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【レポート】高校生と創る実験的演劇工房9th『OUR FUTURE EDUCATION』(演出・監修・指導:多田淳之介)

みる・きく
会場
サントミューゼ

高校生と創る実験的演劇工房9th『OUR FUTURE EDUCATION』

演出・監修・指導:多田淳之介

2022年12月10日(土)・11日(日)

サントミューゼ 大スタジオ

 


 

サントミューゼの大スタジオを舞台に、上田市内の4つの高校から集まった演劇部のメンバー総勢14名が、プロの演出家とともにひとつの演劇作品を創作する『実験的演劇工房』。

今年は演出・監修・指導に、劇作家・演出家の多田淳之介さん(東京デスロック主宰)をお迎えして開催されました。

 

 

【稽古初日】

 

 

初参加の1年生や昨年から引き続きの参加となる2年、3年生など、8名の高校生が参加。

各々のスケジュールの兼合いで少人数での稽古開始となってしまったものの、多田淳之介さんの「できることをやっていきましょう。お互いのこと、最近のことを知っていく時間にしましょう」という言葉とともに、和気あいあいとした雰囲気で稽古初日はスタートしました。

 

 

多田さんの自己紹介ではさまざまな手法で創作された過去の作品解説とともに、演劇に対する多田さんのアプローチや考え方を高校生たちに語りかけ、「みんなが気になっているテーマを観客と一緒に考える時間になる、そんな劇になればいいと思っています」とひとつの創作の方向性を示しました。

 

 

アップで身体を動かした後は、言葉に頼らない無言ゲームや、身体をダイナミックに駆使するゲーム、自宅にいる時の自分を再現するゲームなど、いくつかの「シアターゲーム」に挑戦しました。

シアターゲームを楽しむ中で、言葉が万能ではないという感覚や、人によって受け取り方が変わってしまうこと、コミュニケーション不全になった時にどう対応するかなど、多くの経験を短時間で積み重ねていました。

 

 

 

続いてのグループワークでは「再現性」を体感する取り組みとして、声を出す、悩む、黙るなど、その1分間の中に詰まっている要素を何度も確認して、再現性を高めることに挑戦。

 

「演劇は再現の芸術。同じ現象を舞台で起こしたいから、そのためには忠実に再現することが大事」

 

という多田さんの言葉とともに、楽しみながらも真剣に取り組む姿が印象的でした。

 

「コミュニケーションがうまくいかない、人は万能ではないことを伝えるのも演劇です」という多田さんからのまとめで初日稽古は終了しました。

 

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【稽古10日目】

 

 

 

3つのチームにわかれて具体的な作品創作に取り掛かります。

すでに各チームともやりたいテーマが設定され、構成や台詞をどうするのかという議論が交わされていました。

さらに多田さんの「大枠が決まればセットや照明も決まってくるから」という言葉とともに、全体の見立てや舞台設定についての話し合いも進められていました。

それぞれが思うアイデアを共有しながら、各チームでテーマの方向性の統一をはかっていきます。

 

 

 

続いて各チームが決めたテーマを“授業”として舞台上で表現していきます。

 

各チームのテーマは「子どものしあわせ」「SNS」「多様性」。

 

チーム内でのディスカッションからテーマは導き出せたものの、その先の進行に悩む各チームは、他のチームを偵察したり、全員が黙ってじっくり考え込んだりとさまざまな姿勢で創作に取り組んでいました。

 

 

 

多田さん自身はチームの創作に積極的な関与はしません。

悩みに悩んで、どうしようもなくなったその瞬間を見極めて、スッと声を掛けます。その関わり方はフラットな態度そのもの。

高校生が最も苦手であろう「上から目線」ではない、同じ目線での指導に、参加者たちは全幅の信頼を抱いていました。質問をすれば即座に高校生たちが求める小さなきっかけを提示する多田さん。

 

「高校生と創る」と銘打った企画でも、限りなく「高校生が創る」というニュアンスを尊重しているように見えました。

 

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【公演本番】

 

劇の構成は1時間目から3時間目までの授業と、ホームルーム。

 

 

 

1時間目の授業は「子育て」。

2組の家族が登場し、それぞれの家庭における子育ての方針、子どもに対する接し方などを、子どもが生まれてから進学、就職という人生の節目のやり取りを通して、高校生が普段感じている「親と子の関係性」を描く物語。

親の言うとおりに生きることが子どもにとって幸せなのか、子どもの自主性を尊重した子育てがいいのか。

「子どもの今の幸せが大切か・それとも将来の幸福を願うか」というシンプルながらも奥深い2つの問いを題材とした内容でした。

 

 

 

2時間目の授業は「みんなのSNS講座」。

インスタグラムの迷惑行為や投稿写真あるあるなどを解説しながら、SNSの存在を「ウザい」と思うと同時に離れられない高校生の現実を垣間見ることができる劇構成です。このほかLINE専門家による絵文字講座やLINEの文法説明など、次々とSNSに対する高校生の気持ちを吐露していきます。

最後に「人を不快にさせない・自慢は心の中に留める・自分を客観視する」という3つのルールをぜひ覚えて帰ってくださいというメッセージの提示で授業は終了しました。

このメッセージは観客に向けて発せられると同時に、同年代の高校生たちが日々SNSに抱いている気持ちでもあるのかもしれません。

 

 

 

3時間目の授業は「人間関係」。

世渡り上手になるためのレッスンとなるこの授業では1,2時間目以上に観客と舞台との境界線のない、高校生とさまざまな年代の観客とのやり取りが劇の中心に置かれていました。

自己紹介を観客に批評してもらうという試みから始まり、「見ず知らずの人でも共通点があったら仲良くできるのでは?」という仮説から、好きなおにぎりの具や行ってみたい都道府県などを観客全員に配られたホワイトボードに書いてもらうというコーナー、恋愛相談や、苦手な人と出会ってしまった時の対処法など、人間関係とコミュニケーションを軸においた内容で構成されていました。

 

 

最後は出演者全員が自分のことを20個語る、若さ溢れるアジテーション。

大勢の観客の前で自分のことを語る恥ずかしさや難しさと直面しながら、一生懸命内省をし、自分を見つめる高校生たちの姿はまるで、ミラーボールの輝きと相まって清々しさのある多田淳之介版・青年の主張のようでした。

 

 

舞台を通じて自分の好きなこと・嫌いなこと・情報・思い・哲学を出し切った14名は、稽古が始まった頃よりも少しだけ成長を感じる劇となっていました。