が内容についてディスカッションを行うのが常で、劇作家はそれを参考に、さらに戯曲をブラッシュアップします。つまりドラマリーディングとは最新の作品に触れる場、創作の過程に立ち会う場でもあるのです。

 

「演劇の“完成”とは舞台で上演されることですから、ドラマリーディングは絶対に完成品にはなり得ません。けれど観客はイメージすることができる。それが目指すところです」

 

芝居では舞台上で実際に動きが行われますが、ドラマリーディングで舞台上にいるのは戯曲を読む人のみ。観客は脳内でイメージするため、想像を喚起することが大切です。

動きを過剰にすると観る人の想像とバッティングしてしまうことから、「役者の動きは適当にするのがいい」と長谷さん。

 

「戯曲は、演劇という構造物を作る設計図です。舞台上で起きる行為・行動が時系列順に書かれている。誰が何をする、その次に誰が何をする……と、ひたすら続いていきます」

 

 

長谷さんはこれを「アクションが連鎖する」と表現しました。戯曲の構成要素は「アクション」と「キャラクター(行為の主体)」。

行為には「目的・欲求」「障害」「葛藤」「ゴール」と4つの要素があり、ゴールに向かって積み上げるように行為・行動が続いていきます。

 

ここで、戯曲「ハムレット」の1シーンをグループに分かれて読んでみることに。

一通り読み合わせた後、長谷さんから
「動きをイメージするとアクションの連鎖が起き、次のセリフが言いやすくなる」「笑わせたり怖がらせたり観客の感情を振り回すことで、最後の悲しみが強調される」
など具体的な指導を受けて再度練習すると、行為の連鎖がより分かりやすく表現されていました。

 

また、「グループで打ち合わせを重ねて『このシーンの音はどの方向から、どのぐらいの音量で聞こえるか』など感覚を共有し、行為の連鎖を作ることも大切」と長谷さん。

「『どんなアクションの連鎖か』を読み解くことが、戯曲を読み解くことです」

 

続いて戯曲の構造についても解説しました。戯曲は「前提部」「本体」「エンディング」から成り立っており、本体では、緊張感が高まる出来事=「クライシス」と、リラックスの波が繰り返されることで物語が進んでいきます。

そのテンポは折れ線グラフに表すことができ、「慣れてくると、作品を見始めた段階で『このパターンだな』など分かってくる」のだそう。

 

初日を終えた参加者からは「舞台ほど動きはないけれど、普段無意識にしている動きや呼吸から想像することも多い。演劇にも大切なのでは」「戯曲を作る裏側の話が聞けてよかった」などの声が聞かれました。

 

 

【2日目】

2日目は実践編です。朝からウォーミングアップ後、長谷さんの配役に従って3チームに分かれ、ドラマリーディングの練習をスタート。午後には、チームごと発表を行います。

 

今回取り組むのは、長谷さんによる「和解」「湊川」「渡し船」の3作品。いずれも15〜20分の短編作品です。

役者だけでなく動きや状況を示す「ト書き」を読むステージディレクション役も加わり、グループごと戯曲を読み進めていきます。

 

 

重要なのは、1日目に学んだ「アクションのつながり」と「物語の緩急の波」をつかむこと。単に読み合わせるだけでなく、グループで「ここはどんなシーンだろう」「体の動きは?」と確認し合うことから始まり、「ここをもっと強く言うと次のセリフにスムーズにつながる」「ここは緊張感が高まる場面だから、セリフは少し大げさに」「ここは間を空けてみよう」など、議論を重ねます。

それによりメンバー間で共通理解が深まり、互いの指摘や提案から新たな気づきが生まれ、演技がブラッシュアップされていきました。

 

話し合っていると、つい「なぜこの人物はこういうセリフを言ったのだろう」などと物語の解釈に話が進んでしまうこともありますが、

「解釈は見る人の心に委ねられるもので、鑑賞する側の領域。僕ら作り手がやるべきことは、アクションのつながり、物語の緊張感の波がどういう形かを明らかにして、何らかの形で音声化、身体化していくことです」

と長谷さん。

 

 

さらに、登場人物のある時点の行為・行動が後のアクションにつながっていく「伏線」という視点も解説してくれました。

「短編作品なので、出だしから伏線が登場する前提で読み解いていくと、どうして登場人物がこの言葉を言うかが見えてくるし、どうやればいいかが分かることもあります」

 

長谷さんのアドバイスを踏まえて、何度も稽古を繰り返す参加者たち。

短編ながらも、シーンを区切って話し合い、もう一度全体の構造を俯瞰して……と稽古を反復するうち、あっという間に時間がすぎていきます。

「ト書きの人も含めて、速さや緊張度などいろいろ試してみるといい。合理的に効率良く、『いかに間違うか』が稽古のコツなんです。とにかく試すってことを頑張って」

 

そして発表の時間。出演者は横並びに座るのが基本ですが、座り順も戯曲の構造を効果的に伝える要素のため、グループごと工夫が見られます。

観る側からすると初めて触れる戯曲、しかも受け取るのは言葉のみ。けれど役者の小さな動作が想像力をかき立てること、話す時の顔の向きで誰がどの役かが分かりやすくなることに気づきます。

会話のテンポによって場の空気感が変わり、それが劇全体のリズムを作ること、逆に沈黙が存在感を表すことも新鮮でした。

 

 

さらに、役者の個性が予想以上に際立つことも発見でした。短期間の稽古、しかも声のみで表現するからでしょうか。

その人にしか表現できない世界がそれぞれ立ち上がって交差し、3作品それぞれに魅力豊かな世界が生まれていました。

 

最後に、全員で輪になって2日間を振り返ります。

 

「稽古を見ていると、皆さん思ったことをたくさん話してくれて良かったです。戯曲の解釈と構造の理解は別もの。テレビや映画や舞台を観て、構造の形を明らかにしてみると楽しいですよ」

と長谷さん。

 

 

参加者からは、

「1日目に知った『言葉を触った感覚を大切にすること』を思い出したら、稽古に変化が生まれた」「観客の反応に引き出されて、役のおもしろさが出せた」「普段台本を書いているが、部屋に閉じこもらず、こうして色々な人と読み合わせて考えるのはいいなと感じた」など、多様な視点での感想があがりました。

年齢も環境も演劇経験もさまざまな参加者たちが、ドラマリーディングという日本ではまだ新しい分野を通じて、それぞれに発見やおもしろさを得られたことが伝わってきました。

 

市民参加型の演劇の祭典「日本劇作家大会 2019 上田大会」は8月16日(金)~19日(月)の4日間。

うえだのまちが、演劇で彩られます。

お楽しみに!